散る花火と現れた星

くるみ

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12日 帰省

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 新幹線と汽車を利用し、2時間程で到着する田舎の実家。周りは、田んぼと畑に挟まれており、カエルやセミの大合唱が24時間、いや46時中流れていた。
 天野陽奈は、明日の成人式に来るドレスをカバンから取り出した。田舎の成人式は夏に行われる。

 「成人式行きたくないなぁ」

 陽奈は嘆きながら、クローゼットにドレスをかけた。ふと、クローゼットの棚にあるアルバムが目に入った。

 「懐かしいなぁ」

 アルバムを手に取り、めくってみるとピンク色の手紙が挟まっていた。

 「手紙?」

 差出人や宛名もない手紙の封を開いた。

 「空君へ。単刀直入に伝えます。私は、小さい頃からずっと、空君の事が好きでした。…えぇぇ⁈」
 
 陽奈は目玉が飛び出そうな程驚いた。

 「もし、良かったら、私と付き合ってください。陽奈より」

 「え、え、え⁈これって、ラブレターじゃん!しかも、私が書いたの⁈ってか、空君って誰よ!」

 首を捻って考えたが、先輩、同級生、後輩に空という名前の人物が思い当たらなかった。

 「空って人いたかなぁ?全然覚えてない。全然覚えてない人にラブレター書くなんて、そんなに好きじゃなかったんじゃないの?」

 陽奈は、自分が書いたラブレターに自問自答しながら、アルバムの写真に目を通した。
 
 「ん?これって?」

 陽奈は一枚の写真に目が止まった。その写真には、同級生の男子と陽奈、そして、知らない男性が写っていた。

 「この人誰?」

 同級生の男子は、そっぽを向き不機嫌そうな顔をしていたが、陽奈と見知らぬ男は笑顔だった。

 「陽奈~!お母さん、仕事行ってくるね!」

 一階から母の声が響いた。陽奈は、部屋のドアを開け、返事を返した。

 「あ!今、お母さんに聞けば良かった」

 陽奈は、もう一度写真を見た。見覚えのある背景。そこは、同級生の男子の家の前だ。

 陽奈は玄関に向かい、靴を履いた。家にいても暇だし、散歩がてら、写真の同級生の家に行けば、何か思い出すかもしれない、軽い気持ちで外に出た。
 その同級生の家は歩いて10分位の所にある。日差しはジリジリと強く、とにかく暑い。2、3分歩いただけで、汗が流れた。
 家から先の山側へ向かう道は、4年以上歩いていない。最後に歩いたのは、あの事件だろうか。
 考えているうちに同級生の家に着いた。持っていた写真と実物の背景を照らし合わせてみたが、何も思い出せなかった。
 陽奈が写真と睨めっこしていると、車庫から中年男性が出て来た。
 陽奈は、驚いてビクッと肩が上がった。
 中年男性は陽奈に気づき、近づいて来た。

 「もしかして、天野さんとこの娘さん?」
 
 陽奈は、頷き一礼をした。

 「風馬の同級生だよね。久しぶりだね。うちに何か用事?」
  
 陽奈は、何度も頷き、持っていた写真を突き出した。
 中年の男性は、陽奈から写真を取ると、引き離して写真を見た。

 「これはうちの息子達だな。風馬とこれは空だな」
 「空?」
 「空は風馬の兄貴だ」
 「えぇ⁈」

 あまりの衝撃に陽奈の思考が停止した。
 風馬は、小さい頃に両親が再婚したと聞いていたが、風馬に兄がいた事は知らず、一人っ子だと思っていたのだ。風馬の父から写真を受け取った。
 写真をよく見ると、風馬の兄と中年の男性は顔がよく似ていた。
 
