わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 嫁にするのも悪くは……ない?

03

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 玄関の開く音がした気がしてモニタから顔を上げると、いつの間に出かけて帰ってきたのか、特大の買い物袋をぶら下げた俊輔がリビングに入ってきた。流し台にどさっと買い物袋を置いて、中から何やら取り出している。

「昼飯買ってきてやったぞ」
「んー、あともうちょっと。先食べてて」

 残りの作業を片付けファイルを保存してどっこいしょと立ち上がり、座りっぱなしで固まった腰を伸ばした。

「まるでババアだな」

 クッションを座布団がわりに座り込む俊輔が、私を見上げて呆れた顔をしている。ローテーブルには弁当が二つとペットボトルのお茶。食べずに待っていたのか。不機嫌そうなその顔は、お預けをくらった犬みたいだ。

「先に食べてればいいのに」
「うるせえ。早くしろ」

 クッションに座り、弁当の蓋を開けながら、美咲ちゃん仕込みの家事能力はこの程度かとフフンと鼻で笑うと、私の考えたことを察したのか俊輔が口を尖らせて文句を言う。

「……料理だけは苦手なんだよ」
「だーれもなんにも言ってないでしょう?」
「おまえの考えてることなんて、すぐわかるんだよ」
「えー、本当に? じゃあ、私が今、何を考えてるか、当ててみて」

 にっこり笑い、いただきますと挨拶をして割り箸をパチンと割り、弁当のご飯と野菜炒めを交互に口にしながら、答えを待った。

 沈黙が長い。長過ぎる。

 黙々と箸を進め弁当の残りも半分ほどとなり、何を話していたかもすっかり忘れた頃、俊輔がおもむろに口を開いた。

「こうしてると、まるで新婚みたいだな」
「ぶっ!」
「ちょ……なにやってんだよ!」

 俊輔が大慌てでティッシュボックスからティッシュを数枚抜き取って私に差し出し、別のティッシュでテーブルを拭いている。私は、ティッシュで口元を押さえ、ゴホゴホとむせ返りながら涙目で奴を睨みつけた。

「ゴホッ……あんたがゴホゴホ……いきなり変なこと言うからでしょう?……ゴホッ」

 カチッと音を立てて蓋を開けてくれたペットボトルのお茶を、俊輔の手から引っ手繰りゴクゴクと喉に流し込む。

「変なことってなんだよ? 俺はただ、おまえが今考えてることを当ててみろって言うから……」
「もういいよ。今は、くだらない話してる暇無いの。さっさとご飯食べて仕事仕事。あんたも美咲ちゃん仕込みの家事してくれるんでしょう? 『家事』終わったら邪魔だからさっさと帰ってねー」

 私の冷たい物言いに傷ついたのか、しゅんとして上目遣いに私を見ている姿に笑いが込み上げてくる。こいつ、本当に犬みたいだ。

 くだらない、なにが『新婚』だ。こいつと結婚なんて逆立ちしたってありえない、まったくの想像外だとあらためて思いながら、残りの弁当を片付けた。

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