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紛擾雑駁の了知

x63_ジーノ_

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「…ジーノ…私で遊ばないで。夫人との遊びに私を巻き込まないで‼︎」
「これは僕の意思だ」
三島への苛立ちを抑えるように抱きしめる。
が瞬間、フラッシュバックのように過去が甦る。
もし、ここで彼女が僕を選んでくれたとしても、
あの出来事を知れば必ず僕を憎むだろう。
本当は誰よりも、三島よりも彼女の前から消えなければならないのは僕だ。
あのホテルで『最低な話』を教えてあげると言えた 
自分はもういない。
彼女には知られたくない。
恐らく、知っているのは夫人と三島と矢賀沙織。
最強の布陣だな。
「ごめんなさいジーノ……貴方を信じられない」
両腕を伸ばし身体を離す。侑梨の両手はペンギンで埋まっている。二人の間にペンギンは挟まれている状態だ。
「信じられなくても仕方ないよ。今まで君を散々傷つけた。ただ、これだけは言わせて。この先、君を傷つけてしまうことがあっても…僕は君が好きだよ」
「…っ、意味が分からない。好きなら傷つけないでよ!……それに私は櫂が好きなの……」
ペンギンで顔を隠す彼女が可愛いい。
「そうだね」
いつか知られてしまう。
澤城修司の死の真相を。その時、君は絶対に僕を受け入れてはくれないだろう。それどころか嫌悪し唾棄するだろう。
「時限爆弾だな……」
スイッチは押された。以前の僕なら痛くも痒くもなかった。ただそれを知る彼女が可哀想だと思っただけだ。
凛子、君の気持ちが今なら分かる。
これは呪いだ。
好きになってはいけない人を好きになる。
僕が好きになればなるほど、きっと彼女は苦しむことになる。それがわかっているのに止められない。
「ジーノ?」
ペンギンから顔を覗かす彼女に顔が緩む。
「……ごめんねユーリ」
侑梨の唇に唇を重ねる。
「最低!」
侑梨は歩きだす。
「僕は最低だよ。知ってるでしょ?それに謝ったよ?」
「謝れば許されるなら警察はいらないわ!」
ムキになって可愛い。
「本当はもっと君と繋がりたいのに、軽いキスしかしなかった僕に感謝してもいいも思うよ?」
早歩きの侑梨を追いかける。足のパーツが違うので、彼女の速歩きはそんなに速くない。
彼女のカバンを取り上げケータイに自分の番号を登録する。
「声が聞きたくなったら電話して」
怒りに彼女が足を止める。
「絶対しないわ‼︎」
「僕が君を抱くまでに、もう少しお肉をつけて。流石に夫人オススメの合わせ貝の間柄でも骨と皮だけじゃ気持ちよくない」
硬直する彼女の唇にまた軽くキスをする。
今日は退散しよう。
「今度会う時は甘いキャンディをあげるよ」
「絶対いらないわ‼︎」
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