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§ 一家人
小寶貝の三
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しばらくして、ストレッチャーに乗せらた芙蓉姐が、分娩室から出てきた。
半泣き笑顔の詠哥が「頑張ったな!」と、声をかける。うんうんと頷く芙蓉姐は、疲れた様子ながら元気そうだ。
用意された病室は、個室。ベッドの横には、ちょっと堅そうだけれど、人ひとりなんとか横になれそうなソファまである。
こちらでは、夜、家族がお世話のために泊まり込むのが当たり前とのことで、こんな仕様になっているらしい。
テキパキと病室を整えて芙蓉姐をベッドへ異動させ、その合間に家族への指示も忘れない。看護師さんって凄いな。感心していると、待ちに待った赤ちゃんの登場だ。
「わー、ちっちゃい」
「大きかったら出てこれないでしょ」
ベッドの背を起こして座る芙蓉姐の腕のなかで、おくるみに包まれた赤ちゃんは、細目を開けたり閉じたり大あくびをしたり忙しい。
かわいい。
表情を変えるたび顔がくしゃくしゃになる。
ふやけてシワシワの小さな手にそっと手を伸ばせば、触れた途端に親指をギュッと握られた。こんなに小さいのに、案外力は強いんだ。
「赤ちゃんってこんななんだ……かわいい」
「真っ赤でシワシワで猿みたいだよねぇ」
命懸けの出産を終え、感動の新米ママである芙蓉姐は、すでに平常運転。母は強し。ベテランの風格さえ漂わせている。
詠哥はといえば——まだ泣いている。
普段、飄々としているこの人が、こんなに泣く人だったとは、知らなかった。
「詠哥。抱っこしてみる?」
「え? なんで俺?」
「なんでって、あんた父親でしょう?」
「あ、いや……そうなんだけども……」
和やかな芙蓉姐とは対照的に、狼狽している詠哥。
情けないわねしっかりしなさいと、叱咤され眉を下げてる様子がなんだかかわいいけれど。新米パパってこんなもの?
「じゃあ、小鈴。あんた抱っこしてみる?」
「えぇえ? なんで、わたし?」
突然こちらへ振られるとは思いもせず。詠哥を笑っている場合じゃなくなった。
抱っこは、してみたい。でも、赤ちゃんなんて、はじめてだもの。
「寶貝、ほーら、小鈴叔母さんに抱っこしてもらうのよー」
ほーら、と差し出されても、はいそうですかと手を出せるわけがないのだけれど。緊張しているわたしにお構いなく、芙蓉姐に赤ちゃんを押しつけられてしまった。
「ちょ……わ……」
びっくりするほど、軽い。小さくてフワフワ。力加減がわからず落としそうで恐い。
すぐ目の前の小さな目は、わたしの引き攣る顔を不思議そうに見つめている。
「芙蓉姐、寶貝って、この子の名前?」
芙蓉姐が、プッと吹き出した。
「ばかねぇ、違うわよ。赤ちゃんは宝物だから『寶貝』って呼ぶの。名前はね、いくつか候補はあるんだけど、まだ決めてなかったのよ。性別もあえて聞いてなかったし、予定日もまだ先だったしねー」
「そうなんだ」
「媽が口出す前に、さっさと決めた方がいいぞ」
「え?」
「名前だよ、名前」
赤ちゃんの顔を覗き込んでいるカイくんが、ぼそっと言う。
「小鈴?」
「あ、えっと……林媽媽が口を出す前に、名前を決めちゃったほうがいいって……」
一瞬目を丸くした芙蓉姐が、クスクスと笑い出した。
「阿海ね?」
「うん」
いまの芙蓉姐には、カイくんの姿も見えなければ声も聞こえないよう。でも、芙蓉姐はちゃんと、カイくんがここにいるのを知っている。
「あ? ねえ、この子もしかして……」
芙蓉姐の声に赤ちゃんへ意識を戻した。
大きな潤んだ瞳が、一点を見つめている。その視線のすぐ先にあるのは、カイくんの顔。
わたしは確信を持って頷いた。
「うん。この子には見えるのね」
そういえば、子供が小さいうちは、人に見えないものが見えたり、前世の記憶があったりする子もいると、聞いたことがある。
予備知識のない真っ新な状態だから、大人には見えないものが見えるのだろうか。
芙蓉姐も体を起こして座り直し、赤ちゃんを覗き込んだ。
「子供って、不思議ねぇ」
感慨深げに芙蓉姐が微笑む。その時、じっとカイくんを見つめていた赤ちゃんの表情が変わった。
「あ?」
「笑った?」
