隠伏の魔法使い

六菖十菊

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「──シィ様」

もう泣きすぎてどれがどの涙かなんて分からない。
けれどもシィ様に出会えたこの喜びを感じられる。
オリヴィアの方を向くも、すぐにイス様に跪く。

「──シルド──何しに来た?呼んではいないよ」

イス様の言葉に静かに顔を上げる。

「貴方様とオリヴィアの願いを叶えれる策はないかとこれまで多くの世界を巡ってきました。そして──この世界とは別の世界の神である菊の神チョウヨウ様の存在を知りました」

チョウヨウ様?お聞きしたことがない神様だ。
菊の神様と言うのだから花神だろう。

「シルド。その神は必要ない」

「──存在を知っておられたのですか──貴方様となれば別の世界も関係ないのですね……それなら尚更、せめてオリヴィアの為にも──」

私の為?チョウヨウ様と私になんの関係があるのだろう。

「オリヴィアの為?違う。オリヴィアにまた新たな苦難な選択を強いるだけだよ」

「シィ様──シルド様教えて。自分で選べる選択肢があるのなら知っておきたいの」

小さな身体のシィ様が立ち上がってもそれほど変わらない。白い髭が以前より更に増えてモコモコだ。

「チョウヨウ様は東の世界におられる菊の神様であり、その神は〈菊の露〉という不老長寿の露を作り出す事が出来る。短命なオリヴィアをイス様や儂たちと同じように伸ばすことが出来る。そうすればあの塔に幽閉される必要はない──がその為には──」

シィ様が口を瞑る。

「オリヴィアはチョウヨウ様に嫁ぎ交わらなければならない。菊の露は二人が交わることで出来るのだから」

意外な内容に度肝を抜かれる。

「──チョウヨウ様はご存知なの?」

「イス様の──光の神の所望ならオリヴィアを妻に迎えると仰った。けれど問題は数多くある。一つはチョウヨウ様のお力が一番強いのは九月の九日。今年はもう無理じゃ。そして──オリヴィア。お前は塔に幽閉される必要はなくなるがチョウヨウ様の妻になる。またそれでも──イス様の力の強さには贖えない。お前は未来永劫イス様に寄り添うことは出来ない」

「──私は誰かの妻になろうと、不老不死の妙薬を得ようとイス様に触れることは叶わないのですね──」

「オリヴィア。それがお前の性質。どうあっても互いの願いは相容れぬ。だが──歩み寄ることは出来る。オリヴィアは未来永劫塔に幽閉されることはなくなり、シス様はオリヴィアの苦痛を少しだけ和らげて差し上げる事ができます──イス様にはあまり良い案ではございませんが……このままではオリヴィアは壊れてしまう。オリヴィアは露の女神。誰にも何にも触れさせないのは死と同じ。チョウヨウ様は菊の神。オリヴィアとは相性の良い相手。例え愛情は無くともきっと──健やかに生きられる」

「私がそれを許すと思うのかい?」

「──今回のオリヴィアの逃亡を見逃したのは貴方様なりにオリヴィアを想ってのこと。何卒──オリヴィアに健やかな未来を──」

膝を折るシィ様の願いが汲み取れる。
けれど──

「シィ様。ありがとうございます。けれどチョウヨウ様の妻になる事はありません。私はイス様に触れられないのなら塔の中も外も同じ。それならせめて短命な方がいい。こんな苦痛を長引かせたくない」

「──みなの想いでぐちゃぐちゃよ。けれどわたくしはギルフォードの意見に賛成じゃ」

ジョエスタ様の言葉に反応する。
ギルフォードもシィ様も──イス様でさえ横目で見据える。

「ギルフォードは言った。〈愛するものの願いを叶えるのが恋をする男の条件〉だと。オリヴィアの願いは一つ。好いた男に抱かれること。それが叶えられぬのならイスよ去れ。お主の想いは失恋よりもなお酷い。恋の傷は癒されることもある。その者を愛するものが側にいれば心穏やかに過ごせることもある──新たな愛が芽生えることもある」

「私にその姿を──オリヴィアが他の男に愛される姿を眺めていろと?」

「数百年とオリヴィアを閉じ込めたお主への罰にしてもまだ温い。それに──愛する女に自分の業を背負わすのは見るに耐えぬ。それなら──オリヴィアの願いを叶えよ。例え一瞬だとしてもお主と触れたいのがオリヴィアの願い。女には死よりも辛い事がある」

「私は死ねないから──死ぬ辛さは分からないよ。分かるのは残される辛さだけだ」

そう呟く彼に申し訳ないけれど──私は私の望みを捨てられない。
何度でも望んでしまう。

「イス──お願いよ。貴方に触れたいの」

──彼が玉座から立ち上がる。
ゆっくりとオリヴィアに近づく。
その美しさを瞳に焼き付ける。
その瞳に自分が映る事を望み──その腕に抱かれたいと何度も願った。
貴方に口づけされるのなら死んでもいいと──何度も何度も願った。

「オリヴィア──残酷な女神様」

オリヴィアの目の前に立つイスはそう微笑んだ。
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