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第九章 グンマー連合王国

第226話 転生者と転生者と転生者

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「黒丸師匠。お疲れ様でした。ありがとうございました」

「なに、お安いご用なのである。アンジェロ少年も一緒だったら、なお良かったのである」

「現場は楽しいですからね。次の機会はぜひ!」

 ミスル王国の馬賊討伐は、無事に終了した。
 俺はキャランフィールドの執務室で、じいと黒丸師匠から報告を受けている。

 黒丸師匠とルーナ先生が逮捕した馬賊と盗賊は、三百人を超えた。
 ミスル王国のアマジク地方から悪党は一掃され、治安はグンと良くなったそうだ。

 これで隣接するサイターマ領も安心だ。

 俺としても人材の補充が出来てありがたかい。
 逮捕した馬賊たちに飛び抜けた人材はいなかったが、それなりに使える連中だった。

 これまでの経験に合わせて、騎士団、クイック製造、農地開拓に振り分けた。
 文官にも五名、元下級貴族を採用したので、内政面がほんの少し楽になる。

 黒丸師匠の話は、冒険者ギルドの人事に移った。

「ミディアムをキャランフィールドの副ギルド長。エスカルゴのミシェルをオオミーヤの副ギルド長に指名したのである」

「なるほど……良いかもしれませんね……」

 これは黒丸師匠の人事の妙だな。

 キャランフィールドの冒険者ギルドは、あちこちから冒険者が集まってきて急拡大をしている。
 ギルド長が、冒険者たちににらみをきかせないと、冒険者たちがチンピラ化してしまう。

