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一葉知秋の比おい
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櫂に話すと言われれば、侑梨には何もできない。
クリスマスパーティまであと数日なのに、侑梨には
どうすることもできないのか。
『会いたいの。時間とれるかしら?』
沙織さんからの電話だった。
会いたくないけれど、
きっと、ちゃんと話せるのは今日が最後だ。
指定場所はオフィスでもレストランでもなく
沙織さんの部屋だった。
「部屋の掃除や模様替えとかしている暇がなくて、散らかってるけど気にしないで」
マンションの一室で温かみのある、散らかっているというより何というか時が止まっている部屋の様に思った。
「来年は引っ越すわ」
沙織さんの言葉に別の意思決定を感じる。
この前のクッキーのお礼にお好み焼きパーティしましょう。
テーブルにホットプレートが広げられている。
小さく刻まれたキャベツや青葱、魚介や紅生姜が並び、
カラフルなテーブルだ。
侑梨の憧れたテーブル風景だ。
沙織さんは小さなお好み焼きを作る。
「意外と思ったでしょう?プチお好みパーティが好きなの」
侑梨の心を見通す。
「……あの人も意外だってビックリしてた」
「あの人?」
櫂のことだろうか?櫂は2人で侑梨の憧れの様なテーブルを沙織さんと囲んでいたと思うと切なくなる。
「澤城さんよ」
意外な答えに沙織さんを見入る。
「7年前、彼のこと好きだったのよ。私の片思いで、気持ちも伝えてなかった」
上手にお好み焼きをひっくり返す。
「あの頃、貴方には悪いけれど、何度か戦略会議と称してここで集まってた。勿論、2人きりは無かったわ。澤城さんが既婚者なのは知っていたし、凛子さんとの関係が悪くても愛しているのは分かってたから、自分の気持ちを封じた。彼の側にいられればいいからって。だけど、
彼は亡くなった。……今でも思うのよ。私の気持ちなんて、愛なんて澤城さんには迷惑で価値なんてないと思って封じたけれど、あの時、気持ちを伝えていたら、正直になれていたら、諦めなければ澤城さんは死を選ばなかったかも…って」
お皿に盛り、ソースをハケで塗る仕草も手慣れている。
「貴方と櫂がどんな選択をしたのかは知らないけれど、
今日、櫂から社長交代の申し出を受けたわ」
侑梨には寝耳の水だ。
「受けたわ」
「どうして……櫂はそんなこと」
夫人との取引でこれから澤城企画は更に大きくなる筈だ。それなのに……。
「あの人はトップの人間ではないわ。澤城さんというトップがいたから活きた人材。それをこの7年、悲しみや悔しさを糧に走ってきた。それしか望みがなかったから。けれど、本当に欲しいものを前に冷静になった。それを取る為に必要なことが漸くわかった」
それが、侑梨だと言うように沙織さんが話す。
そんな訳はない。
櫂は業績UPの為、侑梨を夫人との取引に使った。
沙織さんは知らないからそう思うだけだ。
「櫂と高崎夫人との取引内容は知らないわ。けれど彼なりに最善策を考えた。その要は貴方だわ」
重要な話をしている筈なのに彼女はコテで器用に食べる。
「私は貴方より櫂より澤城企画が大事なの。だから櫂の申し出を受けた。7年前の続きの澤城企画とは違う。今度は私の澤城企画として」
「貴方は……それでいいの?」
侑梨の言葉に、櫂には彼が望めばサポートして貰うわ。ただし、決定権は私にあると言い切る。
「夫人と戦うことになるわ」
沙織さんを下に見ていた訳ではないが、櫂だから戦えると思っていた。
「夫人を敵にするのも味方にするのも私次第だわ。でも櫂では敵にしかならない。どちらにしろ戦うわ。寧ろこの7年戦い続けた相手よ。そろそろ利子を返して貰うわ」
ビールを飲み缶を置く。
「櫂は選んだ。澤城さんの会社でもなく、マウロや夫人への恨みでもなく、貴方を。貴方は?」
クリスマスが契約終了だと櫂は言っていたわ。
