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第四章 国際都市ベルメールへ
第70話 間話 フォー辺境伯と執事ウエストラル
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――フォー辺境伯領。領都デバラスにある領主屋敷の執務室。
フォー辺境伯は執務室で部下から報告を受けた。
部下はいかにもデバラスの荒くれといった風体で、モジャモジャのアゴヒゲをしごきながらフォー辺境伯に報告を行った。
フォー辺境伯は部下の報告に軽く驚く。
「なに? ジロンド子爵が、エトワール伯爵領に人を送っている?」
フォー辺境伯は、ノエル・エトワールの北側に領地を持つ南部の有力貴族である。
ノエルの『お隣さん』である。
フォー辺境伯の部下は、ざっくばらんな口調で答える。
「へい。ちょっと調べたんでやすが、貴族の次男坊やら三男坊、それから農民の次男坊やら三男坊が沢山いやした」
「人数は?」
「五十人ちょいでさあ。ただ、バラバラに動いてるんで、十人でひとかたまりって感じでさあ」
「ん。そうか。ご苦労。これ、とっとけ」
フォー辺境伯は、銀貨を親指でピンと弾いて部下に渡した。
部下は銀貨を受け取ると、嬉しそうに執務室から出て行く。
フォー辺境伯が部下の背中に怒鳴る。
「飲み過ぎるなよ!」
部下は聞いていない。
軽やかにスキップしながら真っ直ぐに酒場に向かった。
「まったく仕方ないヤツだ! ウエストラル、今の情報はどう思う?」
フォー辺境伯は、お行儀悪く応接ソファーに寝っ転がりながら、執事のウエストラルに声を掛けた。
ウエストラルはフォー辺境伯に仕える執事だ。
見た目はダンディーな五十代のナイスシルバーであるが、騎竜に乗り嬉々として戦いに臨む。
辺境を縄張りとするフォー辺境伯家に相応しい男である。
執事のウエストラルは渋い声で、フォー辺境伯に答える。
「ジロンド子爵様は、エトワール伯爵様と妹御を、ことのほか可愛がっておいででした」
「おいおい! 俺も可愛がってたぞ!」
「ハハハッ! エトワール伯爵様は人気ですね! ジロンド子爵様は、エトワール伯爵家に肩入れするおつもりでしょう」
フォー辺境伯は、天井を見ながら考える。
ジロンド子爵の狙いは何だろうか?
「肩入れ? つまり善意の後見人ということか?」
「どうでしょう……。そういった意味合いもありましょうが、成長著しいエトワール伯爵領に影響力を持ちたいのでは?」
「それか! それで次男坊や三男坊を送り込んでいるのか!」
フォー辺境伯はジロンド子爵の狙いに気が付いた。
自分の領地で余っている人材、くすぶっている人材を集めて、エトワール伯爵領に送り込み定住させる。
そして――。
「エトワール伯爵領にジロンド子爵派の住民を作るつもりだな!」
「恐らくそれが狙いでしょうね。エトワール伯爵領は日進月歩ですから」
「まったくだ! ノエル・エトワール伯爵か……ぱっと見は人の良さそうな少年だが、なかなかの豪腕だよな。ダークエルフの一族を引き入れ、エルフ、ドワーフも! 冒険者ギルドの誘致にも成功した!」
「おかげでデバラスの商人は潤っています。特に食料がよく売れていると。生産が間に合っていないようでうね」
「ありがたいお隣さんだな」
フォー辺境伯は起き上がり応接ソファーに腰掛ける。
執事のウエストラルが、さっとコップに入ったアイスティーを差し出す。
フォー辺境伯は、ガラスのコップを手に取りアイスティーを一口。
手の中にあるガラスのコップをジッと見て、首を傾ける。
「あれ? このグラスは? 初めて見るぞ?」
「エトワールグラスです。エトワール伯爵領で生産を始めたそうです。試しに買ってみました。これは実用品なのでシンプルなデザインですが、凝ったデザインも売り出すそうです」
「あいつ……! ガラスの生産を始めたのか!?」
「石英と石灰岩が見つかったそうです」
「うーん……。エトワール伯爵領の南は手つかずの魔の森だ……。開拓すれば、色々出てくるだろうとは思っていたが、こんなに早く開拓が進むとはな……。俺が手を付けていれば……」
