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第二章 新領地への旅
第35話 間話 ダークエルフの里
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ダークエルフのエクレールは、フォー辺境伯領の領都デバラスを朝早く出発した。
エクレールは変化スキルを使って、人族の男、行商人に変装した。
エクレールの乗った駅馬車は、夕方にカランの町に到着した。
カランの町はフォー辺境伯の寄子であるカラバジオ男爵の領都である。
エクレールは、駅馬車の御者に訪ねる。
「王都へ向かいたいのだが、次の馬車はいつだ?」
「三日後じゃないかな……」
「三日後……」
ルナール王国中央部に比べて、南部は人口が少なく、人の行き来も少ない。
町と町を結ぶ駅馬車の本数は少ない。
「走った方が早いな……」
翌朝、エクレールは、街道をひた走った。
ダークエルフは、エルフほど多彩な魔法は使えないし、ドワーフほどの力はない。
だからといって、ダークエルフが、エルフやドワーフに劣っているわけではない。
ダークエルフには、三つ秀でた特長がある。
一つは、闇魔法。
闇魔法はダークエルフと、ごく一部の人族しか使えない。
珍しい魔法なのだ。
もう一つは、アジリティ――素早さ、スピード。
最後の一つは、スタミナだ。
エクレールは、スタミナに任せて街道を全力疾走した。
そして次の町に着くと駅馬車の運行予定を聞き、予定が合えば駅馬車に乗り体を休めた。
人族では実現不可能な移動速度で、南部から王都へ、王都から西部にあるダークエルフの里へと移動した。
人族が駅馬車を使えば、二か月以上かかる道のりだが、移動に要した日数は、二十日間であった。
ダークエルフの里は、ルナール王国西部の海岸沿いにある。
ゴツゴツとした岩場が続く海岸だ。
人族は砂浜のある海岸を好むため、ダークエルフの里から大分離れた場所に人族の村がある。
ダークエルフと人族はあまり交流せずに暮らしていた。
海岸から少し内陸に入った林の中にエクレールの家は建っていた。
白い土壁の小さな家で、いかにも海沿いの村にあるようなノンビリした風情の家だ。
エクレールは、家に飛び込んだ。
妹のショコラの部屋へ向かう。
エクレールとショコラの両親は海難事故で行方不明になっている。
お互い唯一の親族なのだ。
妹ショコラは八歳。
ノエルの妹マリーと同い年であった。
「ショコラ?」
エクレールが妹の名を呼び、扉をノックするが返事はない。
そっと扉を開けるエクレール。
扉を開けるとベッドに横たわる妹のショコラがいた。
ベッドの横には、手のついてない食事や水差しが置いてある。
エクレールは、世話を頼んだ村人が、毎日妹の面倒を見に来ていることを確認出来てホッとした。
だが、ベッドに近づくと、妹ショコラの顔色は悪い。
ゲッソリとこけた頬。
青色を通り越し白くなった顔には、所々黒ずみが見える。
「ショコラ、ショコラ」
エクレールは優しく妹の名を呼ぶが返事はない。
口元に耳を近づけると微かに息をしている。
胸に手をあてると、鼓動が非常に弱い。
――妹は死の間際にある。
エクレールは腰にぶら下げたマジックバッグから、急いでエリクサーを取り出した。
瓶の口に刺さった栓を抜くと、清涼感のある薬草の匂いが漂った。
そっと妹ショコラの口元に瓶を近づける。
「ん……ん……」
妹のショコラから反応があった。
エクレールは、驚き目を見張る。
(匂いを嗅いだだけで! これなら助かる!)
エクレールは、妹ショコラの唇にエリクサーを一滴ずつ慎重に垂らす。
唇から口内へエリクサーが滴り落ち、しばらくすると喉が動いた。
(飲み込んだ……。ほんの少しだが回復しているぞ……。次は、もっと量を飲ませよう……)
エクレールは妹ショコラの上体を手で支え起し、口元にエリクサーの瓶をあてがう。
「ショコラ。聞こえるか? 私だ。エクレールだ。お姉ちゃんだ。よく効く薬を持ってきたぞ。ゆっくり飲むんだ」
エクレールが妹ショコラに優しく語りかけ、エリクサーの瓶を傾けると妹ショコラはエリクサーをゆっくり飲み始めた。
妹ショコラがエリクサーを飲み干すと、妹ショコラの体内から緑色の優しい光が広がった。
緑色の光は、妹ショコラの患部を治癒するように、長い時間ショコラの体を包み込んだ。
エクレールは、片手で妹ショコラを支えながら内心感嘆していた。
(これほどの光は見たことがない! 同じ魔法薬でもポーションとは違う! 頼む! 治ってくれ!)
