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ルドルのダンジョン編

第23話 2日目と3日目ホーンラビット狩り

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 ホーンラビット狩り2日目になった。

 2日目も60匹の戦果で、収入は初日と同じ33万1200ゴルドだ。
 初日と同じように3万1200ゴルドを受け取って、30万ゴルドはギルド預りにしてもらった。

 ギルドマスターのハゲールからは、最終日も同じくらい狩って来て欲しいと言われた。
 ギルド受付のジュリさんによれば、なぜか2日目は冒険者がホーンラビットをあまり売りに来なかったらしい。
 ギルドの買い取り予定数を大幅に下回っているそうだ。

 どうなってるんだ?
 何か変だ?

 そしてホーンラビット狩りは、最終日を残すのみとなった。


 *


 最終日も順調だった。
 午前中にホーンラビット30匹を狩り、一旦ギルドに戻った。
 ジュリさんからの情報では、今日もホーンラビットの売却数が少ないらしい。
 俺とセレーネは、昼食を外の定食屋で済ませて、再度ダンジョンに潜った。

 そして、俺達は午後もホーンラビット30匹を狩り、ギルドに戻る事にした。
 この3日間かなりのハイペースで狩り続けているので、2人とも疲れが溜まっている。
 早くホーンラビットをギルドで売却して、家に帰って休みたい。

 1階層から地上へ出た。
 ちょうど4の鐘(夕方4時)が鳴っている。
 ダンンジョンの入り口は、人がまばらだ。
 みんな、まだダンジョンに潜って、ホーンラッビットを探しているのだろう。

「オイ! オメエラだろう? ギルドにホーンラッビットを、持ち込んでるガキは!」

 ダンジョンから出ると、俺達はいきなりガラの悪い男にからまれた。
 ひょっろっとした長身長髪の男だ。
 シャツを捲り上げて、これ見よがしに腕のタトゥーを見せつけている。

 胸元からチラッとギルドカードが見えた。
 アイアンカード、Eランクだ。
 あんなチンピラみたいなナリで冒険者なんだ……。

 俺はからんで来た男と面識がないし、ルドルのダンジョンや冒険者ギルドで見かけた記憶もない。

「セレーネ、行こう!」

 俺はからんで来た男を無視して、ギルドへ向かう事にした。
 セレーネも厳しい顔で、うなずいた。
 俺達が歩き出すと、男は道をふさぎ、威圧しながら話して来た。

「オイオイ、待てよ! 話しは終わっちゃいねーよ。ホーンラビット1匹、500ゴルドで買い取ってやる。ここに置いていきな!」

「はあ? ギルドにホーンラビットを持ち込めば、毛皮と肉だけで5000ゴルドですよね? 何で500ゴルドなんですか?」

「うるせえよ! グダグダ言ってないで、狩って来たホーンラビットをここに出せ!」

「俺達は手ぶらですよ」

「知ってんだよ~。オマエラ、ギルドマスターからマジックバッグ借りてるんだろ?」

 何でコイツが、その事を知っているんだ?
 ギルドで見られていたか?
 あの時、コイツそばにいたか?

 どうやらコイツの狙いは、ホーンラビットを俺達から安値でまき上げる事らしい。
 正直、このチンピラは怖い。
 だが……、やっと稼げる様になったんだ!
 またFラン時代に戻って、他人にコケにされるのは嫌だ!

 俺は断固拒否する事に決めた。

「見ず知らずの人と、取引なんて出来ませんよ!」

「何だ? 知らねえのか? 俺は、王都のクラン、ニューヨーク・ファミリーのメンバーだ!」

 なに!?

 俺は、その男のクランの名前を聞いて動揺した。
 クランは、冒険者が集まった大きなグループの事だ。
 ダンジョン探索や素材集めなどを、複数のパーティーが協力して行う、会社の様な組織だ。
 冒険者が10人以上集まれば、クランとして登録出来る。

 そのクランの名前が……、ニューヨーク? ファミリー?
 転生前の世界のニューヨークの事か? アメリカの?
 男は俺が動揺する様子を見て、ニヤリと笑って言葉を続けた。