赤ちゃんがニッコリと、カイくんに笑いかけている。
カイくんも幸せそうに笑って、赤ちゃんの頬をチョンと突いた。
半泣き笑顔の詠哥が「頑張ったな!」と、声をかける。うんうんと頷く芙蓉姐は、疲れた様子ながら元気そうだ。
用意された病室は、個室。ベッドの横には、ちょっと堅そうだけれど、人ひとりなんとか横になれそうなソファまである。
こちらでは、夜、家族がお世話のために泊まり込むのが当たり前とのことで、こんな仕様になっているらしい。
テキパキと病室を整えて芙蓉姐をベッドへ異動させ、その合間に家族への指示も忘れない。看護師さんって凄いな。感心していると、待ちに待った赤ちゃんの登場だ。
「わー、ちっちゃい」
「大きかったら出てこれないでしょ」
ベッドの背を起こして座る芙蓉姐の腕のなかで、おくるみに包まれた赤ちゃんは、細目を開けたり閉じたり大あくびをしたり忙しい。
かわいい。
表情を変えるたび顔がくしゃくしゃになる。
ふやけてシワシワの小さな手にそっと手を伸ばせば、触れた途端に親指をギュッと握られた。こんなに小さいのに、案外力は強いんだ。
「赤ちゃんってこんななんだ……かわいい」
「真っ赤でシワシワで猿みたいだよねぇ」
命懸けの出産を終え、感動の新米ママである芙蓉姐は、すでに平常運転。母は強し。ベテランの風格さえ漂わせている。
詠哥はといえば——まだ泣いている。
普段、飄々としているこの人が、こんなに泣く人だったとは、知らなかった。
「詠哥。抱っこしてみる?」
「え? なんで俺?」
「なんでって、あんた父親でしょう?」
「あ、いや……そうなんだけども……」
和やかな芙蓉姐とは対照的に、狼狽している詠哥。
情けないわねしっかりしなさいと、叱咤され眉を下げてる様子がなんだかかわいいけれど。新米パパってこんなもの?
「じゃあ、小鈴。あんた抱っこしてみる?」
「えぇえ? なんで、わたし?」
突然こちらへ振られるとは思いもせず。詠哥を笑っている場合じゃなくなった。
抱っこは、してみたい。でも、赤ちゃんなんて、はじめてだもの。
「寶貝、ほーら、小鈴叔母さんに抱っこしてもらうのよー」
ほーら、と差し出されても、はいそうですかと手を出せるわけがないのだけれど。緊張しているわたしにお構いなく、芙蓉姐に赤ちゃんを押しつけられてしまった。
「ちょ……わ……」
びっくりするほど、軽い。小さくてフワフワ。力加減がわからず落としそうで恐い。
すぐ目の前の小さな目は、わたしの引き攣る顔を不思議そうに見つめている。
「芙蓉姐、寶貝って、この子の名前?」
芙蓉姐が、プッと吹き出した。
「ばかねぇ、違うわよ。赤ちゃんは宝物だから『寶貝』って呼ぶの。名前はね、いくつか候補はあるんだけど、まだ決めてなかったのよ。性別もあえて聞いてなかったし、予定日もまだ先だったしねー」
「そうなんだ」
「媽が口出す前に、さっさと決めた方がいいぞ」
「え?」
「名前だよ、名前」
赤ちゃんの顔を覗き込んでいるカイくんが、ぼそっと言う。
「小鈴?」
「あ、えっと……林媽媽が口を出す前に、名前を決めちゃったほうがいいって……」
一瞬目を丸くした芙蓉姐が、クスクスと笑い出した。
「阿海ね?」
「うん」
いまの芙蓉姐には、カイくんの姿も見えなければ声も聞こえないよう。でも、芙蓉姐はちゃんと、カイくんがここにいるのを知っている。
「あ? ねえ、この子もしかして……」
芙蓉姐の声に赤ちゃんへ意識を戻した。
大きな潤んだ瞳が、一点を見つめている。その視線のすぐ先にあるのは、カイくんの顔。
わたしは確信を持って頷いた。
「うん。この子には見えるのね」
そういえば、子供が小さいうちは、人に見えないものが見えたり、前世の記憶があったりする子もいると、聞いたことがある。
予備知識のない真っ新な状態だから、大人には見えないものが見えるのだろうか。
芙蓉姐も体を起こして座り直し、赤ちゃんを覗き込んだ。
「子供って、不思議ねぇ」
感慨深げに芙蓉姐が微笑む。その時、じっとカイくんを見つめていた赤ちゃんの表情が変わった。
「あ?」
「笑った?」
赤ちゃんがニッコリと、カイくんに笑いかけている。
カイくんも幸せそうに笑って、赤ちゃんの頬をチョンと突いた。
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