 「陽奈ちゃん?」
 「?」
 
 名前を呼ばれ、陽奈はキョトンとしていた。急に風馬の父が、手を握ったり、開いたりした。

 「父さんの体が動く。俺、父さんの体に入ったんだ!」

 風馬の父の謎の発言に、陽奈はたじろいだ。陽奈は、引き返そうと背中を向けた。

 「陽奈ちゃん!待って!あり得ない事だけど、俺父さんの体の中に入ってるんだ!」
 「?」

 陽奈は、風馬の父の様子がおかしくなり、ドン引きしていた。

 「俺は空。その写真に写っている、風馬の兄だよ」 
 
 どうしたら良いか分からない状況に、陽奈は固まった。
 
 「今、訳あって、自分の体から魂が抜けかけて、父さんの体に入っている状態なんだ。オカルトじみてるけど、信じてほしい!」

 陽奈は顔をしかめた。

 「俺、陽奈ちゃんと仲が良かったんだよ」
 「えっ⁈おじ、さんと?」

 陽奈は、おどおどした口調で
 「ううん。俺。空と」
 「…私、風馬の、お兄さん、知らない」
 
 二人の間に沈黙が流れた。

 「そうだ。ごめん。陽奈ちゃん、あの事件で、俺の記憶だけないんだったね」
 「え?」
 「陽奈ちゃん、4年前の通り魔事件で一時記憶喪失になったんだ。その後、少しずつ記憶が戻ってきたけど、事件の事と俺の事は思い出せなかったんだ。陽奈ちゃんの様子を見ると、今も戻ってないみたいだね」

 陽奈は、急所を突かれた感じだった。陽奈は、事件の事を全く覚えていなかった。

 「俺、陽奈ちゃんとよく遊んだんだ。転校した友達に借りたゲームを返せなくて悲しかった事。先生の車にボールをぶつけて凹ませた事」
 「ど、どうして」

 自分の秘密を明かされ、陽奈は焦った。

 「陽奈ちゃんが、俺に教えてくれた事だよ」
 
 風馬の父は優しく微笑んだ。
 風馬にも、誰一人言っていない秘密を、ほとんど会った事もない風馬の父が知っていた事に陽奈は戸惑った。
 
 「暑いし、お茶飲んで、少し落ち着こうか。中に入って」

 陽奈の様子を見て、風馬の父が家に誘導した。玄関に入ると、下駄箱の上に写真立てが並んでいた。写真を見ると、小さい頃の自分と風馬ではない男の子と写っていた。
  
 「それ、俺と陽奈ちゃんだよ」
 「え⁈」
 「小さい頃から仲良かったんだよ。お茶取ってくるね」
 
 写真は真実を告げていた。風馬のお兄さんは実在して、小さい頃から知り合いだった。 
 そして、陽奈は空の記憶がない事も。
 
 「久しぶりの実家だから、物の位置が変わってたよ。はい。」
 
 陽奈は、軽く頭を下げて、麦茶が入ったグラスを受け取った。口に麦茶を運ぶと、喉が大きく鳴った。

 「ごめんね。こんな事、いきなり、信じてくれっていうのは無理があるよね。でも、今は外見は親父でも、中身は息子なんだ」

 風馬の父の中に入っている空も、グラスを口元に運んだ。

 「それに、親父が陽奈ちゃんに話しかける為に、体に息子が入ってるなんて設定を立てても、キモいって思われるだけだし。まず、記憶にない俺の話をされても混乱するだけだ」

 陽奈は今まさに、その通りな状況だ。

 「ごめんね。今まで何もできなくて」
 
 陽奈は首を傾げた。

 「俺、あの事件の年、大学受験があって。その後、地元を離れちゃったから」

 家の前の砂利道を、車が通る音がした。

 「誰か来たな」
 「あの、なんで、幽霊に?」

 陽奈は、唐突に空に質問をした。

 「まだ死んでないけど、色々巻き込まれちゃってね。でも、死ぬ前に陽奈ちゃんに会いたくて。最後に話せて嬉しかったよ」
 「あら⁈もしかして、陽奈ちゃん?」

 話の途中、風馬の母親が現れた。小柄で、明るくて、おしゃべり好きな人だ。
 
 「お久しぶりです」
 「お久しぶり~。何年振りかしら?!お嬢さんになっちゃって~。うちに何かあった?」
 「空の事聞きに来たんだ」
 
 空が話を合わせてくれた。

 「空の事思い出せた⁈」

 陽奈は首を振った。 

 「いいの、いいの。あんなひどい事があったんだから。無理しなくて。でも、あの子に遭ったら、声かけてやって。あの子も喜ぶと思う。明日、風馬が帰って来るんだって。また、遊びに来てね」

 陽奈は、軽く頭を下げ、玄関を出た。一瞬、風馬の父の顔を見た。寂しげな眼差しをしていた。



 







 
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