「ほう……、オマエさんも転生者か? ウチのクランは、リーダーがニューヨーク出身だ。わかるだろ? アメリカのニューヨークだ」

「…………」

 俺は何て答えれば良いか、わからなかった。
 ニューヨーク、アメリカと転生前の世界の地名を聞いて、たまらない懐かしさを感じた。
 日本を思い出してしまった……。

 今まで誰にも打ち明けていない事、俺が転生者だという事を、その男に話したくなった。

 だが、目の前の男は、あきらかにチンピラ風……、俺が転生者である事を打ち明けるべきじゃない気がした。
 俺はギリギリで自制して、沈黙を守った。

「俺は、オランダ出身だ。こっちの世界の名前はケインだ。転生者なら仲間に入れてやるぞ。オマエの見た目だと……、チャイニーズか?」

「…………」

「なあ、わかるだろ? この世界は転生前の世界とは、全く違う。俺は苦労したぜ……。お前はどうだ?」

「…………」

「だからよ。転生者同士で助け合わなきゃいけねえ。それが、ニューヨークファミリーだ! なあ、オマエも入れてやるぞ」

 参ったな……。
 これ、セレーネが聞いているよね?
 後ろにいるんだから……。
 色々とまずいな。

 逃げるにしても、ギルドまで10分はかかる。
 途中で捕まってしまう。
 助けを求めるにも、周りにいる冒険者の数は少ないし、知り合いもいない。

 じゃあ、戦うか?
 だが、近くにこの男の仲間がいるかもしれない。

 どうすれば……。
 困ったな……。

 そうだ!

 俺はゆっくりと、いかにも余裕がある様に、ニューヨークファミリーのケインに話し始めた。

「協力しても良いけど……、条件次第だな……」

「条件?」

 ケインは、俺がビビらないで話し始めた事に、少し驚いた様だ。
 このガキ何言ってんだ? って顔で、俺を上から眺めている。
 見てろよ……。

「ああ、俺のマジックバッグの中には、120匹のホーンラビットが入ってる」

「ひゃ! 120!?」

 もちろん、ウソ! ハッタリだ!
 本当は、30匹しか入ってない。
 だが、ウソはデカい方が引っかかると言うからな。

 ケインの野郎、ビックリした顔をしてやがる。
 ふふ、続けていくぞ……。

「そうだ、だけど俺達が狩ったのは、5匹で残りは、師匠のだ」

「師匠? オマエ誰か師匠がいるのか?」

「ああ、神速のダグって言うんだ」

「え!? あの伝説の!?」

「そうだよ。この剣は師匠に貰ったんだ。コルセアだぜ! 凄いでしょ!」

「あ、ああ、良い剣だな……」

 ケインの顔色が、悪くなって来た。
 まあ、師匠の名前を出すのは、男らしくないかもしれないが……。

 俺は、12才の男の子!
 そこは、遠慮せず、師匠の名前を使わせてもらうぜ!

「師匠は先にダンジョンから出て、宿屋へ行ってる。ほら、わかるだろ? お楽しみってやつだよ」

「神速のダグだからな……、女にも手が早い……」

「そう言う事。そのお楽しみ中の神速のダグの邪魔をして、ホーンラビットを1頭500ゴルドで叩き売ります、なんて言った日には……。恐ろしい事になるよ……」

「む、むう……」

 フフフ……、ケインは下を向いて、困り顔をし出したよ。
 じゃあ、もう一押しいきますか!

「あれ? そういえば、この話って、師匠の所属するクランには、通ってるのぉ?」

「え!?」

「いやぁ、これってクラン『ニューヨークファミリー』が、俺の師匠のクランから獲物を買い取るって話ですよねぇ?」

「そ、それは、だな……」

 そうだよ、ケイン。
 これはクランとクランの話になってしまう……、かもしれないよ。
 オマエは責任とれるのか? ん?

 え? 師匠の所属クランはどこかって?
 さあ、知らないけど。
 でも、どっかに入ってるんじゃない。

 さて、オーラスだ。

「師匠のクランに話が通っていて、お楽しみ中の師匠が喜ぶような条件なら、俺はホーンラビット売っても良いですよ」

「あ、ああ……、そうか……」

「120匹。全部。支払いは、キャッシュですよぉ」

 ケインはダラダラ汗をかいている。
 さあ、どうする!
 ケイン!

「あ! ああ~! いや、持ち合わせがー、今日は足らないかなぁ~」

「そうですか……、それは残念ですねぇ~」

「ああ、今日は取引なしで。な!」

「わかりましたぁ。また、何かあったよろしくお願いしますぅ」

「お、おう! じゃあな!」

 俺とセレーネは、ギルドへ向かった。
 いや~危なかったけど、ハッタリで切り抜けた。
 師匠がルドルにいない事が、バレなくて良かった。

「ヒロト~、すご~い! うまく切り抜けたね!」

「戦わずして、相手を退かせるのも、これ軍略よ……」

「やあ! なんかカッコイイ! ねえ、そう言えば転生者って何?」

「さあ……、俺もわからないな……」

「ジュリさんに報告だね~」

「ああ、ニューヨークファミリーは、ギルドに対応してもらおう」

 そう言えばジュリさんが、ガラの悪い連中が王都から来ている、と言ってたな。
 あいつらの事か?

 ホーンラビットを買い占めて、あいつらどうする気なんだろう?
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