追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

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第六章 二人の王子

第104話 異世界六輪自動車タイレル

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「出来たな!」

「出来たね! おっちゃん!」

 俺とホレックのおっちゃんが、突貫工事で製作した異世界自動車タイレルが完成したのだ。

 荷馬車の外側に、木と金属を組み合わせたフレームを配置する事で、四輪を独立させた。これで内輪と外輪の回転数の差が、解消される。

 それに、木製パーツを多用したので、手先が器用な人間なら、かなりの部分を修理できる。
 鍛冶師が不足しているアンジェロ領では、ありがたい車体構造になった。
 まあ、見た目は不格好だが……、動けばヨシ!

「鉄パイプも研究しておくぜ!」

「頼むよ。おっちゃん」

 木製パーツが増えた理由として、軽量頑丈な鉄パイプが存在しないからだ。
 あるのは、鉛のパイプ、陶器製のパイプ、木製の管だ。

 鉄パイプも下水道管のように太いパイプなら作れるそうだが、日本のリヤカーで利用されるような軽量頑丈な細い鉄パイプは、手作業で加工出来ない。

「印術か……鋳造か……」

 ホレックのおっちゃんは、次なる技術開発へ向けて頭の中が高速回転している。

「ホレックのおっちゃん! 試運転と行こうぜ!」

「おう!」

 俺が運転席に乗りアクセルを踏む。
 ホレックのおっちゃんが異世界自動車タイレルを後ろから押す。
 異世界自動車がゆっくりと前へ進み出した。

「よーし、乗るぞ!」

 ホレックのおっちゃんが、荷台に飛び乗る。
 俺はアクセルを踏み込みスピードを上げた。

 ホレック工房から走り出した異世界自動車タイレルは、領都キャランフィールドの街中を走る。
 ブレーキを踏んで減速……。

 左折!
 右折!
 加速!

「調子良いな! 問題なさそうじゃねえか!」

「変な音もしないし、大丈夫そうだね」

 魔導エンジンは、微かに音がするだけでとても静かだ。
 木製の車輪が、魔法で舗装した道路を転がる音だけがする。

 車軸にはボールベアリングをかまし、板バネで道路の凹凸も吸収する。
 乗り心地は、かなり良い。

 冒険者ギルドの前を通ると、白狼族のサラ率いる冒険者パーティー『白夜の騎士』がいた。
 豹族の姉妹も一緒だ。
 走って追いかけてくる。

「サラ!」

「オイ! アンジェロ! そのヘンテコなのは何だ!?」

「自動車だよ。サラも乗ってみなよ!」

「楽しそうだな!」

 サラと白狼族の仲間たちが、飛び乗ってきた。
 俺とホレックのおっちゃんを入れて、九人が乗っている。

 ハンドルを切って、港へ向かう。
 このまま海までドライブだ!

 アクセルを踏むとゆっくりとだが加速した。

「うわー! はやーい!」
「はやい! はやい!」

 豹族の少女二人が、荷台ではしゃぐ。
 サラが俺の隣に座り、べったりとひっつく。
 たまには、こういうのも悪くない。

 時速40キロくらいは出ているかな?
 これなら実用に耐えそうだ。

 あとは使いながら改良していこう。

 俺は異世界自動車タイレルを三台配備することを決めた。


 *


 女魔法使いミオが乗った駅馬車は、シメイ伯爵領の領都に到着した。

「やれやれ、やっと着きましたか……」

 ミオは、メロビクス王大国の都育ちだ。
 山を越え、谷を越え、森の中の道を進む道程は、色々と衝撃的な体験だった。

 道中一緒だった若い行商人の男と街の市場へ向かう。
 話し好きな男は、ミオにとって良き情報提供者だった。

「なるほど。あなたは、これから商業都市ザムザへ向かうのですね」

「そうだよ。メロビクスとザムザを往復して商売しているのさ」

 若い行商人の男は、メロビクス王大国で衣料品やちょっとした宝飾品を仕入れ、商業都市ザムザまで村々を売り歩く。
 そして商業都市ザムザで、香辛料や異国のちょっとした贅沢品を仕入れてメロビクス王大国へ売りに行くのだ。

「なかなか無駄のないご商売ですね。道行きは厳しいですが」

「まあね。このルートは、商業都市ザムザからメロビクス王大国への裏道だからね。あまり整備されていないのさ」

「なるほど。そうですね」

 大陸交易の要所である商業都市ザムザ。
 東方、南方からの荷は、商業都市ザムザを通って、フリージア王都、そして、ニアランド王都を経由してメロビクス王大国の王都へ至る。

 しかし、商業都市ザムザからメロビクス王大国へ至るルートは一つではない。
 主要なルートではない裏道が、いくつかある。

 その中で比較的通行しやすいのが、シメイ伯爵領を経由してメロビクス王大国南部へ抜ける山越えルートだ。
 このルートは、シメイ街道と呼ばれている。

 シメイ伯爵領の領都は、シメイ街道の中間地点にある。
 街は人が多く賑やかで、狭い通りは人で一杯だ。

「大きくはないですが、活気のある街ですね」

「ああ、シメイ伯爵領は、お金を持っている人が多いからね」

「……山間なのになぜでしょう?」

「そりゃ住人が強いからさ。住人が魔物を倒して、魔物素材を冒険者ギルドに売っているのは、ここだけだろうね」

「それは……お金を持っていそうですね……」

「さて、俺は知り合いの店に行く。ここでお別れだ! 元気でな!」

「そちらもお元気で!」

 若い行商人の男と別れたミオは、一人で市場を見て回った。
 都会のメロビクスに比べると、シメイ伯爵領はド田舎だ。

 しかし、それだけに、都会育ちのミオには新鮮で刺激的だ。

 市場には屋台が多く、メロビクス王大国ではお目にかかれない食べ物がズラリと並ぶ。

 ある屋台の店先にこれ見よがしにオークの頭部が飾られ、シシケバブに似た料理を売っている。
 隣の屋台では、食材と化した蛇型の魔物が、軒先に無造作にぶら下げられていた。

