没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

文字の大きさ
52 / 92
第三章 ノエル南部に立つ!

第52話 村の名前を命名

しおりを挟む
 ――五日後。

 俺たちは、フォー辺境伯の領都デバラスからエトワール伯爵領に帰り忙しく働いていた。

 まず食料。
 フォー辺境伯の領都デバラスで買い付けた小麦粉と冒険者ギルドで解体してもらった魔物ホーンラビットの肉の分配だ。
 ドライフルーツ作りを手伝ってくれた領民たちに、お給料代わりとして小麦粉と肉を渡した。さらに領民が作ったドライフルーツの売却額相当の小麦粉と肉を渡した。

 領民は非常に喜んでいて、早速パンを焼いていた。
 開拓村のあちこちで炊煙が上がり、パンを焼く香ばしい食欲をそそる匂いが漂った。
 子供たちもパンと肉を頬張り、腹一杯になった領民たちはみんな幸せそうな顔をしていた。

 次は帳簿だ。
 これは執事のセバスチャンが請け負ってくれたのだが、面倒なのは売り上げの分配だ。

 例えば、妹のマリーが作ったドライフルーツは、マリーの売り上げであると俺は考えた。
 執事のセバスチャンは、領地の売り上げとしてマリーには小遣いを渡せば良いと言うが、帳簿は分けてもらった。

 つまりドライフルーツ工房は、マリーの工房として帳簿を独立させたのだ。
 その上で、売り上げの一割を商業税として納めてもらうことにした。

「ノエル様。なぜ、このような面倒な処理をされるのでしょうか?」

 執事のセバスチャンは、俺の希望に添いながらも疑問を呈した。
 この世界の貴族は、家父長権が強い。
 一家の当主が全てを決めるし、全てを取る。
 エトワール伯爵家の事業であれば、エトワール伯爵家の当主である俺が総取りをしても良いのだ。
 しかし、俺は違う選択をした。

「妹のマリーは、もう、何年かしたら結婚をするからね」

 妹のマリーは八歳だ。
 貴族の娘であれば、十三歳ともなれば婚約者がいても不思議ではない。
 十五歳、十六歳になれば、当たり前のように結婚する。

 妹のマリーは、他の貴族家の男性と結婚しエトワール伯爵領を出るかもしれないし、婿養子を取ってエトワール伯爵領内に別家を立てるかもしれない。

 その時に、マリーの工房をどうするか?
 マリーが続けても良いし、人を雇ってマリーがオーナーになっても良いし、俺が買い取っても良いし、民間に売却しても良い。
 どうなっても良いように、対応しやすいように、会計を分けたのだ。

 妹のマリーには、人生の選択肢をなるたけ多く与えたい。

 俺が理由を話すと、執事のセバスチャンは笑顔で面倒な会計処理を引き受けてくれた。
 同様に執事のセバスチャンが倒した魔物の代金は、執事のセバスチャンの取り分だ。
 家族を呼び寄せた時の資金として貯金しておけというと目を赤くしていた。


 俺は自分の工房にこもって、商人用の幌馬車と貴族用の箱馬車を新造していた。

 商人用の幌馬車は、新しい構造で仕上げた。
 ベースになる荷台は木製。
 幌を張る骨組みは、細い鋼管に塩ビをコーティングして組み上げた。
 軽さ、丈夫さ、サビ対策だ。

 幌は防水加工を施した厚手のポリエステルを張った。
 白一色だが、オプションで色つきにも対応する。

 御者席の横にさりげなく俺の工房のマーク『青い彗星』を入れた。
 やはり早さといえば彗星だろう。

 貴族用の馬車はジロンド子爵の分だ。
 こちらは貴族に相応しい大型の箱馬車で、俺たちが使っている馬車がベースだ。

 商人用の馬車も貴族用の馬車もタイヤはゴムタイヤだ。
 丈夫な金属製のベアリングを車軸に取り付けたので、馬車を牽く馬の負担も軽減される。

 俺が工房で作業をしていると、執事のセバスチャンがやって来た。

「ノエル様。冒険者ギルドから先触れが参りました。三日後に調査チームがいらっしゃるそうです」

「おっ! いよいよか!」

 俺は冒険者ギルドの誘致を行った。
 エトワール伯爵領に冒険者ギルドを設置できるかどうか調査するチームが派遣されるのだ。
 冒険者ギルド向けの建物を作らなきゃならないし、調査チーム受け入れに際してやることが多い。

「ノエル様。そろそろ村の名前をつけて下さい」

 執事のセバスチャンが急かす。
 開拓村には一応名前があった。
 王領だった時に、王様から派遣された役人がつけた名前だ。
 昔の王様のやたら長い名前だったそうだ。
 村人も覚えていない。

 そこで新領主の俺が名前をつけることになったのだが、俺としては何でも良い。
 川が近くにあるからリバー村とかでも良いのだ。
 だが、執事のセバスチャンは、この村を発展させて領都になるのだから立派な名前をつけろと言う。

 俺は考えていた名前をセバスチャンに告げた。

「ネオトキオ」

「真面目にお考え下さい」

 秒で却下された。
 ちゃんと考えたのにヒドイな。
 執事のセバスチャンとしては、どうも音の響きが気に入らないらしい。

 俺は名前をつけるべく連想する。
 魔の森があって、海がある。
 海……海か……!

 将来は開拓村を広げて海までつなげたい。
 海に関する名前にしよう。

「ベルメールはどうだ?」

「ベルメール……美しい海ですね……。ベルメール、領都ベルメール……。良い名前でございますね!」

「よし! では、ベルメールと命名する!」

 こうして俺の領地の領都、というか開拓村の名前はベルメールと決まった。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...