5 / 6
第5話:理性が溶かされた夜 ※
しおりを挟む
ギルド宿舎の最上階。Aランク冒険者に割り当てられた上級個室。
そこは、市場の喧騒とは無縁の静寂と、洗練された調度品に囲まれた空間だ。
だが、帰宅した私は、鎧を脱ぎ捨てるのももどかしく、すぐに浴室へ向かった。
熱い湯を浴び、今日の出来事を洗い流そうとした。
それも、無駄だった。
どれだけ肌をこすっても、脇腹に残るあの「感触」は消えない。
むしろ、湯気で肌が火照るほどに、あの節くれだった指の熱さが鮮明に蘇ってくる。
(落ち着け、セルウィン。疲れているだけだ)
自分に言い聞かせ、バスローブを羽織って寝室へ戻る。
広々としたキングサイズのベッド。最高級のシルクのシーツ。
いつもなら、この快適な空間で深い眠りに落ち、明日の探索に備えるはずだった。
だが、眠れない。
視界の端に、サイドテーブルに置いた「それ」が入る。
市場で買った、安っぽい布袋のポプリ。洗練されたこの部屋には、あまりにも場違いな異物。
私は、吸い寄せられるように手を伸ばした。
指先で布袋をつまみ上げる。顔に近づける。ゆっくりと、息を吸い込む。
――甘い。
ぶわり、と。
頭の芯が痺れるような甘い香りが、鼻腔から肺へ、そして血流に乗って全身へと駆け巡った。
瞬間、湯気でぼやけた頭の中に、あの監視小屋の光景が、暴力的なまでの解像度で再構築された。
『そんなに匂うか?』
そう言って、自分の胸元をパタパタと仰いだ仕草。
開いた襟の隙間。無防備に晒された喉仏。
汗ばんで、しっとりと光る鎖骨の窪み。
そして、服の下に隠された、分厚く、弾力のある胸板の陰影。そしてその奥に一瞬だけ見えた、日に焼けた肌とは対照的な、意外なほど淡い色の頂。
「ッ……ぅ……」
喉の奥から、くぐもった声が漏れた。
ポプリを握りしめる手に力がこもる。
これはただの薬草だ。乾燥した植物の死骸だ。
だが、今の私には、これが「ドノバンそのもの」に思えてならなかった。
私はベッドに倒れ込み、ポプリを顔に押し当てた。
まるで、あの男の胸に顔を埋めているかのような錯覚。
想像してしまった。
もし、この香りの主が、今、ここにいたら。
私が、あの無骨な手を掴み、バスローブの下へ……素肌の上へと強引に導いたら。
あの節くれだった指が、私の脇腹に触れ、傷跡を辿ったら……。
剣ダコの固い感触が、私の滑らかな肌に引っかかり、熱を広げていく。
(……あの指だ)
私は、自分の手で自身の脇腹をなぞった。
違う。これじゃない。こんな綺麗な指じゃない。
もっと太くて、ごわごわしていて、傷だらけで。
私以外の誰かを癒やしていた、あの忌々しくも愛おしい手が欲しい。
『痛むのか?』
低い声が耳元で蘇る。
心配するような、それでいて大人の余裕を含んだ響き。
あの声で、私の名前を呼んでほしい。
冒険者の若造としてではなく、ただの一人の男として。
ドクン、ドクン、と心臓が早鐘を打つ。
下腹部に、重く、熱い塊が溜まっていくのがわかる。
視線を落とせば、厚手のバスローブの生地が、股間の一点だけ浅ましくも高く押し上げられていた。
(……嘘だろ。こんな……)
見て見ぬふりなどできない。
たかが乾燥した草の匂いを嗅いだだけで、私の体はこれほどまでに硬く、熱く、あの男を求めて勃ち上がっているのだ。
その動かぬ証拠が、私の動揺をさらに煽り、同時にどうしようもないほどの興奮へと変えていく。
理性の堤防が決壊するのは、一瞬だった。