 しかし、ギルド長の黒丸師匠は、他の支部のギルド長も兼任しているし、現役の冒険者としての仕事もある。

 キャランフィールド支部ばかり面倒を見てはいられない。

「そこで、強面のミディアムですか」

「そうである。ミディアムは、あれで胆力がある男であるから、どんな冒険者相手でもビビらないのである。ミディアムが仕切れば、上手く行くと思うのである」

「良い人事だと思いますよ。それにミディアムはキャランフィールドで顔が売れていますし」

「そうであるな。街と調整が必要になった時に、顔の広さが役立つのである。砂利石のメンバーは、副ギルド長補佐の肩書きを与えて、ミディアムの補佐をさせるのである」

 ミディアムたち『砂利石』に初めて会った時は、あまり良い印象を抱かなかったが、厳しい訓練や仲間の死を乗り越えて、彼らは大きく成長した。

 ミディアムたちの出世を素直に祝福しよう。

 それから、新設するオオミーヤの冒険者ギルドに、人当たりの良いミシェルさんをあてたのも良い。

 サイターマ領は既に魔物が駆逐され、ほぼ解放されてしまっているエリアだ。
 かつての支配者赤獅子族と青狼族が、魔物を狩り尽くしていたのだ。

 よって、オオミーヤの冒険者ギルドの仕事は、隊商の護衛がメインになるだろう。

 つまり、商人との打ち合わせが多い支部だ。

「ふむ……エスカルゴの連中は、ワシにも良くしてくれましたからな。商人の相手をさせるには良いでしょう」

 じいが、潜入活動を行ったことを思い出しながら、ミシェルさんたちに太鼓判を押した。

「それに、あの二人はメロビクス出身である。メロビクス商人のウケが良いと思うのである。オオミーヤなら里帰りもしやすいのである」

「適任ですね。これで黒丸師匠も少し楽が出来ますね」

「それがしのような長命種は、役職などない方が良いのである。二人には、さっさと『副』がとれるように頑張って欲しいのである」

 これは黒丸師匠の持論なのだ。

『長命種は、重職に就かない方が良いのである』

 なぜかというと、腐敗の温床になったり、下が育たなくなったりするからだそうだ。

 だが、単に黒丸師匠が現場大好きで、面倒クサイ仕事はやりたくないだけじゃないかと、俺は疑っている。

 続いて、じいからの報告だ。

 じいが再建中のグンマー王立情報部は、黒丸師匠とルーナ先生が捕まえてきた悪党たちを尋問した。

 途中で一回報告を受けているが、今日は最終報告だ。

「結論から言うと、新しい情報は得られませんでした。つまり、前回のご報告通り、ミスル王国が統治能力を失っているのは間違いありません」

「そうか。じゃあ、ミスル王国は――」

「早晩、荒れるでしょうな。内乱になるか、それとも他国が攻め入るか……」

「いずれにしろ我が国にとって、ありがたい話じゃないな。じい、情報収集を急いで。ミスルと戦争中のギガランドの情報も欲しい」

「急ぎ手配いたします」

 隣国は適度に安定していて欲しい。
 安定している国と貿易を行って、ウインウインな関係が、俺は理想だ。

 俺は、ミスルの国王の顔を思い出し、アイツと理想の関係を築くのは難しそうだなと思った。

 そこで、開き直ってじいに指示を出す。

「じい。ミスルから人材を引き抜く準備をしてくれ」

「引き抜きでございますか!?」

「ああ。ミスル王国が荒れるなら、貴族や軍の士官が今まで以上に死ぬだろう。それなら、我が国に来てもらいたい」

「なるほど……」

 俺の言葉を聞いて、じいが腕を組んで考え出した。
 たぶん、どうやって引き抜くか考えているのだろう。

 ミスル王国は、長年の戦争で人材が枯渇しているようだが、我が国としては読み書きが出来るだけでもありがたい人材だ。

 ゲームで言うと、政治力80の人材はいなくても、政治力60の人材はいるだろうと思う。

「ミスル王国大使のアクトゥエン子爵を、我が国で受け入れよう。彼の知り合いで、我が国に亡命したそうな人物がいれば紹介してもらう。あとは、エルハムさんの知り合いにも連絡を取ろう」

「かしこまりました。二人に面会して、調整します」

 正直、あの国は上の方が腐っている。
 だが、現場レベルならエルハムさんのように優秀な人もいるのだ。

 それなら、我が国でいただいてしまおう。
 我が国は支配領域が広大だから、頭数を揃えることも大切なのだ。

「すぐに引き抜きに応じないなら、亡命先として覚えておいてもらうのでも良い。後は……鍛冶師などの職人に声をかけて欲しい」

「現地に潜入させる工作員に申しつけますじゃ。工作費用の方は?」

「費用は気にしないで。ここでお金を使っても、人材が確保できれば、いくらでも取り返せるよ」

 一難去ってまた一難か。
 災い転じて福となすか。

 グンマー連合王国の舵取りを始めて間もないのに、難しい局面に立たされそうだ。


 *


 その頃、赤獅子族のヴィスは、ミスル王国の王都レーベにいた。

 自身の部族を失い。
 テリトリーを失い。
 体一つで、ミスルにたどり着いた。

 赤獅子族のヴィスは、腕っぷしの強さを活かして王都レーベの一角を仕切る人族の用心棒をしていた。
 いわゆる反社会的勢力、黒社会に半分足を突っ込んだ状態だ。

 用心棒の仕事が終わり、ヤサに帰ってきた。
 スラムの一角にある安宿の一室である。

 あたりに漂う、すえた臭い。
 安物のベッドに寝転がると、いつものようにギシリとベッドが抗議の声をあげる。

 転生者であるヴィスは、うんざりしていた。
 すっかり日課になった愚痴をこぼす。

「あー。日本に帰りてえ……。それが無理なら、もう少しマシな生活をしてえ……」

「マシな生活なら、心当たりがあるぞ……」

 自分しかいないはずの部屋に、突然声が響いた。
 ヴィスはベッドから飛び起きると、声がした方を見た。

 部屋の隅、暗くなった場所に、ローブ姿の男が座っていた。
 地球の神からの命をうけて、使いをしている下級神である。

「ウオッ! なんだ! オマエか!」

「探したぞ……。ホレ、いつもの……」

「おっ! 気が利くじゃねえか!」

 ヴィスは、男から焼きそばパンを受け取ると、すぐに食べ始めた。
 男は、ヴィスにこれからすべき行動を告げた。

「南部の砂漠の先にあるミスリル鉱山へ行け」

「鉱山? なんだよ。ここよりも生活が悪そうだな……」

 男はヴィスの言葉を無視して、話しを続ける。

「そのミスリル鉱山にサロットという名の男がいる。サロットに協力しろ。そうすれば良いめが見られるぞ」

「ふーん……、サロットね……。そいつ何モンだよ?」

「オマエと同じ転生者だ」

「!」

 ヴィスの目つきが変わった。
 残りの焼きそばパンを口に放り込み、一気に咀嚼する。

「お仲間ってわけか……」

「そうだ。サロットにオマエのことは告げてある。強くて頼りになる男だと」

「なんだよ。わかってるじゃねえか」

「サロットは、オマエとは逆の男で、あまり腕っ節は強くない。だが、頭が回る」

「ほう、ほう。悪くねえな……」

 ヴィスは、前回の敗戦で自分の限界を知った。
 自分は前線で体を張るのが合っている。

 政治や戦略は、向いていないと悟ったのだ。

 サロットという男は、頭が回るらしい。
 つまり、自分の欠点を補ってくれそうだ。
 ならば、合流して協力するのも良いだろう。

 ヴィスは、そんな風に考えた。

「では、南にあるミスリル鉱山へ行け。名はサロットだ。忘れるな……」

 地球神の使いである男は、霧のように消えていなくなった。
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