エクレールは心の底から祈った。
緑色の光が収まると、妹ショコラのまぶたがピクリと動いた。
「ショコラ! ショコラ!」
エクレールの呼びかけに、妹ショコラはゆっくりと目を開けた。
「お姉ちゃん?」
妹ショコラの病は、すっかり良くなっていた。
*
――夜になった。
エクレールは、ダークエルフの族長に帰郷の挨拶に赴いた。
族長は頭から黒いローブを羽織った老婆で、家の前でたき火をしている。
「御婆様。ただいま」
「おお! お帰りエクレール! よく帰ってきたね!」
エクレールが声を掛けると、御婆様――老婆の族長はしわがれた声を嬉しそうに振るわした。
エクレールは族長のそばにあった丸太に腰掛けた。
「エクレール。エリクサーは手に入ったのかい?」
「ああ。手に入った」
「では、ショコラは?」
「病は治ったと思う。顔の黒ずみは取れ、顔色も良くなったし、呼吸も落ち着いた。食事も普通に出来るようになった」
「そうかい! 良かったよ! 良かったよ!」
老婆の族長は、シワだらけの顔をクシャクシャにして喜んだ。
「体力も戻ったようだ。ただ、痩せた体は戻るのに時間が掛かりそうだ」
「うん、うん。大丈夫さ。ご飯を食べれば、子供はすぐに大きくなるよ」
「そうだな」
「それで? どうやってエリクサーを手に入れたんだい?」
老婆の族長は、旅について詳しく聞いた。
老婆の族長にとって、一族の者は自分の子や孫同然なのだ。
可愛い孫の話を聞くように、ふんふんとエクレールの話を聞いた。
「そうかい。そうかい。情け深い人族の貴族様に救われたね」
「ああ。幸運だった。私は彼に仕えるつもりだ」
「ノエル・エトワール伯爵だね?」
「そうだ」
「その伯爵様について、もっと詳しく教えておくれ」
老婆の族長は、ノエルについて詳しく聞きたがった。
エクレールは、『なぜだろう?』と軽い疑問を感じたが、老婆の族長に自分の知っている情報を伝えた。
「ふむ……南部に新しい領地ねえ……。エクレール、我らダークエルフが移り住むことは出来るかえ?」
「えっ!? エトワール伯爵領に? ダークエルフの一族が移住するのか?」
エクレールは驚き、老婆の族長に聞き返した。
老婆の族長はため息交じりに、エクレールにダークエルフの里で起きた事態を教えた。
「実はねえ……。国王の使いが来て、このダークエルフの里を渡せと言うのさ……」
「ええ!?」
「人族以外は出て行けとさ……」
ダークエルフの里は、ルナール王国西部の海岸沿いにある。
西部は領地貴族の領地が多いが、国王直轄の王領がいくつかある。
ダークエルフの里は、いくつかある王領の中にあった。
ダークエルフは、王領を差配する代官に税として漁で得た海産物を納めていた。
これまでは何も問題がなかった。
だが、情勢が変わった。
ルナール王国の国王ルドヴィク十四世と宰相マザランは、ルナール王国内で国王の力を高めようとした。
王国中央部に領地を持つ貴族に何かと理由をつけて領地替えを行い、着々と国王の力を増やした。
当然、国王の部下である王国の官僚――宮廷貴族たちは、国王と宰相の意図を読み取り、少しでも実績を上げようとした。
ある下級官僚である宮廷貴族が王宮で過去の書類を調べていると、西部にある王領の隅にダークエルフの里があることを発見した。
ルナール王国は人族の国である。
獣人、エルフ、ドワーフ、ダークエルフも住んでいるが、人族に比べ人口は少なく、地球世界での少数民族のような扱いであった。
これまでは人族と他の種族が適度な距離感で交流し、特にトラブルは起きていなかった。
だが、国王が国王ルドヴィク十四世に変わると、人族至上主義が徐々に広まった。
当然、王宮の官僚たちも、人族至上主義に傾倒する。
下級官僚は考えた。
(ダークエルフを追い出せば、国王陛下のご領地を広げたことになる……。自分の実績になる……)
この下級官僚は自分の点数稼ぎの為に書類を作成した。
『王領は国王陛下のご領地である。人族以外は出て行け!』
下級官僚が作成した書類を持って、王宮からの使いがダークエルフの里に訪問した。