私は震える手でバスローブの裾を割り、堪えきれずに張り詰めた自身の猛りを握りしめた。
「っ……く、ぅ……」
熱い。
自身の体温のはずなのに、ポプリの甘い香りを吸い込んだ脳は、それを別の熱だと誤認しようとしている。
私は枕に顔を埋め、鼻先には粗末な布袋を押し当てたまま、ゆっくりと手首を動かし始めた。
粘つくような水音が、静寂な寝室に響く。
この私が、ただの乾燥した草の匂いに発情し、あられもなく腰を揺すっている。
その事実が、羞恥心と共に、背徳的な興奮を煽った。
(……違う。これじゃ、ない……)
快感を貪りながら、思考の隅で冷めた自分が毒づく。
私の手は、魔剣を扱うために鍛えられてはいるが、常に手入れを欠かさないため貴族のように滑らかだ。
こんな、優男の手じゃない。
私が求めているのは、もっとゴツゴツとした、節くれだった剛腕だ。
長年剣を振り続け、硬い剣ダコができたあの掌で、容赦なく扱かれたい。
ザラついた指の腹で、敏感な鈴口を擦り上げられたなら、どれほどの快感が走るだろうか。
あの太い指が、私の竿を根元から握りしめ、強引に上下する様を想像するだけで、背筋が粟立つ。
『痛むのか?』
その時、脳内で再生される野太い声が、再度私の理性をさらに深く犯していった。
心配するような、低く、腹の底に響く声。あの日、監視小屋で私の鼓膜を震わせたバリトン。
(……ああ、痛い。痛いから、あんたが治してくれ)
妄想のフェーズが、一段階深く、暗い場所へと落ちていく。
私の手の動きが変わる。手による愛撫の幻想を捨て、私は腰を浮かせた。
妄想の中で、私はベッドの縁に腰掛け、その足元にあの男を跪かせていた。
見下ろす先には、傷だらけの厳つい顔。
あの男が、私の熱を鎮めるために、恭しくあの無骨な唇を開く。
ジョリ、と。
想像上の無精髭が、私の敏感な内腿を擦り上げる。
その感触に背筋が跳ねると同時に、私の先端が、ドノバンの熱い口腔へと飲み込まれた。
「あ……っ、ふぅ……ッ! そうだ、そこ……っ!」
熱い。狭い。
手とは比較にならない、圧倒的な密着感。
乾燥してカサついているように見えたあの唇の奥は、驚くほど濡れていて、吸い付くように私を締め付ける。
不器用な舌が、私の裏筋を這いずるように舐め上げ、喉奥の柔らかな粘膜が、先端を優しく、しかし強烈な吸引力で包み込んでいく。
私の手は激しく上下し、その幻覚上の「口」の動きを再現しようと必死になる。
顔の大きな傷を歪ませながら、私の硬直を根元まで呑み込もうと懸命に頭を振る、年上の男の姿。
いつもは減らず口を叩くあの口が、今は私のものを咥え込み、奉仕することだけに専念している。
その圧倒的な背徳感と征服欲が、私の理性を削り落としていく。
「んぅ……ッ! もっと……奥まで……っ、ドノバン、さん……」
私は、顔を埋めていたポプリの袋を引き剥がすと、それを自身の張り詰めた肉茎の先端に乱暴に押し当てた。
布越しに触れるドライハーブの感触が、敏感な鈴口を擦る。
私はポプリの袋を、まるでドノバンの頭髪であるかのように強く握りしめ、自身の腰を突き上げた。
先端を覆う袋の感触を、あの男の無造作な髪の手触りだと錯覚し、喉奥を突くつもりで腰を振る。
苦しげに眉を寄せ、生理的な涙を滲ませながら私を見上げる瞳。
その視線を独占しているという優越感。
Aランクの私が、引退した監視員に奉仕させている。いや、私がこの男に溺れ、懇願しているのか?
