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§ すべてはここから始まった。
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「なんで泣いてんの?」
濡れた頬を拭う俊輔の手を払いのけ、上体を起こし背を向けて座り直した。こんな顔、こいつに見せるなんて、絶対に嫌だ。
「別に、泣いてないもん」
急いで俊輔から離れたくてベッドの淵に手をかけ立ち上がったところを、後ろから腕を回されベッドへ引き摺り込まれた。
覆いかぶさってくる俊輔から逃れようともがいても、力ではまったく敵わない。私の目を見つめたまま、確かめるように頬を撫で回すその手を拒むこともできなかった。
「やっぱり泣いてる。どうした? 何かあったのか?」
「なんでもない」
その優しい声にうっかりすると震えそうになる唇をキュッと結び、唯一動かせる顔を背けたが、顎を掴まれ、強引に引き戻された。掴まれた顎の痛みでせっかく乾いた涙がまた出そうだ。
「なんでもなくて泣くかよ? なんだよ? 俺に隠し事すんの?」
「隠し事って……元々あんたになんでもかんでも喋ってるわけじゃないし」
「それは前の話だろ? 今は言えよ全部。隠し事は無しだ」
「よく言うよ。あんたは隠し事ばっかりのくせに」
「なんだよそれ? 俺はおまえに隠し事なんてねえぞ?」
こいつは他人事みたいな振りをして、どこまでも隠し通す気なのか。すっとぼけたもの言いに、だんだん腹が立ってきた。
「ほら、やっぱり隠し事してるじゃない!」
「だから、俺は……」
「嘘つき!」
「あーもうっ!」
俊輔はイライラした様子で私を押さえつけていた身体を離し、仰向けに横たわった。面倒臭そうに顔を背けた後頭部から、話したくないオーラが漂ってくる。
やはり、こいつには私に言えない秘密がある。つまり、他にも女がいるのだ。
「……わかったよ。言えばいいんだろ? 言えば?」
ほらね。だから言わんこっちゃない。ぎゅっと絞られるような胸の痛みを堪えようと息を止め目を閉じる。
「言っとくけど、もう時効だぞ? 昔の話だから何も言うなよ」
そう前置きをして俊輔の口から出てくる言葉に、空いた口が塞がらなくなった。
「小五と小六のバレンタインデーんとき、机の中にこっそりチョコ入れてくれたのがおまえだって知ってる。ほとんど美咲に取られたけど、ちゃんと食った。それから、おまえの誕生日に下足箱にキーホルダー入れたのは俺だ。それから、高校のときもおまえが学校から帰ってくる時間見計らって、おまえん家の前の公園ウロついてた。それから……」
「まだあるの?」
「いや、あるっていうか……そうだ。中二のときにお袋からおまえが高熱出してぶっ倒れてるって聞いたから、俺からだって絶対言うなって念押しして美咲に苺持っていかせたこともあったな」
「ちょっと待って! 苺って……あの苺? あれ、あんたの仕業だったの? ええ? でも、なんで?!」
「なんでって……おまえ苺好きだろ?」
あの苺は、四十度の高熱が一週間続き、あわや肺炎かと皆が大慌てしていたあのとき、偶然顔を合わせた母親同士の立ち話で私の病気を知った美咲ちゃんが、お見舞いに持ってきてくれたのだった。
もちろん、水以外は何も受け付けずトイレにすら這っていっていたあのとき、苺なんて口にできるはずもなく、一度見せられただけで、それは何処かへ消えたのだが。
そして、もうほとんど付き合いもなかったのになぜ今頃と不思議に思ったものだ。でもまさか、それを指示していたのが俊輔だったなんて。
それどころか、自然消滅後の小五、小六、中学、高校って、こいつは、私の知らないところでいったい何をやっていたんだ。実はストーカーでしたと言われても文句は言えないぞ。
いや違う、昔話でごまかされてどうする。重要なのは現在だ。
濡れた頬を拭う俊輔の手を払いのけ、上体を起こし背を向けて座り直した。こんな顔、こいつに見せるなんて、絶対に嫌だ。
「別に、泣いてないもん」
急いで俊輔から離れたくてベッドの淵に手をかけ立ち上がったところを、後ろから腕を回されベッドへ引き摺り込まれた。
覆いかぶさってくる俊輔から逃れようともがいても、力ではまったく敵わない。私の目を見つめたまま、確かめるように頬を撫で回すその手を拒むこともできなかった。
「やっぱり泣いてる。どうした? 何かあったのか?」
「なんでもない」
その優しい声にうっかりすると震えそうになる唇をキュッと結び、唯一動かせる顔を背けたが、顎を掴まれ、強引に引き戻された。掴まれた顎の痛みでせっかく乾いた涙がまた出そうだ。
「なんでもなくて泣くかよ? なんだよ? 俺に隠し事すんの?」
「隠し事って……元々あんたになんでもかんでも喋ってるわけじゃないし」
「それは前の話だろ? 今は言えよ全部。隠し事は無しだ」
「よく言うよ。あんたは隠し事ばっかりのくせに」
「なんだよそれ? 俺はおまえに隠し事なんてねえぞ?」
こいつは他人事みたいな振りをして、どこまでも隠し通す気なのか。すっとぼけたもの言いに、だんだん腹が立ってきた。
「ほら、やっぱり隠し事してるじゃない!」
「だから、俺は……」
「嘘つき!」
「あーもうっ!」
俊輔はイライラした様子で私を押さえつけていた身体を離し、仰向けに横たわった。面倒臭そうに顔を背けた後頭部から、話したくないオーラが漂ってくる。
やはり、こいつには私に言えない秘密がある。つまり、他にも女がいるのだ。
「……わかったよ。言えばいいんだろ? 言えば?」
ほらね。だから言わんこっちゃない。ぎゅっと絞られるような胸の痛みを堪えようと息を止め目を閉じる。
「言っとくけど、もう時効だぞ? 昔の話だから何も言うなよ」
そう前置きをして俊輔の口から出てくる言葉に、空いた口が塞がらなくなった。
「小五と小六のバレンタインデーんとき、机の中にこっそりチョコ入れてくれたのがおまえだって知ってる。ほとんど美咲に取られたけど、ちゃんと食った。それから、おまえの誕生日に下足箱にキーホルダー入れたのは俺だ。それから、高校のときもおまえが学校から帰ってくる時間見計らって、おまえん家の前の公園ウロついてた。それから……」
「まだあるの?」
「いや、あるっていうか……そうだ。中二のときにお袋からおまえが高熱出してぶっ倒れてるって聞いたから、俺からだって絶対言うなって念押しして美咲に苺持っていかせたこともあったな」
「ちょっと待って! 苺って……あの苺? あれ、あんたの仕業だったの? ええ? でも、なんで?!」
「なんでって……おまえ苺好きだろ?」
あの苺は、四十度の高熱が一週間続き、あわや肺炎かと皆が大慌てしていたあのとき、偶然顔を合わせた母親同士の立ち話で私の病気を知った美咲ちゃんが、お見舞いに持ってきてくれたのだった。
もちろん、水以外は何も受け付けずトイレにすら這っていっていたあのとき、苺なんて口にできるはずもなく、一度見せられただけで、それは何処かへ消えたのだが。
そして、もうほとんど付き合いもなかったのになぜ今頃と不思議に思ったものだ。でもまさか、それを指示していたのが俊輔だったなんて。
それどころか、自然消滅後の小五、小六、中学、高校って、こいつは、私の知らないところでいったい何をやっていたんだ。実はストーカーでしたと言われても文句は言えないぞ。
いや違う、昔話でごまかされてどうする。重要なのは現在だ。
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