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第三章 領地開発

第49話 鍛冶師魂

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 ドワーフの鍛冶師カマン・ホレックは、その日の内にアンジェロ領に引っ越した。
 ホレックの店一軒丸々、アイテムボックスにぶち込んだよ。

 地面を土魔法の石化で固めたら、一つのアイテムとして取り扱えた。
 アンジェロ領に転移魔法で移動して、アイテムボックスからホレックの店を取り出し移転完了!

「なんか……、アンジェロの兄ちゃんは、本当に人か?」

 自分の店が移転する様子を見て、悪酔いしたような顔でホレックがつぶやいていた。

「早い! 安い! 楽ちん! と三拍子揃った移転だから、良いだろ?」

「ちげえねえ。ガハハハ!」

 それから一週間後、ホレックから声が掛かった。

「おい、アンジェロの兄ちゃんよ。頼まれていた農具が昨日出来上がったから、熊獣人のボイチェフに村に運んで貰ったぞ」

「早いね! ホレックのおっちゃん、ありがとう!」

 ホレックには、あの小さな村で使う農具『千歯こき』と『クワ』の制作を頼んでおいた。
 この異世界のクワは、スコップみたいに直線のクワだ。あれじゃあ、効率が悪い。

 今回ホレックに頼んだのは、棒の先に鉄製の板が付いたL字型のクワだ。
 あの村は人数が減ったからね。労働力不足は農具でカバーしないと。

 しかしさすがは名工ホレックだよな。仕事が早い!
 ヘッドハントして来て大正解だったな!

 日本に住んでいた時は、雇われる側だったからさ。
 雇う側の採用活動っていうのかな? やった事ないのだ。

 けど、今回のホレックのヘッドハント作戦で、俺もちょっと自信が付いたぞ!


 早速小さな村に転移魔法で移動する。
 村に着くと村長が駆け寄って来た。

「これはご領主様! また農具をお貸し頂きまして、ありがとうございます!」

「もう、届いていますか?」

「はい。ただ使い方がわかりませんでしたので、納屋の方に入れてあります。こちらでございます」

 村長と歩きながら千歯こきの説明をする。
 千歯こきは、江戸時代日本で使われていた脱穀用の農具だ。
 稲だけじゃなくて麦でも使えたはずだ。

「あの台の上に櫛が乗っている農具は、『千歯こき』と言います」

「せん……、ばこき……」

「はい、そうです。あの櫛になっている歯の部分に、収穫した麦の束をひっかけて手前に引く。そうすると、麦の穂が歯に引っかかって取れるのですよ」

「それは作業がはかどりますね! 手作業よりも断然早いですよ!」

「でしょう? 今年の大麦が収穫出来たら使ってみて下さい。櫛状の歯の部分は、使ってみて調整しましょう」

「ありがとうございます! いやあ、しかし、あんな美しい農具は初めてみました!」

 何? 美しい?


 ……。


 ……。


 何の事だろう……。
 機能的って意味かな?

 いや、でも、機械的な農具ではないから、機能美とかはないよな。

「そんなに……、美しい……ですか?」

「はい! 白く美しく光り輝いております! ささ、ご領主様! ここに千歯こきをしまってあります」

 村長が納屋の扉を開けると、中には白く光り輝く千歯こきが鎮座していた。

「えっ!? あれ!? 何これ!?」

「これではございませんか? 昨日、熊獣人が運んで来てくれたのですが……」

「いや! これです! これが千歯こきです! ここに麦をひっかけて、こう手前に引くのです」

「いやいや! 便利な農具ですなあ~。さすがはご領主様!」

 俺は村長に千歯こきの使い方を説明しながら、背中に嫌な汗が滴り落ちるのを感じていた。


 なんだこれ!?


 形は確かに千歯こきだ。
 千歯こきとは、木製の台に鉄製の櫛状の歯を取り付けた農具だ。

 だが、目の前の千歯こきは、ピカピカと妙に白く光り輝いている。
 これって、まさか……。

 俺は千歯こきを人差し指でスーッとなぞる。
 その瞬間、俺の口から溢れ出す絶叫!

「ああああああああああ! これオリハルコンで出来てるじゃねえか!」

 間違いないよ!
 この千歯こきはオリハルコンで出来てる!