どちらでもいい。ただ、この熱を、あの男の中に吐き出したい。
「あんたが、いい……あんたの口がいい……ッ! 飲め、全部……ッ!」
無意識に、獣じみた願望が口をついて出た。
呼んでしまった。認めてしまった。
それに呼応するように、私の腰の律動は制御不能な速さへと加速した。
熱塊を押し付けられたポプリ袋が、激しい摩擦と圧力でくしゃくしゃに歪み、悲鳴を上げるように形を変えていく。
中のドライハーブが砕け、袋の繊維が限界まで引きつる音が、脳内でドノバンの喘ぎ声に変換される。
その瞬間、絶頂への引き金が引かれた。
「っ、あ、あぁ……ッ!! ッ―――!!」
視界が白く弾け、腰がぐっと浮き上がり、首をのけ反らせて息を詰めた。
私はドノバンの名を譫言のように繰り返しながら、自身の熱い飛沫を、シルクのシーツと、握りしめたポプリの袋へと吐き出した。
あの口の中に注ぎ込むつもりで、どぷりと。
白濁が、紫色のポプリ袋を汚していく。それはまるで、私の歪んだ独占欲が、あの朴念仁な男を汚し、私の色に染め上げたがっていることの暗喩のようだった。
荒い呼吸だけが部屋に残る。
熱が引くことなどなかった。
むしろ、果てたことで余計に空腹感が増した獣のように、渇望がより深く、鋭くなっていた。
私はけだるい体を起こし、乱れた髪をかき上げた。
月明かりに照らされた鏡の中、そこに映っていたのは、いつもの冷静な己の顔ではなかった。
熱に浮かされ、瞳孔を開き、飢えた獣のようにぎらついた目をした男。
自らの欲望で汚したポプリ袋を、愛おしそうに指でなぞる、変質者の姿だ。
そうだ。これは恋だ。
だが、詩人が歌うような甘やかなものではない。
私が欲しいのは、彼の笑顔や優しさだけではない。
彼の時間、彼の視線、彼のプライド、彼の過去、そして彼の肉体。
そのすべてを、私だけのものにしたい。
今の自慰のように、私の想像の中で完結させるだけでは、もう我慢できない。
「……クソッ……欲しい」
私は汚れたポプリを握り潰さんばかりに強く握りしめ、低い声で呟いた。
あの若者たちにも、ギルドの連中にも、誰にも渡したくない。
あの男の価値を知っているのは、私だけでいい。
あの男の肌に、唇に触れていいのは、私だけでいい。
正気じゃない。馬鹿げている。
だが、この胸の高鳴りとけだるい下半身の熱が、何よりの証拠だった。
私は今、人生で初めて攻略難度不明の「獲物」を見つけたのだ。
手の中の汚れたポプリに、誓いの口づけを落とす。
自然と口角が吊り上がるのが分かった。鏡に映る今の私の顔は、獲物の喉笛に食らいつく瞬間の獣のように、酷く獰猛に歪んでいることだろう。
そこは、市場の喧騒とは無縁の静寂と、洗練された調度品に囲まれた空間だ。
だが、帰宅した私は、鎧を脱ぎ捨てるのももどかしく、すぐに浴室へ向かった。
熱い湯を浴び、今日の出来事を洗い流そうとした。
それも、無駄だった。
どれだけ肌をこすっても、脇腹に残るあの「感触」は消えない。
むしろ、湯気で肌が火照るほどに、あの節くれだった指の熱さが鮮明に蘇ってくる。
(落ち着け、セルウィン。疲れているだけだ)
自分に言い聞かせ、バスローブを羽織って寝室へ戻る。
広々としたキングサイズのベッド。最高級のシルクのシーツ。
いつもなら、この快適な空間で深い眠りに落ち、明日の探索に備えるはずだった。
だが、眠れない。
視界の端に、サイドテーブルに置いた「それ」が入る。
市場で買った、安っぽい布袋のポプリ。洗練されたこの部屋には、あまりにも場違いな異物。
私は、吸い寄せられるように手を伸ばした。
指先で布袋をつまみ上げる。顔に近づける。ゆっくりと、息を吸い込む。
――甘い。
ぶわり、と。
頭の芯が痺れるような甘い香りが、鼻腔から肺へ、そして血流に乗って全身へと駆け巡った。
瞬間、湯気でぼやけた頭の中に、あの監視小屋の光景が、暴力的なまでの解像度で再構築された。
『そんなに匂うか?』
そう言って、自分の胸元をパタパタと仰いだ仕草。
開いた襟の隙間。無防備に晒された喉仏。
汗ばんで、しっとりと光る鎖骨の窪み。
そして、服の下に隠された、分厚く、弾力のある胸板の陰影。そしてその奥に一瞬だけ見えた、日に焼けた肌とは対照的な、意外なほど淡い色の頂。
「ッ……ぅ……」
喉の奥から、くぐもった声が漏れた。
ポプリを握りしめる手に力がこもる。
これはただの薬草だ。乾燥した植物の死骸だ。
だが、今の私には、これが「ドノバンそのもの」に思えてならなかった。
私はベッドに倒れ込み、ポプリを顔に押し当てた。
まるで、あの男の胸に顔を埋めているかのような錯覚。
想像してしまった。
もし、この香りの主が、今、ここにいたら。
