没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

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第五章 領地の拡大

第89話 間話 ダークエルフの恩返し(中編)

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 ダークエルフのエクレールたち五人は、王都に到着すると早速活動を開始した。
 ダークエルフの種族特性は、闇魔法に秀でていることだ。

 今回選抜された五人は、闇魔法の【形態変化】を得意としていた。
 長時間に渡って他人に化けることが出来る。
 ダークエルフ以外の種族にも化けることも可能だ。

 ダークエルフたちは特技を生かして、宰相の屋敷に潜り込む。

 エクレールと女ダークエルフは、人族の中年女に化けメイドとして潜り込んだ。
 若い男のダークエルフは、若い人族の男に化けて庭師として潜り込む。

 中年男のダークエルフは人族の商人に化けた。
 若い男のダークエルフは人族の冒険者に化け、商人の護衛に扮した。
 二人は宰相の屋敷と取引を始めた。

 こうして、宰相の屋敷内で目を光らす者が三人――メイド二人と庭師。
 屋敷へ出入りしながら、屋敷と王都内で情報を集める者が二人――商人と護衛。

 五人は配置に付き、ターゲットの男を捜した。
 エクレールに嘘をつき、ノエル・エトワールを暗殺させようとした男。

(妹の病気にかこつけて、私を騙した落とし前をつけさせてもらうぞ! )

 エクレールは、静かに闘志を燃やしていた。


 五人が王都に来て一月過ぎたが、目当ての男――エクレールにノエル・エトワール暗殺を依頼した男は見つからなかった。

 夜になり五人は、宿屋の部屋に集まった。

「ダメだ! あの男は出入りしていない!」

 エクレールが荒れる。
 闇魔法【消音】をかけてあるので、部屋の外に話し声は漏れない。
 だが、床を蹴る振動は下の階に響いてしまう。

 年かさのダークエルフの男が、エクレールを制止する。

「落ち着け! この手の仕事は焦っても良いことなどない。冷静に状況を見直し、よく考えるんだ」

 男はこの手の潜入仕事に慣れていた。
 エクレールは先輩にたしなめられて、シブシブと椅子に座る。

 年かさのダークエルフが、エクレールにゆっくりと説く。

「確かに目当ての男は見つけていない。だが、宰相の交流関係は日々チェックしている。情報は確実に溜まっているのだ」

「うむ……」

 エクレールは腕を組んで返事をする。
 宰相の屋敷でメイドをしていれば、出入りしている者の姿を目にし、名前を耳にする。
 エクレールは、自分が見聞きした情報は全て年かさのダークエルフに伝えていた。

 年かさのダークエルフは、テーブルの上にのせたメモ書きに目を落とす。
 メモ書きには、宰相の屋敷で働いている者の名前や宰相の屋敷に出入りした者の名前が書いてあった。

「宰相の交流関係は分かってきた。屋敷に怪しい者の出入りはない」

 宰相の屋敷には、貴族の出入りが多い。
 社交もあれば、陳情もあるようだ。
 他には商人が訪れただけで、商人は大店の筋の良い商人だった。
 汚れ仕事に関係ありそうな人物の出入りはない。

 年かさのダークエルフは、アゴに手をあてて自分の考えを述べる。

「となると……。宰相は、エクレールを雇った男に直接会っていないのではないか?」

「ん? どういうことだ?」

 年かさのダークエルフの言葉に、エクレールが首をかしげる。

「宰相は指示を出すだけで、エクレールを雇った男との間に一人挟んでいるのではないか? その間に入った者が、エクレールを雇った男に会って指示を伝えているのでは……?」

「なるほど………」

 宰相
 ↓
 エクレールを雇った男
 ↓
 エクレール

 ではなく、

 宰相
 ↓
 伝言役
 ↓
 エクレールを雇った男
 ↓
 エクレール

 と、年かさのダークエルフは身振り手振りを交えて説明した。

 エクレールは年かさのダークエルフの説明を聞きながら、なかなか面倒だなと感じていた。

「宰相は用心深く立ち回っているということか?」

「うむ。立場が立場だからな。汚れ仕事は、下の者に押しつけているのだろう」

「むむむ……」

 屋敷に潜入している三人は、ジリッとした焦りを感じた。

(このまま宰相の屋敷で働いていても、自分を雇った男にたどり着けないのでは? 何か他に手はないか?)

 エクレールが、そんなことを考えていると、護衛に扮している若いダークエルフが意見を述べた。

「気になることがある。三日前、居酒屋で宰相の執事を見かけたぞ。ガラの悪い男と何やら話し込んでいた」

「「「「何!?」」」」

 四人の目が一斉に若いダークエルフに向いた。
 若いダークエルフは、慌てて言葉を継ぐ。

「執事と一緒にいた男の人相風体はターゲットの男と違っていた。筋骨隆々のゴロツキだったよ。ただ、執事がそんな男と会っているのは変だなと思ったんだ」

 若いダークエルフの言葉に、場の温度が上がった。

「確かにおかしいな……」

「執事が伝言役なのでは?」

「あり得る!」

 年かさのダークエルフが、深くうなずく。

「よし! 執事の動向を調べるぞ!」
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