「ホレックのおっちゃん何考えてんだよ! どこの世界に農具に希少金属を使うヤツがいるんだよ!」

 オリハルコンの鉱山自体が少ないし、さらに産出量は非常に少ない。
 ダンジョンでドロップする場合も、かなりの深部になる。

 非情にレアな金属であり、この異世界では最も硬い金属と言われている。
 そのオリハルコンで千歯こきを作るとは……。

「千歯こきでコクのは、普通の大麦なんだよ! オリハルコンにして、どうすんだよ! オーバースペック過ぎるだろ!」

 くっそう!
 移転祝いで手持ちのオリハルコンとミスリルのインゴットを渡したのがまずかったか……。

 俺が一人で身悶えていると村長が恐る恐る声を掛けて来た。

「あの~、ご領主様……。大丈夫ですか……。この千歯こきはお返しした方がよろしいでしょうか?」

「……いや、大事に使ってくれ。って、待てよ! クワや他の農具はどうした?」

「ああ、あの新型のクワなら若い者が早速畑で使っております」

 俺は納屋を飛び出し、畑に向かってダッシュした。
 まさか、まさか、まさか……。

 身体強化の魔法を使って加速する。
 地面を蹴り上げ、土埃を巻き上げながら畑へ向かって疾走する。

 畑が見えた!
 俺は大声を出した。

「クワ! クワは!」

「おお! これはご領主様! いや~この新型のクワは凄いですね!」

 若い男の村人の手には、日本でお馴染みのL字型のクワが握られている。
 持ち手の棒は木製だ。

 うむ! 普通だ!

 その先の金属部分は……。

「いやあ、この白く光り輝く金属は何ですか? 凄いですよ! 土の中の木の根もスパスパ切れちゃいますよ!」

 あかーーーーーーん!
 オリハルコン製のクワだあああああああ!

 ホレックのおっちゃん、千歯こきだけじゃなくてクワもオリハルコンで作った!
 何考えてんだ! あの酔っ払いドワーフ!

 俺がorz状態でへたり込む横で、若い村人は誇らしげに新型のクワがいかに素晴らしいか説明を始めた。

「いや~土の中に石が混じっていることも多いですがね。このクワだと石も粉々ですよ! ほら、見て下さいよ! せーのっ! ねっ? 石が粉々でしょう?」

 ええ、ええ、ええ! そうでしょうとも!
 そのクワは地上で最も硬い金属オリハルコンを稀代の名工ホレックが鍛えた地上最強の農具ですから!

 石なんて、砂と一緒ですよ!
 木の根なんて、草と変わらないですよ!

「あれっ? ご領主様? どうしましたか? 俺、このクワが凄く気に入りましたよ。畑を耕すのが楽しくてしょうがないですよ」

「そ、そう……。良かったね……。高価なクワだから、大事にしてね……。失くさないでね……」

「はい! 寝る時もこのクワを抱いて寝ますよ! ワハハハッハ!」

 若い村人は満足している。
 ま、まあ、これで作業効率が上がるなら……。

 一応農具は貸し出しているだけだし。
 うん、貸しているだけだからな。


 ……。

 ……。


「ホレーック!」


 俺は村から飛行魔法全力で領主エリアに戻った。
 転移魔法で帰れば良かったが、頭に血が上っていた。

 そんな事はどうでも良い!
 オリハルコンの農具だよ!

 俺はホレックの店に怒鳴り込んだ。

「ホレーック! オッチャーン!」

 ホレックが店の奥から顔を出した。
 今日は素面しらふだ。

「おーう! アンジェロの兄ちゃんか。どうだった? 農具は良く出来てたろう?」

「何でオリハルコンを使ったんだよ! あれは農具だぞ!」

「農具とはいえ最新型だからな! 手元にある最高の素材を使ったまでよ!」

 グッと胸を反らして答えるホレック。

「農具にオリハルコンってオーバースペック過ぎるだろ!」

「いや、俺も出来上がってからそんな気がしたんだけど……。ほら、オリハルコンがあったら、打ちたくなるのが鍛冶師魂ってモンだ!」

「ノーオオオオオオ!」

 こうして名工ホレックの新しい作品、『オリハルコンの千歯こき』と『オリハルコンのクワ』が、この異世界に爆誕した。

 俺が人材採用に関して自信を失くしたのは言うまでもない事だ。
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