フォー辺境伯は、自分が魔の森を開拓すれば良かったと少し後悔の気持ちが湧いた。
しかし、執事のウエストラルがバッサリと切る。
「未練ですな。あの広大な魔の森を開拓するなど夢物語です」
「だが、エトワール伯爵はやっているぞ!」
「そこが不思議でなりません。エトワール伯爵領は人が増え、畑も増え、昔の開拓村の名残は、もう、ございません。一体、どうやって居住可能領域を広げたのか……」
「まあ、何かカラクリがあるだろうな」
「はい。ですが重要なのは、今、エトワール伯爵領は非常に伸びているということです。どうなさいますか? 友好? 敵対」
執事のウエストラルが好戦的な笑みを見せる。
フォー辺境伯は、アイスティーを飲みながら、片手をチョイチョイと動かして執事のウエストラルを抑える。
「敵対はせんよ。幼い伯爵と妹を虐めるなんて外聞が悪すぎる。それにエトワール伯爵は、南部全体を考えられる男だ。俺としては、このまま順調に育って欲しいよ」
「では、南部で有力な貴族家の一つにエトワール伯爵家が加わっても良いと?」
「良い悪いではなく加わるだろう。この調子なら」
執事のウエストラルは、フォー辺境伯の意外な言葉に驚く。
南部は四つの有力貴族家が取り仕切り、これまでバランスがとれていた。
ここにエトワール伯爵家が加われば、南部のパワーバランスが崩れる。
フォー辺境伯は、そんな未来を感じている。
(そこまでエトワール伯爵を評価しているのか……)
ならば! と、執事のウエストラルは、エトワール伯爵家への対応を提案する。
「なるほど。であれば、当家も食い込みませんと」
「だな! よーし! ウチも人を送り込もう! エトワール伯爵家にフォー辺境伯派を作るぞ!」
「それがよろしいかと。さすがのご決断です」
「人を集めろ! ジロンド子爵よりも多くだぞ!」
執事のウエストラルは、フォー辺境伯の言葉を聞いてニコッと笑った。
「かしこまりました」
この後、執事のウエストラルは、『エトワール伯爵領で一旗揚げよう!』を宣伝文句にして大々的に人を集めた。
フォー辺境伯は執務室で部下から報告を受けた。
部下はいかにもデバラスの荒くれといった風体で、モジャモジャのアゴヒゲをしごきながらフォー辺境伯に報告を行った。
フォー辺境伯は部下の報告に軽く驚く。
「なに? ジロンド子爵が、エトワール伯爵領に人を送っている?」
フォー辺境伯は、ノエル・エトワールの北側に領地を持つ南部の有力貴族である。
ノエルの『お隣さん』である。
フォー辺境伯の部下は、ざっくばらんな口調で答える。
「へい。ちょっと調べたんでやすが、貴族の次男坊やら三男坊、それから農民の次男坊やら三男坊が沢山いやした」
「人数は?」
「五十人ちょいでさあ。ただ、バラバラに動いてるんで、十人でひとかたまりって感じでさあ」
「ん。そうか。ご苦労。これ、とっとけ」
フォー辺境伯は、銀貨を親指でピンと弾いて部下に渡した。
部下は銀貨を受け取ると、嬉しそうに執務室から出て行く。
フォー辺境伯が部下の背中に怒鳴る。
「飲み過ぎるなよ!」
部下は聞いていない。
軽やかにスキップしながら真っ直ぐに酒場に向かった。
「まったく仕方ないヤツだ! ウエストラル、今の情報はどう思う?」
フォー辺境伯は、お行儀悪く応接ソファーに寝っ転がりながら、執事のウエストラルに声を掛けた。
ウエストラルはフォー辺境伯に仕える執事だ。
見た目はダンディーな五十代のナイスシルバーであるが、騎竜に乗り嬉々として戦いに臨む。
辺境を縄張りとするフォー辺境伯家に相応しい男である。
執事のウエストラルは渋い声で、フォー辺境伯に答える。
「ジロンド子爵様は、エトワール伯爵様と妹御を、ことのほか可愛がっておいででした」
「おいおい! 俺も可愛がってたぞ!」
「ハハハッ! エトワール伯爵様は人気ですね! ジロンド子爵様は、エトワール伯爵家に肩入れするおつもりでしょう」
フォー辺境伯は、天井を見ながら考える。
ジロンド子爵の狙いは何だろうか?
