そんなの、知らない 【夫人叢書①】

六菖十菊

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あえかなる夜の知覚

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紳士淑女の集まりは盛大に行われている。
至る所から笑い声が飛び交い、誰もが幸福そうだ。
数ヶ月前は侑梨はそこでお皿を変え大忙しに働きながら、ジーノを探していた。
……今も、ジーノを探している。
彼はまだ来ない。
どうしたのだろう?
来ない方がいいのに、来ないとそれで気になる。
ケータイは手荷物と預けてしまった。
9時半までのパーティだが、もうすぐ9時だ。
夫人を見るが先ほどから動く気配もなく、
パーティを楽しんでいるように見える。
──もしかして、夫人はジーノとの関係を続行したのかもしれない。
彼を愛していると言っていた。
その人を貶めるなんていくら夫人でも遊びが過ぎる。
……そう思いたいのに、ジーノが来ない。
彼が今どこにいるのか、何を思っているのか不安で堪らない。
夫人の元へ行きたいが、櫂が側にいてくれる。
……今日を過ぎれば櫂と別れようと思っていた。
けれど、櫂が価値のない侑梨を選んでくれたのなら侑梨は側にいたい。
沙織さんには櫂への想いは恋ではなく父性愛の様なことを以前言われた。夫人にも歪んでいると言われた。
けれど、これが侑梨だ。
本当の愛がどんなのか、そんなの知らない。
だから……せめてジーノには謝りたかった。
「三島君」
意識を飛ばしていた侑梨を戻した声の人は、
櫂に挑発的な視線を飛ばしている。
恐らく隠しているつもりだろうが、全然隠れていない。
「高崎夫人の契約を取るなんて、どんな手を使ったの?」
櫂は飄々としたまま運がよかっただけだ。と嘯く。
沙織さんも相手にしない風だ。
「それよりどこでそれを?」
「さっきから夫人が色んなところで話してるさ。まさかマウロを切るとは思わなかったが、その次が君とは夫人の範囲も広いな」
彼の嫌味など知ったことかと櫂が夫人の方へ進む。
気が付いた夫人はいつもの如く微笑んだ。
「丁度よかったわ」
人集りが櫂を囲む。
「今、お友達と話していたの。明日のお茶会は澤城企画にプランニングして頂いた事を」
櫂と沙織さんは表情を崩さないが、これは今知らされた感じた。
「明日の10時から20名程度のお茶会。わたくしと仲の良いご婦人達だけの集まりだからちょっとしたクリスマスパーティかしら」
みんなの前で大々的に偽る夫人に為す術がない。
これで明日のお茶会が失敗に終われば澤城企画の問題だ。信用は失墜するだろう。
「テストよ。これくらい熟せないとジーノの代わりは務まらないわ」
夫人が囁く。
「ええ。楽しみにしていてください。夫人のお眼鏡に適ってみせますよ」
「では明日」
今、9時半前だ。
あと12時間で都内のクリスマス時期に20名、夫人のお客を満足させる場所と料理と企画を考えなければならない。櫂と沙織さんが目を合わせる。
「大丈夫よ。私たちにもコネやツテもある。最悪、夫人の名を出すわ。あとは企画よ」
2人の頭は明日のお茶会に向けてもう動き出している。
「侑梨!」
あと半日を切った状態できっとこれから櫂達は不眠で夫人の難題に取り込まなくてはならない。
侑梨は完全に邪魔だ。
1分でも惜しいはずだ。
「大丈夫。タクシーで帰るわ。明日頑張って」
櫂は少し悩んだようだが、ごめんと足早に去った。

──夫人に捉まらないように帰ろう。
ジーノは結局来なかった。
預けた手荷物を受け取るとそこに1枚の封筒が添えられていた。
『今日まで
   彼はあの部屋にいるわ』

悩んだが、侑梨は部屋は向かった。
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