35 / 157
第2部〜ネズミたちの住む理想郷編〜
第8話〜ネズミとニンゲンを追え〜
しおりを挟む「おいルナ、何でニンゲンがいるんだ!」
「僕に聞かれても知らないよ。ほら、“ニャイフォンで”撮らなきゃ」
「あ、ああ、そうだな。やり方はこれでいいのか?」
「違うよ! あーもう、僕のやり方を見てて!」
ルナは“ニャイフォン”を構えると、画面の下に出てきた緑色のマークに触れた。パシャリと音がした後、「カメラロールに保存されました」って声が“ニャイフォン”から聞こえた。
「ほら見て。ちゃんと、撮れたみたいだよ」
画面に、さっきのネズミ2匹とニンゲンとが、動きの止まった状態で映っていた。
「画面の下の緑マークに触れればイイんだな。ボクもいっぱい撮ってやらあ」
ボクも負けじと、自分の“ニャイフォン”を構えて、緑マークに触れてみた。
パシャパシャパシャパシャ――!
ん? 変な音がずっと続くぞ……。
「何だこれ。ぶっ壊れたか?」
「兄ちゃん! 変なとこいじったでしょ! 連写モードになってるよ、しかも全部ブレてる!」
「ああ? 操作難しすぎるんだよ、コレ」
色々と試そうと、“ニャイフォン”の画面をいじくろうとした時だった。
「ニャアアア! 何しやがる、ルナ!」
「シー! 早くこっちに隠れて!」
ルナに肩を噛みつかれて、グイと引っ張られる。
建物の壁に隠れながらそーっと覗くと、さっきのニンゲンとネズミが足を止めて、こっちを振り返ってやがるじゃねえか。
……と思ったらすぐ前に向き直って、何事もなかったかのように歩き始めた。見つかりはしなかったみてえだ。
「今のシャッター音に気付いたんだよ! もう本当に気をつけて!」
「あ、ああ。悪りい」
再びボクらは建物の陰に隠れつつ、ニンゲンとネズミ2匹を追う。
奴らは、丘の上へ続く小道を歩いて行きやがる。
「【マサシ兄ちゃん】、お腹空いたから早く行こー?」
ボクと同じくらいの背丈のネズミが、声を出した。確かに喋ってやがる。
白いしま模様のシャツに青いズボンを着てやがる。ボクの勘だが、オスの子ネズミだ。
「マサシお兄ちゃん、はやくー!」
今度はチビの方のネズミが、ニンゲンに向けて喋った。オレンジ色の服を着て、頭に黄色いリボンを着けてやがる。多分、メスの子ネズミだな。
そしてどうやら、ニンゲンの名前は【マサシ】っていうみてえだ。
奴らは、小高い丘の上にある、オレンジ色した三角屋根の小さな建物へ向かっているようだ。
遠くてよく聞こえねえが、マサシとネズミどもが何か喋っている。ボクは耳をすませた。
多分だが、オスの子ネズミの名前は【トム】、チビのメスの子ネズミは【ナッちゃん】と呼ばれているみてえだ。
「あ、中に入って行きやがる」
「どうする? 近くまで行ってみる?」
奴らは、オレンジ色した三角屋根の建物の中へ入って行っちまった。
と、ここに来てボクの腹の虫が暴れ出しやがる。
「クソ、腹減ったぜ……」
「うん、僕も……」
「あの建物行って、何か食わしてもらうか?」
「ダメダメ! ネズミさんたちに見つかっちゃダメなんでしょ?」
「じゃあどうしろってんだ」
「うーん……」
「とりあえず、建物に近付いてみるか。ついて来い」
「あ、待ってよ兄ちゃん! 静かにだよ!」
ボクは、そっとオレンジ色した三角屋根の建物の、裏庭へと向かった。
裏庭には、平べったい形をした別の大きな建物がある。裏口が開きっぱなしで、中の様子が丸見えだ。
「ルナはここで待ってろ」
「変な事企んでる顔だ……。ほんと、心配」
ルナの言葉は無視して、ボクは平べったい建物に近付いて、裏口から中を覗いてみた。
誰もいねえ。
機械だけが自動的に、何かをコンベアで運んでるのが見えた。パンか何かか?
……美味そうな匂いがしてきた。
ボクは尻尾を使い、ルナにこっちへ来るようジェスチャーした。
ルナが怪訝な顔をしながらササっと駆けてくる。
「ルナ、あの中に忍び込むぞ。あそこからいくつか食いモンをいただこう」
「ダメだってもう! ネズミさんに見つかったらどうするの!」
「ネズミはいねえぞ。腹減ったんだろ? 帰るまで飲まず食わずでいる気ニャのか?」
「うう……」
「冒険には、スリルがつきものニャンだよ! 行くぞ!」
ボクとルナはネズミのかぶり物を装備し直し、建物の裏口からそっと忍び込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。
絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」!
畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。
はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。
これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
楠ノ木雫
恋愛
気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。
私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる