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第5部〜恋の芽生え編〜
Side・プレアデス〜二重ニャン格〜
しおりを挟む「ライムさん、それでは!」
「入隊を許可する。住居と軍用機、武器などは全てこちらで用意しよう。まずは軍用機の運転免許証を取得しろ。費用もこちらで負担する」
ここが、僕の死に場所なんだ。
最期にニャンバラのために戦って、死んでやる。
その時は、ライムさんも地上世界から来た事、ムーンさんの娘だった事、そしてムーンさんを激しく憎んでいる事を、僕は知らなかった。
軍でも、先輩たちにいじめられた。僕の鈍臭くていじりやすい性格ゆえだろう。だが、どうやら知らない間にもう1匹の僕が激しく怒り出し、気付いた時にはまた心療内科の椅子だ。
いじめてきたグループの中で1番弱いネコを徹底的にズタズタのボコボコにして、「卑劣なやり方だろう。卑劣には卑劣に返して何が悪い?」とか言っていたらしい。
僕は自分で自分が怖くなった。でも、もう1匹の僕の方が、的確に任務をこなしているようだ。そうして無自覚のうちに、僕はライムさんからの信用を得ていった。「貴様はよくやってくれている」などと言われた。でもライムさんは信頼した者に対しては優しいが、裏切ったり任務を遂行できなかった者には容赦無い。普段の鈍臭い自分の時は「使えねえ奴め」などと言ってくる。まあ、それでも別に構わないと割り切っていた。僕はただ、命令を遂行する機械でいたかった。
この頃だったかな……心療内科で、解離性同一性障害と診断されたのは。知らない間に全く違うもう1匹の僕が、僕の心と体を支配して、勝手な事をする。嫌な記憶を抑え込んだのが原因らしい。
僕は、もう1匹の僕が出てこないよう、明るく爽やかな自分でい続けるよう努めた。まあその方が他のネコともうまくやれるから、あえて明るく爽やかな自分を演じ続けた、というのもあるんだけど。医者が言うには、そういう事をすると症状を悪化させる原因になるとの事だけど、そうも言っていられなかった。
ある日の事だ。
警察から連絡が入った。また地上から、2匹のネコが来たというのだ。
そのネコが、ゴマくんとルナくん。“もふネコ戦隊・星光団”のムーンの息子たちだったのも、この時は知らなかった。
プルートと打ち合わせをしたのち、軍と連絡を取った。「ネズミの世界を調査しろ」との指令が下った。僕はゴマくんとルナくんを利用しようと考えた。ゴマくんたちは地上に帰りたがっていたから、地上に帰す条件として、共にネズミの世界の調査に行くよう伝えた。まずは“ニャイフォン”を持たせた。この時も、もう1匹の僕が出てこないよう、またゴマくんとルナくんをうまく騙すために、つとめて明るく爽やかでちょっとドジな自分を演じた。
プルートの“ワームホール”を通って、ゴマくんルナくんと共にネズミの世界に来れたんだけど……僕のドジな性格が災いして――これは演技でも何でもなく――自分の“ニャイフォン”を落とし、僕はネズミの世界で迷子になってしまった。「もう1匹の僕、早く出てきて何とかうまくやってよ!」と強く思ったが、そう都合よく出てきてくれるものじゃない。
罰が当たったのかもしれない。偵察に来たニャンバラ軍に見つかった僕は連行され、ネズミの世界に到着したばかりのライムさんから解雇を宣告された。
そこからも記憶は飛ばずに続いているから、もう1匹の僕は出てこなかったのだろう。医者に出された薬を飲んでいたから、そのせいだったのかもしれない。
ライムさんたちが偵察を済ませるまで、僕はネズミの世界の外で待機させられた(“ワームホール”を逆からくぐって元のサイズに戻り、4足歩行になった)。プルートがシュンとして座っていた。“ワームホール”を放置したせいで“もふネコ戦隊・星光団”のネズミの世界への侵入を許してしまった事を、こっぴどく叱られたらしい。
“もふネコ戦隊・星光団”は、僕を誘ったムーンは、ニャンバラ軍の敵だった。ライムさんから解雇を宣告される時に初めて知ったのだが、ライムさんは「確かに伝えたはずだ」と言う。
すぐに分かった。今の僕は知らないが、もう1匹の僕は知っていたんだ。
僕と、もう1匹の僕は、やっぱり全く別のネコなんだ。記憶が共有できないんだ――。
ライムさんが戻ってきてから、みんなで“パルサー”に乗り、地底世界へ帰還。ライムさんたちは本格的な侵略の準備にかかり、プルートも改良型“ワームホール”を作らされるため、連れて行かれた。僕はクビになったので、そのまま職探しだ。
解離性同一性障害を患っているので、就職には苦労した。明るく爽やかな自分なんて、もう演じる気にもなれなかった。
早く就職して、住む場所も見つけなければ。軍にいた時に聞いた話だと、もう1匹の僕が出てきている時は、とても優秀な働きだったという。もう1匹の僕をうまく利用して勝手に就職活動してもらえたら、どんなに楽か。一時期、服薬をやめた。でも、もう1匹の僕は全く出てきてくれなくなった。
ライムさん率いるニャンバラ軍が“もふネコ戦隊・星光団”に敗戦しネズミの世界の侵略に失敗した事は、SNS(ソーシャルニャンコサイト)での噂で何となく分かった。
ニャンバラでは、戦争は止まず街は荒れ、政治も荒れ果てている。そんな中、どうにか通信事業に就職したが、ブラックぶりに耐えられなかった。
気付けば、僕はピストルと、見たこともない錠剤の入った袋を持っていた。記憶が飛んでいる。出てきたのか、もう1匹の僕が。
ある時は抑え込み、ある時は都合よく出て来いと願ったから、きっと怒ったのだろう。いや、失望したのか。
突然気分が悪くなって嘔吐し、医者に駆け込むと、体の中から薬の成分が検出された。薬なんか飲んだ覚えがないのに、「何でオーバードーズなんかしたんだ?」と言われた。そこでまた記憶が途切れた。
気づいたら、公園で“超刺激炭酸スッポンマムシドリンク”を、なぜかゴマくんに飲まされていた。
この時、頭の中で声が聞こえた。「また死に損なったか。もう俺には何もないのに」、と。
もう1匹の僕の声を、この時初めて自覚した。
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