追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第四章 ウイスキーと異世界飛行機の開発

第65話 高アルコール度数エール

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 書斎にエルハムさんが入って来た。

「アンジェロ様。ご指示を頂いていたエールが出来ました!」

「おっ! ついに出来ましたか!」

「はい。今までのエールよりも、幾分か酒精が強いです」

「オッケーです! これでウイスキー造りに着手出来ますね!」

 ここの所、メロビクス王大国にいるらしい『エルフの奴隷問題』で、俺たちはかなりゴタゴタした雰囲気になった。
 他にも『戦争になるかもしれない』なんてキナ臭い話も出たので、正直、みんな仕事が手についていない感じだ。

 こう言う時こそ基本をしっかりやる。
 俺たちの基本とは何か?

 それは領地経営だ。

 アンジェロ領をしっかりと経営する事で、お金が生まれる。
 お金があれば人を雇えるし情報を買えるので『エルフ奴隷奪還作戦』も実行可能になる。

 領主としては、まず稼ぐ方策を増やさないとね。

 さて、この世界では、ビールの事をエールと言う。
 一応、お酒なのだけれど人によっては水感覚で、あまりアルコール度数は高くないらしい。

 ウイスキー造りは大雑把に言うと、大麦を発酵させたビールみたいな酒を蒸留し、樽に入れて熟成させる。
 当然アルコール度数が低ければ、沢山のビールを蒸留しなくてはならない。

 ちなみにクイックはアルコール度数が高いワインから蒸留している。
 だいたいワイン十樽でクイック一樽出来る。
 ワインのアルコール度数は十パーセント前後だから、まあこんな物だろう。

 問題は、この異世界のエールでアルコール度数が低い事だ。
 仮にアルコール度数が二パーセントなら、エール五十樽からウイスキー一樽しか造れない。
 これでは流石に効率が悪い。

 そこで、まずはエールのアルコール度数を上げるように、この異世界の言葉で酒精の強いビール造りを命じたのだ。
 日本のビール並みのアルコール度数五パーセントになれば、二十樽のエールでウイスキー一樽が作れる様になる。

 二十樽で一樽造れるなら、まあ、許容範囲だ。

「酵母造りからやったからな」

「はい。職人たちも知らなかった知識なので驚いていました」

 酒を発酵させるのは酵母――つまり菌なのだ。
 昔、酒好きの同僚から聞いた話では、ウイスキー用の酵母とビール用の酵母は違う酵母らしい。

 とは言え、この異世界でウイスキー用の酵母なんて入手できないし、俺は酵母を作る方法を知らない。
 なので、とりあえず酒精を高くしろと指示した。

 ミスル人のエール造りの職人には、試行錯誤してもらった。
 大麦を発酵させる時に場所を変えたり、発酵させる樽の木材を変えたり、フルーツを発酵させた物を混ぜたりと色々やってもらった。

「結局、どうやったら酒精の強いエールが出来たの?」

「水と場所ですね。水道橋の水ではなく、森の中を流れる川の水を使いました。森の中で発酵させた所、酒精の強いエールが出来ました」

 川か。それは思いつかなかった。
 ちょっと距離があるから、先々は川の近くにウイスキー醸造所を建設しても良いな。

「樽作りの方は?」

「二人の職人に助手を一人ずつ付けて生産しています。順調です」

「ナラの木を使っているよね?」

「はい。領主エリアの北側にあるナラ材で樽を制作しています」

「樽は多くても困らないので、沢山作らせておいて下さい」

「今年のウイスキー造りの分の樽は確保してありますが、他にも用途が?」

「うん、クイック造りに余裕があればブランデーにしようと思う」

「ブランデー?」

 エルハムさんは、知らなくて当然だ。
 ブランデーも蒸留酒、この異世界にはまだない。

 ワインを蒸留して樽に入れ数年寝かせて熟成させるとブランデーだ。
 クイックはワインを蒸留しているから、クイックを樽に入れて寝かせればブランデーが出来るはずだ。

 クイックの生産に余裕が出たら、クイックをアンジェロ領産のナラ材の樽に入れて熟成させてみたい。
 ブランデーは料理にも使えるし、お酒のバリエーションが多い分には良いだろう。