私が、あの無骨な手を掴み、バスローブの下へ……素肌の上へと強引に導いたら。
あの節くれだった指が、私の脇腹に触れ、傷跡を辿ったら……。
剣ダコの固い感触が、私の滑らかな肌に引っかかり、熱を広げていく。
(……あの指だ)
私は、自分の手で自身の脇腹をなぞった。
違う。これじゃない。こんな綺麗な指じゃない。
もっと太くて、ごわごわしていて、傷だらけで。
私以外の誰かを癒やしていた、あの忌々しくも愛おしい手が欲しい。
『痛むのか?』
低い声が耳元で蘇る。
心配するような、それでいて大人の余裕を含んだ響き。
あの声で、私の名前を呼んでほしい。
冒険者の若造としてではなく、ただの一人の男として。
ドクン、ドクン、と心臓が早鐘を打つ。
下腹部に、重く、熱い塊が溜まっていくのがわかる。
視線を落とせば、厚手のバスローブの生地が、股間の一点だけ浅ましくも高く押し上げられていた。
(……嘘だろ。こんな……)
見て見ぬふりなどできない。
たかが乾燥した草の匂いを嗅いだだけで、私の体はこれほどまでに硬く、熱く、あの男を求めて勃ち上がっているのだ。
その動かぬ証拠が、私の動揺をさらに煽り、同時にどうしようもないほどの興奮へと変えていく。
理性の堤防が決壊するのは、一瞬だった。
私は震える手でバスローブの裾を割り、堪えきれずに張り詰めた自身の猛りを握りしめた。
「っ……く、ぅ……」
熱い。
自身の体温のはずなのに、ポプリの甘い香りを吸い込んだ脳は、それを別の熱だと誤認しようとしている。
私は枕に顔を埋め、鼻先には粗末な布袋を押し当てたまま、ゆっくりと手首を動かし始めた。
粘つくような水音が、静寂な寝室に響く。
この私が、ただの乾燥した草の匂いに発情し、あられもなく腰を揺すっている。
その事実が、羞恥心と共に、背徳的な興奮を煽った。
(……違う。これじゃ、ない……)
快感を貪りながら、思考の隅で冷めた自分が毒づく。
私の手は、魔剣を扱うために鍛えられてはいるが、常に手入れを欠かさないため貴族のように滑らかだ。
こんな、優男の手じゃない。
私が求めているのは、もっとゴツゴツとした、節くれだった剛腕だ。
長年剣を振り続け、硬い剣ダコができたあの掌で、容赦なく扱かれたい。
ザラついた指の腹で、敏感な鈴口を擦り上げられたなら、どれほどの快感が走るだろうか。
あの太い指が、私の竿を根元から握りしめ、強引に上下する様を想像するだけで、背筋が粟立つ。
『痛むのか?』
その時、脳内で再生される野太い声が、再度私の理性をさらに深く犯していった。
心配するような、低く、腹の底に響く声。あの日、監視小屋で私の鼓膜を震わせたバリトン。
(……ああ、痛い。痛いから、あんたが治してくれ)
妄想のフェーズが、一段階深く、暗い場所へと落ちていく。
私の手の動きが変わる。手による愛撫の幻想を捨て、私は腰を浮かせた。
妄想の中で、私はベッドの縁に腰掛け、その足元にあの男を跪かせていた。
見下ろす先には、傷だらけの厳つい顔。
あの男が、私の熱を鎮めるために、恭しくあの無骨な唇を開く。
ジョリ、と。
想像上の無精髭が、私の敏感な内腿を擦り上げる。
その感触に背筋が跳ねると同時に、私の先端が、ドノバンの熱い口腔へと飲み込まれた。
「あ……っ、ふぅ……ッ! そうだ、そこ……っ!」
熱い。狭い。
手とは比較にならない、圧倒的な密着感。
乾燥してカサついているように見えたあの唇の奥は、驚くほど濡れていて、吸い付くように私を締め付ける。
不器用な舌が、私の裏筋を這いずるように舐め上げ、喉奥の柔らかな粘膜が、先端を優しく、しかし強烈な吸引力で包み込んでいく。
私の手は激しく上下し、その幻覚上の「口」の動きを再現しようと必死になる。
顔の大きな傷を歪ませながら、私の硬直を根元まで呑み込もうと懸命に頭を振る、年上の男の姿。
いつもは減らず口を叩くあの口が、今は私のものを咥え込み、奉仕することだけに専念している。
その圧倒的な背徳感と征服欲が、私の理性を削り落としていく。
「んぅ……ッ! もっと……奥まで……っ、ドノバン、さん……」
私は、顔を埋めていたポプリの袋を引き剥がすと、それを自身の張り詰めた肉茎の先端に乱暴に押し当てた。
布越しに触れるドライハーブの感触が、敏感な鈴口を擦る。
私はポプリの袋を、まるでドノバンの頭髪であるかのように強く握りしめ、自身の腰を突き上げた。
先端を覆う袋の感触を、あの男の無造作な髪の手触りだと錯覚し、喉奥を突くつもりで腰を振る。
苦しげに眉を寄せ、生理的な涙を滲ませながら私を見上げる瞳。
その視線を独占しているという優越感。
Aランクの私が、引退した監視員に奉仕させている。いや、私がこの男に溺れ、懇願しているのか?
