追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第五章 メロビクス戦争

第93話 流した血こそが、何よりの証 メロビクス王大国軍戦5

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 ――アンジェロが、極大魔法メテオストリームを放つ数分前。

 ハジメ・マツバヤシは、戦場から西に離れていた。
 メロビクス王大国から送られてきた兵糧の受け取りに来ていたのだ。

「いやあ、ご苦労さん。助かったよ。腹ぺこじゃ、戦えないからねえ~」

 ハジメ・マツバヤシは、輸送担当の士官が差し出した書類にサインをし、食料集積所に運ぶように指示を出す。

 お付きの女魔法使いミオが、心配そうに問いかける。

「ハジメ様。よろしいのでしょうか?」

「何が?」

「今頃、メロビクス王大国軍は戦っておりますが……。その……、決戦に参加せず、兵糧の受け取りなど……」

「貧乏くじ?」

「はい……」

「いいの! いいの! どうせ僕は戦闘では、役に立たないからね。行きたいヤツが行けば良いのさ」

 ハジメ・マツバヤシは、フリージア王国宰相エノー伯爵の提案を、シャルル・マルテ将軍に伝え謀略を押し進めた。
 しかし、最後の局面――決戦はシャルル・マルテ将軍任せにしたのだ。

 本人としては、自分の身を危険にさらすリスクを回避し、『戦場から少し離れた後方で兵糧を受け取る、安全な任務』を選んだけだった。

 しかし、その選択は、戦場で力を示すことに価値を見いだす異世界の騎士や魔法使いには、理解されない行動である。
 魔法使いのミオは、主の行動に不満を感じていた。

 そんな魔法使いミオの気持ちを無視して、ハジメ・マツバヤシは、いつもの軽薄な口調で続けた。

「それに勝利のお膳立てはしたし、あとはシャルル・マルテ将軍にお任せだよ!」

「はあ、それは――っ!」

 女魔法使いミオは、異様な魔力のうねりを感じた。
 全身が総毛立ち、胃の腑が持ち上げられる感覚。

 戦場の方を見ると、空に無数の岩石が燃えたぎっていた。

「うそ……」

「ミオ? どうし……たっ……って、あれ、なに?」

 ハジメ・マツバヤシも異様な光景に気がついた。
 空を覆う無数の岩の塊。

 二人は言葉をなくし、ただ、ただ、空を見上げた。
 やがて大量の岩石が空に吸い込まれるように高く舞い上がり、轟音を上げて落下した。

「メ……メテオストリーム……」

 女魔法使いミオが、ボソリとつぶやいた。

「ミオ……それ、なに? メテオなんとかって?」

「メテオストリームです。伝説で語られる古の賢者が行使した極大魔法です」

「ふ、ふーん……って、逃げなきゃ、やばいじゃん!」

「もう遅いです! 伏せて!」

 女魔法使いミオは、ハジメ・マツバヤシの上に覆い被さり地に伏せた。
 とっさに魔法障壁をドーム型に張り身を守る。

 轟音と衝撃。
 目をつぶり、女魔法使いミオは恐怖に耐えた。

 やがて、辺りが静まりかえった。

「ミオ……大丈夫?」

「はい。ハジメ様は?」

「ありがとう。大丈夫だよ。オーイ! みんな平気かい?」

 ハジメ・マツバヤシたちは、戦場から離れた後方にいたお陰で、メテオストリームの直撃は避けられた。

 しかし、衝撃波の影響を食らっていた。
 兵糧を運んできた馬車はひっくり返り、兵士や騎士の中には負傷者が出た。

 ハジメ・マツバヤシと女魔法使いミオは、振り返り戦場を見た。

 土煙が晴れた戦場には、自軍の兵士の遺体が無数に転がり、その向こうに敵フリージア王国軍が見えた。

 ハジメ・マツバヤシは、頭をかくとため息と共にぼやいた。

「これ……どうするの?」


 *


 ――アンジェロが極大魔法メテオストリームを放った数十分後。

 フリージア王国第一王子ポポは、頭を抱えていた。

「エノー! どうするのだ! どうするのだ!」

「ポポ様。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか!」

 天幕の中は、宰相エノー伯爵と二人きりだ。
 騎士は忙しく情報収集に努め、兵士は戦の後処理にかり出されている。

 第一王子ポポは、宰相エノー伯爵の勧めに従い国と国王を裏切った。

 予定通りであれば――国王は戦死し、自分が王になり、敗戦したフリージア王国を自分が主導して外交交渉で立て直す――そうなるはずだった。

 途中までは上手くいっていた。
 しかし、突然放たれた強力な魔法一発で、状況をひっくり返されてしまった。

 その魔法が次は自分に放たれる……。
 裏切り者の自分に……。

 ポポは恐怖に震えていた。

 一方、宰相エノー伯爵は、落ち着き払っていた。
 熟練の外交官でもあるエノー伯爵は、これまで何度も苦しい場面を経験していた。

 先ほど目にした極大魔法メテオストリームの威力に驚愕しながらも、自分たちは大丈夫だと確信していた。

「ポポ様! 我々がメロビクス、ニアランドと共謀したことは、私とポポ様しか知らぬ事です。素知らぬ顔をしていれば、良いのです」

 ポポは、ズケと言い放った宰相エノー伯爵を凝視した。
 この状況下で、よくもそんなことが言える物だと。

「エノー……。そなた……」

「我らポポ隊は、ニアランド王国軍に裏切られた被害者なのです。そして、メロビクス王大国軍の重装騎兵に強襲され、奮戦むなしくも後退を余儀なくされた。そういうことです。よろしいですね?」

「……随分と都合の良い言い訳ではないか?」

「事実です。現に我らの部隊から、先ほどの戦闘で、死傷者が出ておるではありませんか」

「それは、そうだが……」

「流した血こそが、何よりの証なのですぞ!」

「ぐむ……」

 ポポは、宰相エノー伯爵を糾弾したかった。

『オマエの策にのったから、俺は窮地に立たされているのだ!』

 そう怒鳴り散らしたかった。

 しかし、宰相エノー伯爵の話を聞いているうちに――。

『本当はエノーの言う通りなのではないか……』

『自分たちは、裏切りなどしていないのではないか……』

『自分たちは、ニアランド裏切りの被害者なのではないか……』

 ――と思えるようになっていた。

 ポポは、自己正当化出来る宰相エノー伯爵のロジックにすがろうとした。

『自分は悪くない』

 そう思いたかったのだ。


 そこに宰相エノー伯爵は、つけ込む。

「ご安心ください。ポポ様の王位継承は、安泰です」

「そ……そうなのか?」

「はい。戦場で剣を振るい、魔法を放つだけが、戦いではないのです。全ては……このエノーにお任せを……」

 宰相エノー伯爵が、うやうやしく頭を下げる頃には、ポポの不安はすっかり無くなっていた。
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