エクレールが帰郷する一週間前である。
エクレールは、老婆の族長から事情を聞いてフウッと息を吐いた。
「そうか……国王の命令なら逆らうわけにもいかないか……」
「そうさね。それで、あんたを助けた伯爵様の領地に移住できないかと思ったのさ。どうだろうね?」
「エトワール伯爵たちは、人手不足と言っていたから受け入れてもらえると思う」
「そうかい。伯爵様のご領地は、どの辺りさね?」
エクレールは、地面に指で地図を描いた。
「このあたり。南部の一番南だ」
「ほう! 海があるじゃないか! 船を使えばすぐだよ! エクレールや。伯爵様に移住の話をしてくれないか?」
「ああ。わかった。ショコラの病気が治ったら、エトワール伯爵の元へ向かうつもりだった。里のみんなが住めないか聞いてみよう」
「ありがとう。助かるよ。ついでに若いのを何人か連れて行っておくれ」
「承知した」
*
エクレールは妹ショコラの容態を一週間観察したが問題はなかった。
最上位の魔法薬であるエリクサーは、妹ショコラの病を完治した。
エクレールは、妹のショコラと若いダークエルフ四人を連れて船を出した。
船は帆が一つだけの双胴船で、六人は交代で帆を操り、舵を切り、エトワール伯爵領を目指した。
エクレールの妹ショコラは、エクレールにもらったお土産プレッシュのドライフルーツを口にした。
「お姉ちゃん! ドライフルーツ美味しいね! 新しいお家でも食べられる?」
「ああ! 南部は果物が多い! ドライフルーツだけじゃなく、新鮮な果物を沢山食べられるぞ!」
「楽しみ!」
エクレールたちが乗った双胴船は、南へ向かう海流に乗った。
帆が風を受け、舳先が波を切る。
姉妹は新しい生活の期待に胸を膨らませた。
エクレールは変化スキルを使って、人族の男、行商人に変装した。
エクレールの乗った駅馬車は、夕方にカランの町に到着した。
カランの町はフォー辺境伯の寄子であるカラバジオ男爵の領都である。
エクレールは、駅馬車の御者に訪ねる。
「王都へ向かいたいのだが、次の馬車はいつだ?」
「三日後じゃないかな……」
「三日後……」
ルナール王国中央部に比べて、南部は人口が少なく、人の行き来も少ない。
町と町を結ぶ駅馬車の本数は少ない。
「走った方が早いな……」
翌朝、エクレールは、街道をひた走った。
ダークエルフは、エルフほど多彩な魔法は使えないし、ドワーフほどの力はない。
だからといって、ダークエルフが、エルフやドワーフに劣っているわけではない。
ダークエルフには、三つ秀でた特長がある。
一つは、闇魔法。
闇魔法はダークエルフと、ごく一部の人族しか使えない。
珍しい魔法なのだ。
もう一つは、アジリティ――素早さ、スピード。
最後の一つは、スタミナだ。
エクレールは、スタミナに任せて街道を全力疾走した。
そして次の町に着くと駅馬車の運行予定を聞き、予定が合えば駅馬車に乗り体を休めた。
人族では実現不可能な移動速度で、南部から王都へ、王都から西部にあるダークエルフの里へと移動した。
人族が駅馬車を使えば、二か月以上かかる道のりだが、移動に要した日数は、二十日間であった。
ダークエルフの里は、ルナール王国西部の海岸沿いにある。
ゴツゴツとした岩場が続く海岸だ。
人族は砂浜のある海岸を好むため、ダークエルフの里から大分離れた場所に人族の村がある。
ダークエルフと人族はあまり交流せずに暮らしていた。
海岸から少し内陸に入った林の中にエクレールの家は建っていた。
白い土壁の小さな家で、いかにも海沿いの村にあるようなノンビリした風情の家だ。
エクレールは、家に飛び込んだ。
妹のショコラの部屋へ向かう。
エクレールとショコラの両親は海難事故で行方不明になっている。
お互い唯一の親族なのだ。
妹ショコラは八歳。
ノエルの妹マリーと同い年であった。
「ショコラ?」
エクレールが妹の名を呼び、扉をノックするが返事はない。
そっと扉を開けるエクレール。
扉を開けるとベッドに横たわる妹のショコラがいた。