その時、貴方は何を選ぶのかよく考えて。
2本目のビールを侑梨のビール缶にコツンと当てた。
クリスマスパーティまであと数日なのに、侑梨には
どうすることもできないのか。
『会いたいの。時間とれるかしら?』
沙織さんからの電話だった。
会いたくないけれど、
きっと、ちゃんと話せるのは今日が最後だ。
指定場所はオフィスでもレストランでもなく
沙織さんの部屋だった。
「部屋の掃除や模様替えとかしている暇がなくて、散らかってるけど気にしないで」
マンションの一室で温かみのある、散らかっているというより何というか時が止まっている部屋の様に思った。
「来年は引っ越すわ」
沙織さんの言葉に別の意思決定を感じる。
この前のクッキーのお礼にお好み焼きパーティしましょう。
テーブルにホットプレートが広げられている。
小さく刻まれたキャベツや青葱、魚介や紅生姜が並び、
カラフルなテーブルだ。
侑梨の憧れたテーブル風景だ。
沙織さんは小さなお好み焼きを作る。
「意外と思ったでしょう?プチお好みパーティが好きなの」
侑梨の心を見通す。
「……あの人も意外だってビックリしてた」
「あの人?」
櫂のことだろうか?櫂は2人で侑梨の憧れの様なテーブルを沙織さんと囲んでいたと思うと切なくなる。
「澤城さんよ」
意外な答えに沙織さんを見入る。
「7年前、彼のこと好きだったのよ。私の片思いで、気持ちも伝えてなかった」
上手にお好み焼きをひっくり返す。
「あの頃、貴方には悪いけれど、何度か戦略会議と称してここで集まってた。勿論、2人きりは無かったわ。澤城さんが既婚者なのは知っていたし、凛子さんとの関係が悪くても愛しているのは分かってたから、自分の気持ちを封じた。彼の側にいられればいいからって。だけど、
彼は亡くなった。……今でも思うのよ。私の気持ちなんて、愛なんて澤城さんには迷惑で価値なんてないと思って封じたけれど、あの時、気持ちを伝えていたら、正直になれていたら、諦めなければ澤城さんは死を選ばなかったかも…って」
お皿に盛り、ソースをハケで塗る仕草も手慣れている。
「貴方と櫂がどんな選択をしたのかは知らないけれど、
今日、櫂から社長交代の申し出を受けたわ」
侑梨には寝耳の水だ。
「受けたわ」
「どうして……櫂はそんなこと」
夫人との取引でこれから澤城企画は更に大きくなる筈だ。それなのに……。
「あの人はトップの人間ではないわ。澤城さんというトップがいたから活きた人材。それをこの7年、悲しみや悔しさを糧に走ってきた。それしか望みがなかったから。けれど、本当に欲しいものを前に冷静になった。それを取る為に必要なことが漸くわかった」
それが、侑梨だと言うように沙織さんが話す。
そんな訳はない。
櫂は業績UPの為、侑梨を夫人との取引に使った。
沙織さんは知らないからそう思うだけだ。
「櫂と高崎夫人との取引内容は知らないわ。けれど彼なりに最善策を考えた。その要は貴方だわ」
重要な話をしている筈なのに彼女はコテで器用に食べる。
「私は貴方より櫂より澤城企画が大事なの。だから櫂の申し出を受けた。7年前の続きの澤城企画とは違う。今度は私の澤城企画として」
「貴方は……それでいいの?」
侑梨の言葉に、櫂には彼が望めばサポートして貰うわ。ただし、決定権は私にあると言い切る。
「夫人と戦うことになるわ」
沙織さんを下に見ていた訳ではないが、櫂だから戦えると思っていた。
「夫人を敵にするのも味方にするのも私次第だわ。でも櫂では敵にしかならない。どちらにしろ戦うわ。寧ろこの7年戦い続けた相手よ。そろそろ利子を返して貰うわ」
ビールを飲み缶を置く。
「櫂は選んだ。澤城さんの会社でもなく、マウロや夫人への恨みでもなく、貴方を。貴方は?」
クリスマスが契約終了だと櫂は言っていたわ。
その時、貴方は何を選ぶのかよく考えて。
2本目のビールを侑梨のビール缶にコツンと当てた。
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