わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 嫁にするのも悪くは……ない?

05

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「おい、寝るんだったらちゃんとベッドで寝ろ」

 聞き覚えのあるその声にうっすらと目を開けると、目の前十センチの所に俊輔の顔があった。

「わっ!?」

 びっくりして起き上がると、開かれたカーテンから注ぎ込む眩しい光が目に痛い。

 予想外に仕事が捗ったので、明け方、仮眠を取ろうとソファで横になっていた私は、なぜかまた俊輔に起こされた。咄嗟にソファに転がっていた携帯を手に取り見ると、もう九時近い。携帯のアラームを六時にセットしたはずなのにどうしたのだろう壊れたのかと、焦ってロックを外し、確認していると頭の上で声がした。

「壊れてねえよ。俺が止めた」
「ちょ……なに勝手なことしてくれるのよ?」
「ずっと鳴ってんのに起きなかったのはおまえだろ? 寝られるときはちゃんと寝ろよ。無理に仕事したって効率悪いだけだぞ」
「うっ……」

 こいつの言うとおりだ。もうすぐ三十路。若い頃は三日完徹でも平気だったが、この歳になるとさすがに一晩でも体がきつい。私は、止めなければ5分おきに鳴り続けるのになんで余計なことをするのか、との文句を飲み込んだ。

「おまえ、昨日と同じ格好……。やっぱり風呂入ってねえだろ?」
「へ?」
「へ? じゃねーよ!」

 突然、俊輔の手がするっと伸びてきて、反射的に仰け反る私のジャージの襟首を掴んだ。触れそうなほど近くに顔を寄られ、クンクンと髪と襟元の匂いを嗅がれる。

「くっせー! 何日風呂入ってねえんだ?」
「は? え……っと……二日かな?」
「かな? じゃねえっ! おまえ、それでも女か? 今すぐ風呂入ってこい!」

 そのまま襟首を引っ張り無理やり立たせた私の背中をドンと叩き、お湯張ってあるぞ早く行け、と声を張り上げた。

「お湯張ってある? なんだ。最初からそのつもりで、お風呂用意してくれてたんじゃない」

 口は悪いけれど気が利くな、と、ご機嫌で服を一枚一枚脱いではポンポンっと脱衣カゴに放り込み、風呂場に一歩足を踏み入れるとそこは、天井から床、風呂桶に至るまで、スッキリとピッカピカに磨き上げられていた。

「すっごい……」

 掃除はプロ級じゃないかと感動しながら全身を洗い湯船に浸かる。ちょうど良い湯加減。首までしっかり沈めると、湯船いっぱいに張られたお湯がザーッとこぼれ落ちた。

「ふぅ……気持ちいい」

 いつもはささっとシャワーを浴びるだけ。ゆっくりと湯船に浸かるなんて何年ぶりだろう。しかも朝風呂。贅沢の極みだ。

「おい、生きてるか? 着替えここ置いとくぞ」
「あー、サンキュー」

 洗面所のドアが閉まる音がして、パタパタと足音が遠ざかる。

「嫁がいるってこんな感じなのかな?」

 いつも仕事が佳境に差し掛かると、食事すら覚束なくなる。そんなときは、三人でコンビニ弁当をかき込みながら、嫁が欲しいよねと冗談を言い合っているが、ある意味それは本音だ。

 俊輔は、口は悪いし、料理は自分よりちょっとできるだけだけれど、それ以外は言うことなし。こんなふうに面倒をみてもらえるのは嬉しい。だからといってこのまま済し崩しにあいつのペースに乗せられていいのだろうか。それは、大いなる謎だ。


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