ベッドの横には、手のついてない食事や水差しが置いてある。
エクレールは、世話を頼んだ村人が、毎日妹の面倒を見に来ていることを確認出来てホッとした。
だが、ベッドに近づくと、妹ショコラの顔色は悪い。
ゲッソリとこけた頬。
青色を通り越し白くなった顔には、所々黒ずみが見える。
「ショコラ、ショコラ」
エクレールは優しく妹の名を呼ぶが返事はない。
口元に耳を近づけると微かに息をしている。
胸に手をあてると、鼓動が非常に弱い。
――妹は死の間際にある。
エクレールは腰にぶら下げたマジックバッグから、急いでエリクサーを取り出した。
瓶の口に刺さった栓を抜くと、清涼感のある薬草の匂いが漂った。
そっと妹ショコラの口元に瓶を近づける。
「ん……ん……」
妹のショコラから反応があった。
エクレールは、驚き目を見張る。
(匂いを嗅いだだけで! これなら助かる!)
エクレールは、妹ショコラの唇にエリクサーを一滴ずつ慎重に垂らす。
唇から口内へエリクサーが滴り落ち、しばらくすると喉が動いた。
(飲み込んだ……。ほんの少しだが回復しているぞ……。次は、もっと量を飲ませよう……)
エクレールは妹ショコラの上体を手で支え起し、口元にエリクサーの瓶をあてがう。
「ショコラ。聞こえるか? 私だ。エクレールだ。お姉ちゃんだ。よく効く薬を持ってきたぞ。ゆっくり飲むんだ」
エクレールが妹ショコラに優しく語りかけ、エリクサーの瓶を傾けると妹ショコラはエリクサーをゆっくり飲み始めた。
妹ショコラがエリクサーを飲み干すと、妹ショコラの体内から緑色の優しい光が広がった。
緑色の光は、妹ショコラの患部を治癒するように、長い時間ショコラの体を包み込んだ。
エクレールは、片手で妹ショコラを支えながら内心感嘆していた。
(これほどの光は見たことがない! 同じ魔法薬でもポーションとは違う! 頼む! 治ってくれ!)
エクレールは心の底から祈った。
緑色の光が収まると、妹ショコラのまぶたがピクリと動いた。
「ショコラ! ショコラ!」
エクレールの呼びかけに、妹ショコラはゆっくりと目を開けた。
「お姉ちゃん?」
妹ショコラの病は、すっかり良くなっていた。
*
――夜になった。
エクレールは、ダークエルフの族長に帰郷の挨拶に赴いた。
族長は頭から黒いローブを羽織った老婆で、家の前でたき火をしている。
「御婆様。ただいま」
「おお! お帰りエクレール! よく帰ってきたね!」
エクレールが声を掛けると、御婆様――老婆の族長はしわがれた声を嬉しそうに振るわした。
エクレールは族長のそばにあった丸太に腰掛けた。
「エクレール。エリクサーは手に入ったのかい?」
「ああ。手に入った」
「では、ショコラは?」
「病は治ったと思う。顔の黒ずみは取れ、顔色も良くなったし、呼吸も落ち着いた。食事も普通に出来るようになった」
「そうかい! 良かったよ! 良かったよ!」
老婆の族長は、シワだらけの顔をクシャクシャにして喜んだ。
「体力も戻ったようだ。ただ、痩せた体は戻るのに時間が掛かりそうだ」
「うん、うん。大丈夫さ。ご飯を食べれば、子供はすぐに大きくなるよ」
「そうだな」
「それで? どうやってエリクサーを手に入れたんだい?」
老婆の族長は、旅について詳しく聞いた。
老婆の族長にとって、一族の者は自分の子や孫同然なのだ。
可愛い孫の話を聞くように、ふんふんとエクレールの話を聞いた。
「そうかい。そうかい。情け深い人族の貴族様に救われたね」
「ああ。幸運だった。私は彼に仕えるつもりだ」
「ノエル・エトワール伯爵だね?」
「そうだ」
「その伯爵様について、もっと詳しく教えておくれ」
老婆の族長は、ノエルについて詳しく聞きたがった。
エクレールは、『なぜだろう?』と軽い疑問を感じたが、老婆の族長に自分の知っている情報を伝えた。
「ふむ……南部に新しい領地ねえ……。エクレール、我らダークエルフが移り住むことは出来るかえ?」
「えっ!? エトワール伯爵領に? ダークエルフの一族が移住するのか?」