どちらでもいい。ただ、この熱を、あの男の中に吐き出したい。
「あんたが、いい……あんたの口がいい……ッ! 飲め、全部……ッ!」
無意識に、獣じみた願望が口をついて出た。
呼んでしまった。認めてしまった。
それに呼応するように、私の腰の律動は制御不能な速さへと加速した。
熱塊を押し付けられたポプリ袋が、激しい摩擦と圧力でくしゃくしゃに歪み、悲鳴を上げるように形を変えていく。
中のドライハーブが砕け、袋の繊維が限界まで引きつる音が、脳内でドノバンの喘ぎ声に変換される。
その瞬間、絶頂への引き金が引かれた。
「っ、あ、あぁ……ッ!! ッ―――!!」
視界が白く弾け、腰がぐっと浮き上がり、首をのけ反らせて息を詰めた。
私はドノバンの名を譫言のように繰り返しながら、自身の熱い飛沫を、シルクのシーツと、握りしめたポプリの袋へと吐き出した。
あの口の中に注ぎ込むつもりで、どぷりと。
白濁が、紫色のポプリ袋を汚していく。それはまるで、私の歪んだ独占欲が、あの朴念仁な男を汚し、私の色に染め上げたがっていることの暗喩のようだった。
荒い呼吸だけが部屋に残る。
熱が引くことなどなかった。
むしろ、果てたことで余計に空腹感が増した獣のように、渇望がより深く、鋭くなっていた。
私はけだるい体を起こし、乱れた髪をかき上げた。
月明かりに照らされた鏡の中、そこに映っていたのは、いつもの冷静な己の顔ではなかった。
熱に浮かされ、瞳孔を開き、飢えた獣のようにぎらついた目をした男。
自らの欲望で汚したポプリ袋を、愛おしそうに指でなぞる、変質者の姿だ。
そうだ。これは恋だ。
だが、詩人が歌うような甘やかなものではない。
私が欲しいのは、彼の笑顔や優しさだけではない。
彼の時間、彼の視線、彼のプライド、彼の過去、そして彼の肉体。
そのすべてを、私だけのものにしたい。
今の自慰のように、私の想像の中で完結させるだけでは、もう我慢できない。
「……クソッ……欲しい」
私は汚れたポプリを握り潰さんばかりに強く握りしめ、低い声で呟いた。
あの若者たちにも、ギルドの連中にも、誰にも渡したくない。
あの男の価値を知っているのは、私だけでいい。
あの男の肌に、唇に触れていいのは、私だけでいい。
正気じゃない。馬鹿げている。
だが、この胸の高鳴りとけだるい下半身の熱が、何よりの証拠だった。
私は今、人生で初めて攻略難度不明の「獲物」を見つけたのだ。
手の中の汚れたポプリに、誓いの口づけを落とす。
自然と口角が吊り上がるのが分かった。鏡に映る今の私の顔は、獲物の喉笛に食らいつく瞬間の獣のように、酷く獰猛に歪んでいることだろう。
2
あなたにおすすめの小説
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
惚れ薬をもらったけど使う相手がいない
おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった!
グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが……
いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師
魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。
拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる