隠伏の魔法使い

六菖十菊

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ベースノート

023 ギルフォード

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──その言葉に誰もが言葉を紡げない。
オリヴィアの嘘は魔法使いではなく女神だった。
そしてオリヴィアを幽閉した相手が光の神……。
恐らくどの世界線でも光が最高位に属するのではないかと思う。
この国の神話も男神の系譜を辿れば光から始まる。

「オリヴィアと取り引きをしたのなら、今度はわたくしとせよ」

王妃が食い下がる。
正直、口を挟みたいけれどどうすればよいのかまるで分からない。
こんな混乱した感情に蝕まれたままオリヴィアを連れて行かれるのはダメだ。
そう思うのに──情けないことにこの男の存在に身体が屈服している。
畏怖すべき相手だと心も訴えてくる。
それ程までにこの男の存在は格別だと思い知らされる。
それなのに必死にこの男に食らいつく王妃に感服する。
王妃の普段からの威厳や風格が本物だと知らしめる。

「ジョエスタが私に何を渡せると?貴方の命?この国の全て?」

嘲笑を見せる。
王妃は流石に返す言葉も出ないのか押し黙る。
そんなものに価値はないと──私たちの大切な物など、この男には無価値だと。
けれどその言葉に気づかされる。
この男は──オリヴィアだけが欲しいと言っているように聞こえる。

──この男は自分と同じだ──
オリヴィアに恋をする一人の男だ。
そう思えると漸く言葉を紡ぎ出せた。

「愛するものの願いを叶えるのが恋をする男の条件です」

初めて此方を見た。
その瞳は一層に冷ややかだ。

「愛する女性と取り引きはしません。するのは約束や愛を捧げてることだけ──そうは思いませんか?」

「ギルフォード!止めて。私は明日には帰る予定だった。ジョエスタ様も気にされる必要はないの」

「──そう本人が言っているが?」

頬に当てた手が気怠さを現している。

「幽閉される為に帰りたい者がいると思うのですか?オリヴィアの言葉を叶えて頂けるのなら……オリヴィアが帰りたくないと言えば──手離してくださると考えて良いのですね?」

嘲笑の唇を開くかと待ったが彼は──言葉を返さない。

「オリヴィア。君はどうしたい?このままこの国に残ると言ってくれないだろうか?──私の側にいてくれないか?」

光の鳥籠に包まれてるオリヴィアに近寄る。

「オリヴィア──愛しているんだ」

その光に触れても熱くもないし物質を感じることは出来ないけれどオリヴィアをその籠から出すことは出来ない。
オリヴィアへと腕を伸ばす。
手を──とって欲しい。
触れて感じて欲しい。
じわりとした温かさを、
切ない思いを、
吸い付くような肌の感触を──
瞳が触れるだけの遠くから眺めるだけの恋とは違うことを知って欲しい。
オリビアがそっと手を出す。
ゆっくりと──まるで人を怖がる子犬のようだ。
その手を取り、指先を握りしめた瞬間に──
分かってしまった。

知りたくなかった。
オリヴィアが嘘つきなのならその心も隠伏して欲しかった。
──その吸い付くような肌に若干の拒否感。
この感覚は今までなかった。
リヴィアの時でもだ。

なら──今、彼女を無意識にでもそうさせるのは……
きっと〈好きな男の前〉という嘘つきのオリヴィアでさえ隠せない本能だろう。
諦めきれず引き寄せ──キスをする。
やっぱり違和感を感じる。

「ギルフォード──ごめんなさい」

〈愛するものの願いを叶えるのが恋をする男の条件です〉
自分の言葉が刃となって返ってくる。

──胸が痛いよ──オリヴィア──



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