そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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知らず絡繰る

x57_櫂_

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イカれていると思っていたが、ここまでとは思わなかった。
「これのどこが〈悪い話ではない〉んだ?」
侑梨に会えば触れたい、抱きたいと思っているのに。
「侑梨とは恋人関係だ。貴方に指図されずとも、時期が来れば自然とそうなる」
……なのに〈条件〉がこれなのか?
裏があるのか、何か意図があるのか夫人の表情からは読み取れない。いつもの微笑に苛立つ。
「わたくしは、わたくしに逆らった彼に罰を与えたい。
けれどそれで貴方が得をするのは違うわ。バランスは必要よ。貴方にも相応のマイナスは必要よ。楽しむのはわたくしだけ」
侑梨を抱かなかったマウロに対す罰が、
莫大な会社不利益と精神的な嫌がらせなのなら
やはり夫人は狂ってる。
「自業自得だが、マウロは侑梨に怪我を負わされた。止む上なかった可能性は?」
「そんな言葉、知らないわ。けれども、そうね。例えそうだったとしても……バカな子ね。わたくしを欺ける筈もないのに」
この女はなんなんだ。
どんな生き方をすればこんな女になる?
「時期は?まさか一生?」
冗談じゃない。
「クリスマスイブにパーティがあるの。それに貴方達を招待するわ。その日の夜12時迄。それを過ぎれば呪いは消え、魔法と侑梨さんは貴方のもの」
あとひと月。
俺は侑梨を今日にでも抱きたいレベルだ。
結婚はまだ言い難いが同棲して、俺の側にいて欲しい。
ひと月と引き換える見返りは大きい。
侑梨は今、マウロに襲われて性的なことは避けたいように思えた。
自分にとってもいい冷却期間かもしれない。
「これは密約よ。彼女には秘密。抱かない期間を告げることも違約。わたくしを欺けるも思うのなら話すことも、抱くこともお好きに」
それは直感的に無理だと感じている。
「マウロは今、夫人の側にいないのか?」
彼の処遇を知りたかった。
「彼は今イタリアよ。奥様の出産に立ち合ってるわ」
……とことん嫌悪させる男だ。
そこで夫人が推し笑う。
「バカなな子……自分の子でもないのに」
なんだろう。同じ男としてそれは切なく苦しい。
女性である夫人にそこを嗤われるのはクる。
取引は終了した。こんな所、1秒でも長居したくはない。
夫人への一瞥もなく立ち去った。
「──バカな子ね」
立ち去る櫂を見つめ夫人は呟いた。
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