隠伏の魔法使い

六菖十菊

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ベースノート

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「君が反対の立場なら私を殺せる?」

「──殺せるわ」

「──オリヴィアは嘘つきだね。私の気持ちなんて分かろうともしない。尤も、私も似た者同士だけれどね」

腕を伸ばすけれど触れない位置で止まっている。
こんなの──拷問と何が違うのだろう?
欲しいモノを目前でお預けなんて、もうオリヴィアが憎いとしか思えない。

「私に触れたい?」

「──ええ」

「抱きしめで欲しいの?」

「そうよ」

「口づけして欲しいって?」

「──そうよ!貴方にキスをして──貴方の髪に触れ指を通し、その瞳にキスしたい!──貴方に抱かれたい……願いはそれだけよ……」

「オリヴィア──私の願いも同じだ」

一歩近づく。

「イス──」

やっと──触れられる。
早く──この籠を無くしてほしい。
彼に触れたい。

「──そう思ってた。けれど私の一番の願いは違った。違ったんだ──」

彼が一歩後退する。

「──やだ──やだよ?この籠を壊して!」

イス様は泣き叫ぶオリヴィアをもう見ない。
やだ‼︎ 行かないで‼︎

「ギルフォード。オリヴィアは私をこんなにも愛している。それでも側にいると?一生愛は与えられないかもしれないよ?」

「私はそれでも貴方と同じ──もうオリヴィアしか愛せない」

「それは──可哀想だね」

イスがギルフォードと苦笑している。
何?何の話をしているの?

「けれど、せめてチョウヨウ様にお引き渡せばオリヴィアは不老長寿となり死で別つことはなくなります。生涯、見守ることが出来ます」

「それはどんな拷問だい?──こんなに苦しい想いは100年も要らないよ──オリヴィアは露の女神。露は何かに触れていないと自身の在り処さえ朧げな存在。彼女にあの塔はもう──限界だった。シルドはそれを感じオリヴィアが壊れる前に連れ出した。けれど私は──どれだけ強い神と称えられようと──私ほど弱い者はいない──」

再びオリヴィアに向けたイスの表情に泣きたくなる。
あのイスが微笑む。
今まで私にそんな顔を向けた事がない。

「オリヴィア。君の願いは叶えられない。私は叶えられない。愛する女の願いを叶えるのが恋する条件ならば──私にその条件は叶わない」

「イス──私を愛して。お願いだから……」

「他の男のものになってもいいと──例え愛する女が他の男の為に死を望んでも叶えようなんて──到底思えない。狂気の沙汰だよ」

「ジョエスタ。私のオリヴィアを再び詰る者が在ればこの国、この世界──消え失せるかもしれないけれど良いね?」

「このジョエスタ。陛下と御子と共に生涯を掛けてオリヴィアを幸せだと──笑って暮らせる人生にして見せます」

話がどんどんと進んでいく。
嫌なのに。
誰もオリヴィアの話を聞いてくれない。

「オリヴィア──所詮、露の女神が光の神には敵わない。皆、私の言葉に耳を貸すよ。私も露の女神の願いより私の願いを優先する」

「シルド──オリヴィアの記憶を洗い流せ」

「‼︎ やだ‼︎ シィ様‼︎ 忘れたくない。イス様!もう我儘を言わない!あの塔に幽閉されてもいいから貴方のことを忘れたくないの!お願いよ!」

「イス様──記憶を消さずとも良いのでは──?」

オリヴィアの嘆きにシィ様が歩み寄ってくれる。

「私を心に宿しながらも他の男を選ぶオリヴィアの姿を見よと?──せめて──〈記憶がないのだから仕方がない〉と──思わせてはくれないのか?」

記憶を消すのはイスの為だと言われてもそんなの知らない。
どこまでも自分勝手な方なのか。

「誰も選ばない!私は貴方だけよ。だから──お願いよ──忘れたくないの──イス──お願いよ……」

振り返らない彼が憎らしい。
せめて──その金の瞳を見せて。
私の愛したその瞳を。

「オリヴィア──健やかに生きよ。儂もイス様もお前を愛しておる。それは心の奥底に在れば良い」

光の鳥籠の中にだけ雨が降る。
細い銀糸のような雨が。
オリヴィアを濡らし何かを洗い流す。
削ぎ落とされる感覚に涙が出るけれど、もう涙なのか雨なのか──何が悲しいのか──分からなくなっていく。

「オリヴィア。愛する者の願いを叶えるのが恋する条件なら──イス様の願いはオリヴィアの幸せ。お前は幸せになれ。それがあのお方の望み。それが餞。それがお前の恋心の証──触れることさえ叶わなかった二人の愛の証」

その言葉を最後に意識は遠のいた──
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