 エルハムさんにブランデーの事を話すと乗り気だ。

「それから、そろそろ樽詰めした酒を寝かせる場所、ウイスキーを熟成させる保管場所を作りませんと」

 これも後回しにしていた課題の一つだ。
 俺もちゃんとした知識がある訳ではないので、どういう立地が良いのか分からない。
 ただ、まあ、ここだと思う場所がある。

「領主エリアの東側の森の中に保管庫を作ろうと思う」

「森の中ですが? 荒れ地の方が平地ですので、保管庫を建設するのに楽ではありませんか?」

 エルハムさんは、不思議そうな顔をしている。
 エルハムさんの言う通り保管庫を建てる効率だけ考えれば荒れ地の方が良い。
 しかし、荒れ地は日光が強い。

「荒れ地だと日当たりが良すぎると思います。熱で樽の中の酒がダメにならないとも限らないので……」

「なるほど……。それなら森の中の方がよろしいですね。そうすると森の木を伐採する必要がありますが、人手が足りません」

「熊族を雇おう。ボイチェフに頼んでおくよ」

「わかりました。それでは、奴隷の木こり親子は、今まで通り樽用のナラの伐採をやらせます。ウイスキーが上手く出来ると良いですね」

「そうだね。俺も作った事がないから、自信はないけれどちゃんと出来れば三年後には美味しいお酒が飲めるよ」

「楽しみにしています!」

 エルハムさんは、ペロリと上唇を舐めた。
 この人も酒好きだからな。


 *


 メロビクス王大国王都では、軍事会議が開かれていた。
 議題はメロビクス王大国の東側にあるニアランド王国、フリージア王国方面への侵攻についてだ。

 きらびやかな金銀で装飾された宮殿の大広間には、将軍、大臣、高位の貴族が大勢出席していた。
 国王キルデベルト八世が静かに会議の行方を見守る中、主戦派の将軍シャルル・マルテは力強く演説していた。

「我が国の国力は大いに飛躍した! 軍の装備も一新し、糧食の備えも十二分にある! 今こそ領土拡張の時だ! ニアランド、フリージアを飲み込むべし!」

 シャルル・マルテ将軍の演説に主戦派諸侯が賛成の声を上げる。

「その通り!」
「弱敵屠るべし!」

 シャルル・マルテ将軍の父、宰相のミトラルも開戦を後押しする。

「賛成です! ニアランドが抑える海上交易とフリージアが抑える大陸中央部との陸上交易路を手に入れれば、我が国は農業だけでなく商業でも強国になり得ます!」

「まさに!」
「今こそ飛躍の時!」

 メロビクス王大国は広い国土と肥沃な土地を持つ農業大国である。
 だが、商業の面では立ち遅れていた。

 大陸北西部の海上交易はニアランド王国とエリザ女王国が強く、陸上交易ではイタロス地方の商人とミスル王国商人が強い。
 メロビクス王大国は、『食うには困らないが、イマイチ金持ちにはなれない』大国であった。

