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§ 狡さはおとなの証。
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「僕? 僕は、基本、家でゴロゴロかな?」
「あはは。私もそうですよ。家でゴロゴロ」
「でも……旅行が好きだから、たまに閃いてふらっと出かけることもあるよ。もっとも、休みが少ないから行けても近場なんだけどね」
「へぇ……旅行ですかー、いいですねー。私も好きですよ。でも、暇無くて全然行けてないです」
「そうだよね、忙しくさせちゃってるもんな。ごめんね」
「いやいやいや……そんな。山内さんの所為じゃないですから」
「そうだ。良かったら今度一緒に行かない?」
「え?」
話の雲行きが怪しくなりそうで、彼の所為で仕事がきついわけではないと、必死で否定しつつ浮かべていた笑顔が、今の言葉に驚いて顔面に張り付いたまま引きつり、耳から入った言葉を理解するまでに時差が生まれた。
もしかして、今、一緒に旅行しようと誘われた……のだろうか。
「ごめん。唐突だったかな? あ、そうか。彼氏……いるよね。それじゃあ、やっぱりまずいか」
「いえ、そんなんじゃ……」
「いないの? 彼氏」
「はあ、まあ、今のところ……」
彼氏と言われて思い出すのは俊輔だ。彼氏のような彼氏ではないような。でも、いないと言ってしまったら、それはやはり、嘘……になるのだろうか。
「じゃあ、行こうよ。って……でもまあ、仕事が先だから、今すぐ旅行なんてできるわけないんだけどね。そのうち時間ができたらってことで」
「あ、はい」
そう。仕事が先だ。今仕掛かりのリーフが終わったら、次にはカタログが控えている。きっとそうこうしているうちに、旅行の話なんて立ち消えになるだろう。そう考えれば、適当に流しておくのが一番だ。
「だから……代わりと言っちゃなんだけど、近いうちに夕飯でも一緒にどう? いつも仕事で迷惑かけてばっかりだからさ、お詫びを兼ねてご馳走するよ」
「そんな……お詫びだなんて。こっちこそお世話になってばっかりなんですから、ご馳走させてください」
「決まりだね。いつがいいかな? 金曜の夜なんてどう?」
山内さんは、早速、鞄からスケジュール帳を取り出し、パラパラと眺めながら私に予定を訊いてくる。
やられた。彼のペースに乗せられうっかり口を滑らせた社交辞令が決定打に。いまさら断るわけにもいかない。
「今度の金曜なら、多分……大丈夫だと思います」
「じゃあ、そうしよう。良いお店探しとくよ。時間は、また連絡するね」
「はい。よろしくお願いします」
「あはは。私もそうですよ。家でゴロゴロ」
「でも……旅行が好きだから、たまに閃いてふらっと出かけることもあるよ。もっとも、休みが少ないから行けても近場なんだけどね」
「へぇ……旅行ですかー、いいですねー。私も好きですよ。でも、暇無くて全然行けてないです」
「そうだよね、忙しくさせちゃってるもんな。ごめんね」
「いやいやいや……そんな。山内さんの所為じゃないですから」
「そうだ。良かったら今度一緒に行かない?」
「え?」
話の雲行きが怪しくなりそうで、彼の所為で仕事がきついわけではないと、必死で否定しつつ浮かべていた笑顔が、今の言葉に驚いて顔面に張り付いたまま引きつり、耳から入った言葉を理解するまでに時差が生まれた。
もしかして、今、一緒に旅行しようと誘われた……のだろうか。
「ごめん。唐突だったかな? あ、そうか。彼氏……いるよね。それじゃあ、やっぱりまずいか」
「いえ、そんなんじゃ……」
「いないの? 彼氏」
「はあ、まあ、今のところ……」
彼氏と言われて思い出すのは俊輔だ。彼氏のような彼氏ではないような。でも、いないと言ってしまったら、それはやはり、嘘……になるのだろうか。
「じゃあ、行こうよ。って……でもまあ、仕事が先だから、今すぐ旅行なんてできるわけないんだけどね。そのうち時間ができたらってことで」
「あ、はい」
そう。仕事が先だ。今仕掛かりのリーフが終わったら、次にはカタログが控えている。きっとそうこうしているうちに、旅行の話なんて立ち消えになるだろう。そう考えれば、適当に流しておくのが一番だ。
「だから……代わりと言っちゃなんだけど、近いうちに夕飯でも一緒にどう? いつも仕事で迷惑かけてばっかりだからさ、お詫びを兼ねてご馳走するよ」
「そんな……お詫びだなんて。こっちこそお世話になってばっかりなんですから、ご馳走させてください」
「決まりだね。いつがいいかな? 金曜の夜なんてどう?」
山内さんは、早速、鞄からスケジュール帳を取り出し、パラパラと眺めながら私に予定を訊いてくる。
やられた。彼のペースに乗せられうっかり口を滑らせた社交辞令が決定打に。いまさら断るわけにもいかない。
「今度の金曜なら、多分……大丈夫だと思います」
「じゃあ、そうしよう。良いお店探しとくよ。時間は、また連絡するね」
「はい。よろしくお願いします」
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