わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都

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§ 狡さはおとなの証。

07

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 そうは言っても、こんな私だって彼氏がいたことが無いわけではない。私を良いと言ってくれる人は何人もいたし、この人ならと思った人もいた。実際に付き合いをした相手ももちろん複数いる。

 ただ彼らとの関係は皆、多忙故に音信不通になった挙句の自然消滅または相手の浮気、おまえには愛情があるのか、そんなに好きなら仕事と結婚しろと異口同音に罵られての喧嘩別れと、長くは続かず、家族に紹介するまでには至らなかっただけだ。

 もし、母が、今現在、私に彼氏がいるのだとの確信が持てたら、あのお小言からは解放されるが、間違いなくすぐに会わせろ連れて来いと言うだろう。こんな私をもらってくれるかも知れない相手だ。たとえ誰であろうと、泣いて喜び、大騒ぎすること請け合いだ。

 母が大騒ぎするといえばやはり、あの遠い記憶が蘇る。小五の秋、俊輔との恋を母に知られたあの日学校から帰ると、私を待ち構えていた母お手製の特大ケーキと居間に掲げられた『祝!初恋成就』の横断幕。

 きっと母はすごく嬉しかったのだろう。大人になった今なら、あのときの母の気持ちを理解できなくはない。だが、あんなに恥ずかしい思いは、もう二度と御免だ。

 あの俊輔が彼氏だと言えるのなら、今も一応いることになるのだろう。ただ、あいつと付き合うとはどういうことなのか、そもそも、一度強引にキスをされたきり、甘い言葉も身体的接触も無い今現在の状態が、付き合っていると言えるのだろうかと、疑問に思う。

 確かに、悪い奴ではないのはよくわかっている。どちらかといえば良い奴であることも。稼ぎは知らないが、家事能力は私より上。炊事もまあでき、掃除はプロ級、ブラジャーとパンツを手洗いまでするあいつとの未来を考えることは可能なのだろうか。

「駄目だ……やっぱり勘弁して欲しい……」

 たとえ、おまえは狡い、逃げている、時代に取り残されてると罵られても、やはり私には、たくさん仕事をしてお金を貯めて、離島移住計画でも練る方が、より現実的だ。

「ウッ」

 突然、ドンっと音がして、胸の上に何かが乗ってきた。そろそろと手を出して撫でるとモフモフが気持ち良い。

「みゃー」
「戻ってきてくれたのね。良い子」

 この子がいれば、他に誰もいらない。

 愛しい彼氏を抱き寄せ、顔を齧られながら私は眠りについた。


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