 だが、神童ハジメ・マツバヤシの農業改革の成果で、余剰農産品が増え国庫に余裕が出来た。
 軍備にも予算が周り、主戦派としては早速強化した軍の力を試したいのだ。

 出席している諸侯はそれぞれの欲望を大きくしていた。
 戦で手柄を立て褒美を望む物、地位を望む物、敗戦国での略奪を望む物、多くの出席者が欲で目がくらんでいた。

 会議の流れは大きく開戦に傾く。
 宰相ミトラルは会議を開戦でまとめようとした。

「それでは、ご異議ござらんかな? では……」

 しかし、宰相ミトラルの言葉は途中で止まった。
 出席者の一人、最年少のハジメ・マツバヤシ伯爵が手を上げて発言を希望したのだ。

 宰相ミトラルは良い流れを止められ苦々しく思った。
 だが、ハジメ・マツバヤシ伯爵はこの好景気、農業改革の立役者だ。
 無視する訳にもいかず発言を許した。

「ちょっと良いですか? 戦争はもう何年か後の方が良いんじゃないかなあ?」

 五才の子供の高い声が会議の場に響いた。
 出席者の中で何人かは『おやっ?』と思った。神童と言われるハジメ・マツバヤシ伯爵は、開戦に反対なのかと。

 ハジメ・マツバヤシ伯爵は続ける。

「輪栽式農業は、まだメロビクス全土に広げている途中だよ。結構労働力が必要な農法だから、農民を兵隊にとられると収穫高がガクンと落ちるよ」

「では、どうしろと?」

「もう何年か待って奴隷が増えて、みんながこの農法に慣れてから戦争すれば?」

 ハジメ・マツバヤシ伯爵の言葉を受けて、会議の場はざわついた。
 宰相ミトラルは、ハジメ・マツバヤシ伯爵を忌々しく思った。

 メロビクス王大国の国政を牛耳って来たのは、宰相ミトラルであった。
 それがここ数年国王キルデベルト八世は、どこの馬の骨とも知れぬ孤児院育ちの子供を重用しだしたのだ。

 最初は国王の気紛れ、戯れと考えていた。
 しかし、ハジメ・マツバヤシは成果を出し伯爵に叙せられた。

 自分の権勢を揺るがす程の存在ではないが邪魔な存在。
 しかし有能で国力上昇に寄与している。
 宰相ミトラルにとって痛し痒しの存在であった。

 さて、どうやってこの意見を抑えるか……。
 宰相ミトラルはしばし黙考した後に言葉を返した。

「つい先達マツバヤシ伯の意見『エルフ狩り』が採択されましたが、農業に従事するエルフが増えても収穫高が落ちるのでしょうか?」

 遠回しに、『この前はオマエの意見を聞いてやったよな?』とジャブを打った。
 ハジメ・マツバヤシ伯爵は悪びれる事なく、軽い調子で返した。

「うーん、それを言われると困っちゃうな」

「それにニアランド、フリージアの二か国を飲み込めば、かの国の者たちを奴隷に出来ましょう。労働力は今よりも増えると思いますが?」

「へー、戦争に勝てるんだ?」

 ハジメ・マツバヤシ伯爵は、勝つ前提で話しを進めている会議に違和感を覚えていた。
 どんなに強い国でも負ける事はあるし、負けなくても勝てない事もある。

 転生者であるハジメ・マツバヤシ伯爵は、メロビクス人としてのアイデンティティがない。
 だから自国が負ける可能性も冷静に考えていた。

 能天気に勝利を前提に議論する宰相や将軍への皮肉のつもりで『戦争に勝てるのか?』と問うたのだ。

 だが、会議の出席者たちは、そうは受け取らなかった。
 五才の子供の素朴な疑問。
 争い事を恐れるとは可愛い所があるではないか、と全く違う意味で受け止めていた。

 シャルル・マルテ将軍は、やさしく親戚の子供に説くように話しかけた。

「ご安心なされ! 我が国の重装騎兵は大陸北部随一の破壊力を誇ります! ニアランドやフリージアなど物の数ではありません!」

「へー、じゃあ騎兵だけで戦争してよ」

「マツバヤシ伯は、戦の経験がござらんからな。戦では騎兵も歩兵も必要なのです」

「僕はさあ。農業に影響がでないように戦争やれって言ってるんだよ。そんなに自信があるなら農民を徴兵するのは止めてよね」

 ハジメ・マツバヤシ伯爵は、ピシャリと言い切った。
 会議の場は、ざわつき始めた。

 輪栽式農業が未導入の領地貴族を中心に、ハジメ・マツバヤシ伯爵の言葉に賛同する者も現れ始めた。
 彼らの領地の収穫は例年と変わらないのだ。
 大戦おおいくさで農民を兵隊にとられ使い潰されてはたまらない。

 宰相ミトラルは、舌打ちした。
 国庫と兵糧に余裕があり、重装騎兵の装備を一新した今こそ最大戦力で周辺国を併呑したい。
 しかし、会議の流れは変わってしまった。

(こうなっては仕方がない。第二案で行くか……)

 宰相ミトラルは、常備兵と諸侯の有志でニアランド王国を攻撃する第二案を提案した。
 最大戦力とは言えないが、それでも勝利の可能性は高い。

 再度議論になったが程なくして第二案は可決された。

 こうしてメロビクス王大国は、ニアランド王国、フリージア王国方面への侵攻を決めた。
 開戦時期は農業収穫の終わった冬の初めと決まった。
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