「肩入れ? つまり善意の後見人ということか?」
「どうでしょう……。そういった意味合いもありましょうが、成長著しいエトワール伯爵領に影響力を持ちたいのでは?」
「それか! それで次男坊や三男坊を送り込んでいるのか!」
フォー辺境伯はジロンド子爵の狙いに気が付いた。
自分の領地で余っている人材、くすぶっている人材を集めて、エトワール伯爵領に送り込み定住させる。
そして――。
「エトワール伯爵領にジロンド子爵派の住民を作るつもりだな!」
「恐らくそれが狙いでしょうね。エトワール伯爵領は日進月歩ですから」
「まったくだ! ノエル・エトワール伯爵か……ぱっと見は人の良さそうな少年だが、なかなかの豪腕だよな。ダークエルフの一族を引き入れ、エルフ、ドワーフも! 冒険者ギルドの誘致にも成功した!」
「おかげでデバラスの商人は潤っています。特に食料がよく売れていると。生産が間に合っていないようでうね」
「ありがたいお隣さんだな」
フォー辺境伯は起き上がり応接ソファーに腰掛ける。
執事のウエストラルが、さっとコップに入ったアイスティーを差し出す。
フォー辺境伯は、ガラスのコップを手に取りアイスティーを一口。
手の中にあるガラスのコップをジッと見て、首を傾ける。
「あれ? このグラスは? 初めて見るぞ?」
「エトワールグラスです。エトワール伯爵領で生産を始めたそうです。試しに買ってみました。これは実用品なのでシンプルなデザインですが、凝ったデザインも売り出すそうです」
「あいつ……! ガラスの生産を始めたのか!?」
「石英と石灰岩が見つかったそうです」
「うーん……。エトワール伯爵領の南は手つかずの魔の森だ……。開拓すれば、色々出てくるだろうとは思っていたが、こんなに早く開拓が進むとはな……。俺が手を付けていれば……」
フォー辺境伯は、自分が魔の森を開拓すれば良かったと少し後悔の気持ちが湧いた。
しかし、執事のウエストラルがバッサリと切る。
「未練ですな。あの広大な魔の森を開拓するなど夢物語です」
「だが、エトワール伯爵はやっているぞ!」
「そこが不思議でなりません。エトワール伯爵領は人が増え、畑も増え、昔の開拓村の名残は、もう、ございません。一体、どうやって居住可能領域を広げたのか……」
「まあ、何かカラクリがあるだろうな」
「はい。ですが重要なのは、今、エトワール伯爵領は非常に伸びているということです。どうなさいますか? 友好? 敵対」
執事のウエストラルが好戦的な笑みを見せる。
フォー辺境伯は、アイスティーを飲みながら、片手をチョイチョイと動かして執事のウエストラルを抑える。
「敵対はせんよ。幼い伯爵と妹を虐めるなんて外聞が悪すぎる。それにエトワール伯爵は、南部全体を考えられる男だ。俺としては、このまま順調に育って欲しいよ」
「では、南部で有力な貴族家の一つにエトワール伯爵家が加わっても良いと?」
「良い悪いではなく加わるだろう。この調子なら」
執事のウエストラルは、フォー辺境伯の意外な言葉に驚く。
南部は四つの有力貴族家が取り仕切り、これまでバランスがとれていた。
ここにエトワール伯爵家が加われば、南部のパワーバランスが崩れる。
フォー辺境伯は、そんな未来を感じている。
(そこまでエトワール伯爵を評価しているのか……)
ならば! と、執事のウエストラルは、エトワール伯爵家への対応を提案する。
「なるほど。であれば、当家も食い込みませんと」
「だな! よーし! ウチも人を送り込もう! エトワール伯爵家にフォー辺境伯派を作るぞ!」
「それがよろしいかと。さすがのご決断です」
「人を集めろ! ジロンド子爵よりも多くだぞ!」
執事のウエストラルは、フォー辺境伯の言葉を聞いてニコッと笑った。
「かしこまりました」
この後、執事のウエストラルは、『エトワール伯爵領で一旗揚げよう!』を宣伝文句にして大々的に人を集めた。
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