(いやはや、ゲテモノ市場ですね……)

 メロビクス王大国は、農業と畜産が盛んな国である。
 都の人々にとっては、肉と言えば家畜の肉。
 鶏肉、豚肉、牛肉だ。

 魔物の肉は、田舎の方で多少食される程度で、珍味の類いだ。

 一方、フリージア王国では、肉と言えば魔物肉が中心で、家畜の肉は金持ち用の贅沢品である。
 そして、シメイ伯爵領の住人は、魔物なら何でも食べてしまう。
 フリージア王国の他エリアでは食さない魔物であっても。

 女魔法使いミオは、屋台の料理を食べるか食べないか悩みながら市場を散策した。
 すると、ちょっと先に人だかりが出来て、歓声が上がっているのに気がついた。

(盛り上がっていますね! 何でしょう? 大道芸人でしょうか?)

 ミオが人だかりをのぞき込むと、筋骨隆々の男二人が腕相撲をしていた。
 二人は上半身裸で、汗まみれ、額にも腕にも血管が浮き出て、歯をむき出しに組み合っている。

(あれは……どうやら、賭け事ですね)

 一人の男の傍らには、銅貨が山となっていた。
 都会人のミオには、どうにも野蛮に感じられるが、これもこの街の習俗なのだろうと一人納得する。

 やがて、銅貨が山盛りになっている方の男が勝利した。
 負けた男は悔しがり、勝った男は傍らの大ジョッキをつかむと、喉を鳴らして酒を飲む。
 勝った男は人気者らしく、周りから沢山声がかかる。

 さぞ、名のある男なのだろうと思い、近くの屋台で串焼きを焼く優しそうな女将さんに、ミオは質問をした。

「あの勝っている男は、山賊の親分か何かでしょうか?」

「ぷっ! アハハハ! 山賊とは傑作だね! あれはご領主様だよ!」

「はっ!? ご領主様!?」

「そうだよ。シメイ伯爵様だよ!」

 ミオは我が目を疑った。
 市場で諸肌を脱ぎ、賭け腕相撲に興じるなど、メロビクス王大国の貴族では絶対にあり得ない。

 シメイ伯爵は、酒を飲みながら大声で周りをあおり立てる。

「さあ、どうだ? 次の挑戦者はいないか? 勇気を示せ! 男を見せろ!」

 すると、ニキビ面の若い男が、銅貨三枚を机に叩きつけて、荒々しく椅子に座った。

「よーし! 勝負だ!」

「おっ! いいね! 若いの! お前さんは、どこの村の誰だ?」

「俺はワギ村のゲイルだ!」

「よーし! ゲイル! 来い!」

 シメイ伯爵とゲイルは、がっぷり四つの腕相撲を見せた。
 一進一退の攻防の後、シメイ伯爵が負けた。

「やった! 勝った!」

「やったな! ゲイル! この銅貨の山はオマエの物だ! みんな! ワギ村のゲイルに拍手を!」

 二人を取り囲む群衆は、ゲイルを褒め称え、木の大ジョッキに入った酒を飲み干したシメイ伯爵は、酔い潰れて倒れてしまった。

「あーあ、伯爵様は寝ちまったぜ」
「いつもの事だ。さあ、屋敷まで運んでやろう」
「おーい! 荷車を持ってこい!」

 高いびきのシメイ伯爵を、周りの男が担ぎ上げ、荷車に寝かせて運んでいった。

 一部始終を目撃したミオは、唖然とし大口を開けた。
 屋台の女将が、串をひっくり返しながらミオに話す。

「ああして、頃合いをみて負けるのさ。伯爵様は、若いのに上手に花を持たせたね」

(どうみても酒に酔って腕相撲に負けただけですが……。まあ、住民にそう思われているなら、そういうことで良いでしょう)

 領主が住民に慕われているのは、良いことだとミオは無理矢理自分を納得させた。
 おそらく自分は、何とも言えない酸っぱい物を口に突っ込まれたような顔をしているのだろうと思いながら。

「はい。お姉さん、銅貨三枚だよ。食べり! 食べりいよ!」

 屋台の女将が地元訛りと一緒に、何かの肉の串焼きを差し出してきた。
 女魔法使いミオは、情報料と考え怪しい串焼きの代金を支払った。

 怪しい串焼きは意外に美味で鶏肉のような味がした。
 食べ終わって、ミオは屋台の女将に素材を聞いた。

「これは何のお肉でしょうか?」

「グンマー・クロコダイルの肉だよ」

「……ごちそうさまでした」

 グンマー・クロコダイルは、河川にすむワニ型の魔物である。
 ミオは若干の後悔をしながら、屋台を離れた。

(先に何の肉か聞くべきでしたね……。ここは特殊な地域でした。何せ領主が特殊ですから)

 さて、これからどうするか?
 宿でも探そうかとミオが考えていると、市場の先から歓声が上がった。

 そして、みんなが空を見上げている。
 ミオもつられて空を見上げる。

 そこには、異世界飛行機グースが飛んでいた。

(あれは!?)

 メロビクス戦役でフリージア王国の空飛ぶ魔道具として、ミオは記憶をしていた。

(こんな田舎でも飛んでいるのですか……。ちょっと興味がありますね……)

 女魔法使いミオは、異世界飛行機グースの後を追った。
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