エクレールは驚き、老婆の族長に聞き返した。
老婆の族長はため息交じりに、エクレールにダークエルフの里で起きた事態を教えた。
「実はねえ……。国王の使いが来て、このダークエルフの里を渡せと言うのさ……」
「ええ!?」
「人族以外は出て行けとさ……」
ダークエルフの里は、ルナール王国西部の海岸沿いにある。
西部は領地貴族の領地が多いが、国王直轄の王領がいくつかある。
ダークエルフの里は、いくつかある王領の中にあった。
ダークエルフは、王領を差配する代官に税として漁で得た海産物を納めていた。
これまでは何も問題がなかった。
だが、情勢が変わった。
ルナール王国の国王ルドヴィク十四世と宰相マザランは、ルナール王国内で国王の力を高めようとした。
王国中央部に領地を持つ貴族に何かと理由をつけて領地替えを行い、着々と国王の力を増やした。
当然、国王の部下である王国の官僚――宮廷貴族たちは、国王と宰相の意図を読み取り、少しでも実績を上げようとした。
ある下級官僚である宮廷貴族が王宮で過去の書類を調べていると、西部にある王領の隅にダークエルフの里があることを発見した。
ルナール王国は人族の国である。
獣人、エルフ、ドワーフ、ダークエルフも住んでいるが、人族に比べ人口は少なく、地球世界での少数民族のような扱いであった。
これまでは人族と他の種族が適度な距離感で交流し、特にトラブルは起きていなかった。
だが、国王が国王ルドヴィク十四世に変わると、人族至上主義が徐々に広まった。
当然、王宮の官僚たちも、人族至上主義に傾倒する。
下級官僚は考えた。
(ダークエルフを追い出せば、国王陛下のご領地を広げたことになる……。自分の実績になる……)
この下級官僚は自分の点数稼ぎの為に書類を作成した。
『王領は国王陛下のご領地である。人族以外は出て行け!』
下級官僚が作成した書類を持って、王宮からの使いがダークエルフの里に訪問した。
エクレールが帰郷する一週間前である。
エクレールは、老婆の族長から事情を聞いてフウッと息を吐いた。
「そうか……国王の命令なら逆らうわけにもいかないか……」
「そうさね。それで、あんたを助けた伯爵様の領地に移住できないかと思ったのさ。どうだろうね?」
「エトワール伯爵たちは、人手不足と言っていたから受け入れてもらえると思う」
「そうかい。伯爵様のご領地は、どの辺りさね?」
エクレールは、地面に指で地図を描いた。
「このあたり。南部の一番南だ」
「ほう! 海があるじゃないか! 船を使えばすぐだよ! エクレールや。伯爵様に移住の話をしてくれないか?」
「ああ。わかった。ショコラの病気が治ったら、エトワール伯爵の元へ向かうつもりだった。里のみんなが住めないか聞いてみよう」
「ありがとう。助かるよ。ついでに若いのを何人か連れて行っておくれ」
「承知した」
*
エクレールは妹ショコラの容態を一週間観察したが問題はなかった。
最上位の魔法薬であるエリクサーは、妹ショコラの病を完治した。
エクレールは、妹のショコラと若いダークエルフ四人を連れて船を出した。
船は帆が一つだけの双胴船で、六人は交代で帆を操り、舵を切り、エトワール伯爵領を目指した。
エクレールの妹ショコラは、エクレールにもらったお土産プレッシュのドライフルーツを口にした。
「お姉ちゃん! ドライフルーツ美味しいね! 新しいお家でも食べられる?」
「ああ! 南部は果物が多い! ドライフルーツだけじゃなく、新鮮な果物を沢山食べられるぞ!」
「楽しみ!」
エクレールたちが乗った双胴船は、南へ向かう海流に乗った。
帆が風を受け、舳先が波を切る。
姉妹は新しい生活の期待に胸を膨らませた。
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宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
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