隠伏の魔法使い

六菖十菊

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「ザレ?」

ロンが疑問形で敬称も付けず復唱する。
けれどザレ様は気にしていない様子だ。
少しホッとしたけれど、問題はそこではない。

「ザレ様ほどの方がなぜここに?」

いつもは豪奢な銀の装飾品が指に腕に首にと飾られ銀色の髪と瞳は輝くようなザレ様が今日はローブを被り装飾品もせず──まるで潜むようだ。
けれども振舞いはやはり気質が現れているのか厳かだ。

「サーマスがお前を見かけたと──けれど近づけばお前を連れて帰らなくてはならない。だからあの方に伝える前に私にお前の居場所を教えた」

「──あの時にサーマス様にはもう知られていのたですね……」

「もしかして──オリヴィアが言っていた偉大なる魔法使いがお前か?」

「‼︎ ロン‼︎ お願いだからそんな口を聞かないで」

「──だから──オリヴィア。お前が悪い。この男は何も分かっていない。それはお前の嘘が原因だ」

「──はい」

「嘘?──まだ嘘があるのか?」

オリヴィアの嘘の多さに流石に呆れている。
もうオリヴィアに聞く気はないようだ。
直接、ザレ様に声を掛ける。

「ロン!」

ザレ様が良いと目線で訴える。
悪いのはオリヴィアなのだから何も言えない。

「オリヴィアの嘘とはなんだ?」

ザレ様はオリヴィアが隠伏している事を、気にも留めず言う。

「オリヴィアは魔法使いではない」

その言葉にオリヴィアは下を向く。
ロンがこっちを向いているのが分かるけれど、顔を向けられない。

「じゃあなんなんだ?魔法使いでもない、ただの人間のオリヴィアを何故追いかけてくる?」

ロンの言葉に更に追い討ちをかけられる。

「オリヴィアは魔法使いではないが、ただの人間でもない」

「じゃあ──」

「女神だ」

ロンの思考が停止したのが分かる。

「女神?」

「そうだ。そして私は月の神。そうだなサーマスは雷の神だ」

「……ザレ様。シィ様は──シルド様はお元気でしょうか?」

「──問題ない。シルドは雨の神、雨は巡るもの。多少あの方のお叱りを受けても地下に逃げ込みおった」

ホッとした。
それが一番の気掛かりだった。

「──ではオリヴィアは何の女神なんだ?」

つゆの女神だ」

「じゃあ──オリヴィアを囚えていたのは?」

ロンのその言葉には答えずにザレ様は此方を向く。

「オリヴィア。もう限界だ。夜の女神ユネコも朝の神のキランもお前を不憫に思い、お前をあの方から隠した。けれどもう──特にキランもサーマスも……私もあの方の眷属である分、もうこれ以上はお前に手は貸せない。ここにいれば見つかる。逃げるのなら今は見逃す。けれど次にお前を見つければ私はあの方にお前を引き渡す」

「──こんな私如きに偉大なる方々がお力をお貸ししてくれていたのですね」

納得がいった。
だから半年も逃げ切ることが出来たのかと。

「ザレ様。もう──私に逃げ場はないのはザレ様が一番ご存知の筈」

「──そうだ。もうお前に逃げる場所はない」

「なら……あと一日下さい。あの方にとって私の一日なんて取るに足らない時間のはず」

「そうだが……きっと一日は無理だ。あの方の気性を知っているだろう?神は魔法使いとは違う。気紛れで力そのものが個性だ」

「──では夜明けと共に。夜明けは私の力が一番潤う時。そして夜も──」

「夜露は癒しを──朝露は美しさを引き出すからな。オリヴィア。お前は光にも闇にも愛される稀有な存在。夜の神も、朝の神も、月の神である私も──誰もがお前の幸せを願っている。それだけは──本当だ」

膝を折り、改めて敬服の意志を示す。

「ありがとうございます。ザレ様たちのお心遣いで私は今まで見れなかった景色をこの半年見ることが出来ました。オリヴィアは──今、とても幸せです」

「そうか」

その声を最後にザレ様は消え、部屋にはオリヴィアとロンだけが残った。

「──本当なのか?オリヴィアは女神で──明日の朝にはこの世界からいなくなるのか?」

「──ロン。ごめんね、嘘ばかりついて。けれどこれは──本当かな」

「だから──ごめんロン。私はこの最後の夜をギルフォードと過ごしたい。お願いよ」

「──隊長は知らないのか?オリヴィアが女神だと」

「うん──」

「明日いなくなることも?」

「──そうだね」

「帰ればまた囚われるのか?」

「きっとね──私とあの方は寿命が違うの。私は露の女神。夜に生まれ朝に輝き、そして消えていくもの。永遠とも思える時を過ごす神々の中でも私は極端に寿命が短いの。人間と同じくらいかしら。だからあの塔に閉じこれられた。あの塔は時さえ届かない塔。私は死なない為に、あの塔で過ごさなければならない」

「──1人で?そいつもそこに?」

「あの方は力が強すぎて、弱い私に触れられない。あの方が触れれば私はきっとすぐに消えちゃうわ。それでも──よかったの。あの方に憧れて愛しくて──その一瞬の日をひたすら待った。けれどあの方が私の元に訪れることはなかった。この永い月日──あとどれだけ待てば私の元へ来てくれるのか……だからシィ様が助けてくれた時の〈健やかに生きろ〉あの言葉は──死んだように生きる私への餞」

「オリヴィアはまだそいつが好きなのか?それとも隊長を?」

「──この国に来た時は、ずっとあの方が迎えに来てくれる事を願ってた。怒り──もう滅茶苦茶に私に触れて欲しかった。誰とも触れ合えない時間を何百年と生きた私にはロンの指やギルフォードの掌を触れている時間は宝物だった。ごめんね。あれは私が触れたかったの。貴方達に。誰かと触れ合いたかった──今はギルフォードに触れたい。ギルフォードに触って欲しい」

「じゃあ、隊長に抱かれるのか?」

流石にロンは大胆な言い方をする。

「抱かれないわ。もし抱かれれば私はその一夜を糧に生きていくけれどギルフォードはその一夜の為に全てを失うかもしれない。そんなの酷い話ない。だけど──一緒にいたいの。ごめんロン。私をギルフォードの所へ行かせて」

ロンが考え込むように下を向く。
けれどさっき迄の怒りの熱は感じない。
冷静に考えてくれている。

「オリヴィアは嘘をつき過ぎだ」

「ごめん」

「せめて──隊長には本当のことを話すんだ。騙されて選んだ選択だけを見ないでくれ。本当の俺の──俺たちの選択を信じて欲しい」

「──うん」
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