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知れば、知られる

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この日の侑梨はゆるく編み込んだ髪ををまとめてアップにし、シンプルな黒の7部袖ワンピースとパンプスとアクセントに首にスカーフを巻いた。
なんてことはない。
あまりアクセサリーを持っていないからだ。
マウロはパーティ序盤からはきっと来ないだろう。
けれど侑梨は見逃さまいと開始前からロビーで待った。
続々と訪れるパーティ客にマウロを探すが見当たらない。と、急に腕を掴まれた。
「侑梨ちゃん!」
焦りの声は先日出会った櫂さんだった。お互いそれ以上声が出ない。侑梨はここにいる理由を誤魔化す術に頭を巡らす。そうか…マウロとの同業者なら櫂さんがこのパーティに来る可能性もあったんだ…。
「侑梨ちゃん!どうしてここに?」
焦りが見える櫂さんは少し声が大きくなっている。
「…櫂さん…〈ちゃん〉付けをやめて…子供っぽくて恥ずかしい…」
周りの視線が釘付けの状態だ。
この年齢でのちゃん付は煌びやかな衣装の中、シンプルな装いの自分を余計に幼く感じさせ恥ずかしい。
少しムッとしたように見えた櫂さんが冷静さを取り戻したように声を抑えた。
「侑梨、どうしてここに?」
…これはこれで…なんというか腰が抜けそうだ。
顔を赤らめている場合じゃない。櫂さんは真剣な眼差しだ。
「えっと…」
どうしよう言い訳が思いつかない。
「侑梨」
だから‼︎ 彼の声にときめいている場合じゃないの侑梨。
焦れた櫂さんが私の腕を掴み引っ張った。
帰らすつもりだ。…気づかれた?
引かれる腕に体も引っ張られる。
どうしよう。言い訳を考えないと。
「私がご招待したのよ」
綺麗な女性の声だった。
そこには先日のマウロの情事のマダムがいた。
「高崎夫人…」
そう呟いたのは櫂さんだった。
「先日、彼女に助けて頂いたの。そのお礼に今日は、
わたくしが招待したのよ。ねぇ?」
夫人は優雅な微笑みで問いかける。
「…はい」
そう答える私を櫂さんはジッと見つめる。
「夫人、申し訳ありませんが彼女は体調が悪い。今日は欠席させてください」
彼の言葉に夫人は微笑みを崩さず、私に視線を向けた。
「こちらへ」
夫人はとても楽しそうに微笑んだ。
「さぁ、パーティが始まるわ」
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