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§ 手を伸ばせば先にあるもの。
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「相手も簡単には諦め切れないから、浅野君、彼女に会わせろとか言われちゃって、あなたが駆り出されるわけだ。相手の子が大人しければいいけど……尤も、大人しい子だったらあなたの出番は無いか……。でもさ、そこまでする子って大抵気が強いから、あなたも嫌な思いさせられること結構あったんじゃない?」
「それはまあ……」
「浅野君もねぇ……、モテるから仕方がない面もあるって言えばそうなんだけど、つまみ食いなんてしないで、最初から断っちゃえばそこまで面倒なことにならないのに」
「そうそう。そうなんです。私もいつも言ってるんですけど、男のサガとか言っちゃって」
彼女もやはりそう思うのだと、思わず拳を握って身を乗り出し大きく頷いた。
「まったく、懲りないのね。そのうち刺されるわよ?」
「ホント、私もそう思います」
そうなったらきっと、刺されるのは私だ。
「でも……」
「でも?」
「でも、浅野君、どうしてあなたにそんな役させるのかしら?」
「どうしてってそれは……たまたま丁度良かったからとかじゃないですか? あいつのことだから、なんにも考えてないですよ、絶対」
「そうかなぁ? 私さ、浅野君って結構鋭くて思慮深い人だと思うわよ? 少なくとも以前はそうだったもの」
「そうなんですか? 私にはただのチャラ男にしか見えませんけど……」
ただ見た目が良いだけのチャラ男、浅野俊輔に対する吉本さんの評価は高い。遊んでいるという部分だけは私と完全一致しているが。
言い寄ってくる女の子に私を会わせるとき、私に何も説明しないのは、彼女たちのプライバシーや尊厳に配慮し、第三者に聞かせるべきではない話をしないだけ。彼は相手を思いやり細やかな心配りができる優しい男なのだと吉本さんは言う。
本当にそうだろうか。
俊輔がそんなに良い奴だというのなら、なぜ、私に対する配慮は無いのだ。あいつは私の気持ちを考えたことがあるのだろうか。
あいつの高評価の原因は、ただの外面の良さとしか、私には思えない。吉本さんの言う俊輔が本当の俊輔であるならば、私の前にいるあのチャラ男はいったい何だ。あれは私といるときだけ見せる顔なのか。
それはつまり、あいつにとって私は、気を使い配慮する価値すら無い女だということか。いや、女だとすら思っていないに違いない。
考えれば考えるほど、ムカついてくる。
「でも……違うと思うな」
「何がですか?」
「うーん……、上手くは言えないけんだど、あの目。浅野君があなたを見てる時のあの目は、私、やっぱり本物だったと思う」
「へ?」
「浅野君は、藤本さんのこと、本当に好きだったんだと思う。今はどうかってところまでは知らないけど、少なくともあのときのあの目は絶対にお芝居なんかじゃなかった」
「そ……そんなこと、あるわけないじゃないですか!」
ダンとテーブルを叩きつい大きな声を出してしまった。ハッとして見回すと、周囲の目が私に注がれている。私はやってしまったと恥ずかしさに縮こまったが、吉本さんはそんなことはお構いなしで笑い転げた。
「あはは。やだー、そんなに勢いよく否定しなくたっていいじゃない? それともあなた……?」
「ち……違います! 私はただ……」
膨れて睨みつける私を吉本さんが手をひらひらと上下に振り、いいから落ち着いてと、ケラケラ笑っている。からかわれたのだ。でも、私はなぜ動揺しているのだろう。
「そうよねぇ……。もし彼が本気であなたのこと好きなんだったら、とっくにどうにかしてるだろうし、未だにそんなことやってるわけないものね。やっぱり私の思い過ごしよね?」
「そうですよ……絶対にありえません」
私は小さな声ではあるが力強く否定し、コソコソとチーズケーキの最後の一欠片を口に入れた。
「それはまあ……」
「浅野君もねぇ……、モテるから仕方がない面もあるって言えばそうなんだけど、つまみ食いなんてしないで、最初から断っちゃえばそこまで面倒なことにならないのに」
「そうそう。そうなんです。私もいつも言ってるんですけど、男のサガとか言っちゃって」
彼女もやはりそう思うのだと、思わず拳を握って身を乗り出し大きく頷いた。
「まったく、懲りないのね。そのうち刺されるわよ?」
「ホント、私もそう思います」
そうなったらきっと、刺されるのは私だ。
「でも……」
「でも?」
「でも、浅野君、どうしてあなたにそんな役させるのかしら?」
「どうしてってそれは……たまたま丁度良かったからとかじゃないですか? あいつのことだから、なんにも考えてないですよ、絶対」
「そうかなぁ? 私さ、浅野君って結構鋭くて思慮深い人だと思うわよ? 少なくとも以前はそうだったもの」
「そうなんですか? 私にはただのチャラ男にしか見えませんけど……」
ただ見た目が良いだけのチャラ男、浅野俊輔に対する吉本さんの評価は高い。遊んでいるという部分だけは私と完全一致しているが。
言い寄ってくる女の子に私を会わせるとき、私に何も説明しないのは、彼女たちのプライバシーや尊厳に配慮し、第三者に聞かせるべきではない話をしないだけ。彼は相手を思いやり細やかな心配りができる優しい男なのだと吉本さんは言う。
本当にそうだろうか。
俊輔がそんなに良い奴だというのなら、なぜ、私に対する配慮は無いのだ。あいつは私の気持ちを考えたことがあるのだろうか。
あいつの高評価の原因は、ただの外面の良さとしか、私には思えない。吉本さんの言う俊輔が本当の俊輔であるならば、私の前にいるあのチャラ男はいったい何だ。あれは私といるときだけ見せる顔なのか。
それはつまり、あいつにとって私は、気を使い配慮する価値すら無い女だということか。いや、女だとすら思っていないに違いない。
考えれば考えるほど、ムカついてくる。
「でも……違うと思うな」
「何がですか?」
「うーん……、上手くは言えないけんだど、あの目。浅野君があなたを見てる時のあの目は、私、やっぱり本物だったと思う」
「へ?」
「浅野君は、藤本さんのこと、本当に好きだったんだと思う。今はどうかってところまでは知らないけど、少なくともあのときのあの目は絶対にお芝居なんかじゃなかった」
「そ……そんなこと、あるわけないじゃないですか!」
ダンとテーブルを叩きつい大きな声を出してしまった。ハッとして見回すと、周囲の目が私に注がれている。私はやってしまったと恥ずかしさに縮こまったが、吉本さんはそんなことはお構いなしで笑い転げた。
「あはは。やだー、そんなに勢いよく否定しなくたっていいじゃない? それともあなた……?」
「ち……違います! 私はただ……」
膨れて睨みつける私を吉本さんが手をひらひらと上下に振り、いいから落ち着いてと、ケラケラ笑っている。からかわれたのだ。でも、私はなぜ動揺しているのだろう。
「そうよねぇ……。もし彼が本気であなたのこと好きなんだったら、とっくにどうにかしてるだろうし、未だにそんなことやってるわけないものね。やっぱり私の思い過ごしよね?」
「そうですよ……絶対にありえません」
私は小さな声ではあるが力強く否定し、コソコソとチーズケーキの最後の一欠片を口に入れた。
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