わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ わたしたち、いまさら恋はできません。

03

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「この間さ、お母さんが、見合い話持ってきた」
「へー、おまえ、見合いすんの?」
「するわけないでしょ! だから、家に帰れない」
「なんだよ? 帰ってねえの? 仕事口実に逃げてんのか?」
「うん。家に帰ったら最後、どんなに断ったって見合いさせられちゃうもん」
「やっぱ、どこも同じなんだな。俺ん家もうるせえぞ? うちの周りの同年代の奴ら、ほとんどみんな結婚してるし、子供いる奴までいるだろ? おまえはいつになったら孫の顔を見せてくれるんだこの親不孝者ってかーちゃんに泣かれる。可愛い孫ならひとりいるんだから、もういいって思わないのかね?」
「そりゃ、泣かれても不思議じゃないよ。つまみ食いしかしてないあんたは、たしかに立派な親不孝者だもん」
「おい!」
「だって、本当のことじゃない?」
「くっ…………」
「あははっ! 反論できないでしょ?」

 せめてこのくらい言わせてもらわなければ。これでもまだ言われる方が多くて半分も返してない気がするが、少しでもこの減らず口を言い負かすのは気持ちがいい。

「まあ、なんでもいいけどさ。ホント、面倒臭いよな」
「そうだねえ……」

 面倒臭い。大人になるとは、そういうことだ。

 子供の頃は、とにかく大人の助言を聞き、勉強して、遊んでいればよかった。将来どんな仕事をしたいとか、どんな人と結婚したいとか、先のことなんて考えているようで、実際には何も考えていないのと同じだったと、この歳になってはじめて思う。

 三十歳目前となって、今、立ちはだかるのは現実の壁。

 父や母、親戚、果ては取引先の社長にまで、宥め賺しときには脅しのように、将来を考えろ、いつまでも仕事だけして独身を謳歌しているわけにはいかないのだぞと諭される。

 このままではなぜ駄目なのか。それを問うても幸せとはそういうもの、老後はどうするのだと、一般論しか返ってこない。人生の選択は、個人の自由では済まされないのだろうか。

 結婚なんて現実の問題として考えたいと思ってもいない私が、自分の信念を曲げてまで、周囲の人たちの希望に合わせ、家庭を持たなければならないのか。それが、私の幸せなのか。それが、大人として社会人としての責任を果たすことなのだろうか。

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