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再会
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今回も昨日の奴らに違いないと、直人は踏んだ。
しかし、気になることがあった。普通、人探しをするなら、警察もしくは、探偵に依頼するものではないのか。
なぜ、チンピラのような奴らに探させるのか。警察に頼られない何かがあるのか。
直人はある場所へ向かう事にした。
車中に寂しさを感じた。ステレオから流れるラジオがやけに耳に入ってくる。ずっと、隣で喋っていた千夜はいない。誰かがいないだけで、こんなにスカスカするものなのか?
走り続け、陽が傾いてきた。小休憩を挟みながら、20時前には、ボロアパートの我が家に到着した。長時間の運転に疲れ、直人は布団にもたれ、そのまま寝落ちした。
翌朝、直人は目を覚ました。
「そのまま寝てたのか。あー、電気付けっぱだ」
直人は、起き上がり電気を消した。そして、身支度を始めた。
「すみません。行方不明になった方を探してもらいたいのですが」
直人は警察署を訪れていた。着慣れないビジネススーツが着られているようだ。
「どなたですか?」
受付の婦警は新人なのだろうか。背が高いが、童顔でノーメイクな感じが高校生の雰囲気が出ていた。
「橘浩一の妻、橘千代です。私は、橘浩一の秘書を務めています。社長は、忙しい身でして、私が代わりに参りました」
「でわ、行方不明者届に記入と、行方不明者の特徴を教えて頂きたいっす。何か写真はありますか?」
「急いで来まして、写真を忘れてしまいまして。いなくなった日の服装は覚えています。特徴は、髪が肩上のボブ。一昨日は、紺色のパーカーにピンクのシャツを来ていました」
直人は書類に記入を始めた。
「ラフな格好ですね」
「散歩に行かれてから戻っていないらしくて」
「一昨日から連絡が取れないのっすか?」
「一切ないです。奥様、ストーカーに遭われていたので奴らが怪しいかと」
「ストーカー?」
「こんな奴らです」
直人は携帯を婦警に見せた。それは、一昨日襲われた、筋骨隆々な男と焼田と呼ばれていた詐欺女だった。
「これは!貴重なデータっす!この写真、こちらで預かっても良いですか?」
「操作にご協力できるなら」
直人は婦警に携帯を預け、データを転送してもらった。
「捜査に尽力を尽くしますので」
「でわ、よろしくお願いします」
警察署を車で出て行くと、大安堵の息を吐いた。
「だぁぁぁぁぁ!緊張したぁぁぁぁ!バレなくて良かった!」
直人はコンビニに寄り、とりあえず、コーヒーを飲んだ。まず、気持ちを落ち着かせたかった。
「はぁ。千代さん、無事でいてくれ」
連れ去られた日の夜。千代が目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
「あれ?何で寝てたんだ?確か、トイレから出ようとしたら、目の前に大きな人がいて。口元を抑えられて…」
頭がぼんやりとしていた。しばらくすると、目が暗闇に慣れ、薄らとだが、物の形が見えてきた。窓らしきものが見え、近づいてみた。窓には鍵がなく、開閉できない仕様となっていた。夜空には小さな星たちの光が、微かに輝いていた。この光は何年前の光だろうと、千代はふと考えた。この空間は、機械油のような油臭が立ち込めていた。壁伝に歩いて行くと、冷たく薄い鉄板に触れた。
「これ、シャッター?誰か!誰か助けて!」
千代はシャッターを叩きながら叫んだ。
「ウッセーな!静かにしれろや!」
ドスの効いた低い声が、シャッターの向こうから返ってきた。
「あんた誰?」
「誰でもいいじゃねぇか。ガキは黙って寝てろ!」
「あんた、橘の回し者ね」
「だったらなんだよ!金貰うために、1日子守しなきゃなんねぇんだ!テメェは、朝まで黙って寝てろ!」
見張りがいて、さらに視界が暗くて悪い。 千代は、ここで何かを起こすのは得策ではないと考えた。
さっきまで寝ていたので、睡魔なんて来ない。
デニムの尻ポケットに違和感があった。手を入れると箱型の何かが入っていた。
「何だ、タバコか」
千代はタバコを咥え、火を付けた。極少量、煙を吸ったが体が拒否をした。
胸焼けがし、咳が出た。火を消した状態で、またタバコを吸った。
「まだましだけど、キッツ。これで、少しは体悪くなるかな?」
千代は黙って、ここを脱出する作戦を考えた。
シャッター越しの男は、酒を飲んでいるのだろう。時々、爽快な声が聞こえた。
千代は目を閉じ、直人の事を考えた。あの家から出してもらい、危険な目に遭っても、北海道まで送ると言ってくれた。私がヘマをしたせいで、振り出しに戻ってしまった。もう、誰かを危ない目に合わせるのは嫌だ。何としても自力で逃げなきゃ。直人さん、無事かな?千代の目から涙が溢れた。
何時間経ったのだろう。開閉できない窓から明かりが入った。
薄明かりだが、ここが何なのか分かった。潤滑スプレーや、カラースプレー、洗車用洗剤。ここは車庫のようだ。
「おっまたー」
昨夜とは違う若い男の声がした。
「おう。お前か。何だ?その大荷物は」
「ただ、監視してるだけじゃつまらないから、暇つぶしできるのいっぱい持ってきたんだ~。江部さん、大分飲んでるね。酒くさ」
「大して飲んでねぇよ。ガキ一人見るのに酒も進まねえ」
「ちょっと!トイレ行きたいんだけど!」
千代が二人の会話に乱入すると、江部はシャッターを蹴り返した。
「うっせーんだよ!しょんべんなんざ、そこらにあるバケツにでもしてろ!」
千代が怯むと、シャッターが少し開き、ボトルが転がってきた。中身は白っぽい液体が入っていた。
「何これ?」
「君のプロテインだよ。橘から頼まれてたんだ」
「こんなんで、腹満たされるか!血もどろっどろになるわよ!」
「ウッセーな!飲むもんあるだけでも感謝しろ!」
「江部さん、もう帰ったら?血圧上がるよ?」
「おう。もう、帰るよ。しょんべん小僧のお守りなんてまっぴらだからな」
江部は律儀にゴミを持ち帰った。
「さてと。俺は、ゲームしてよ。監視だけでお金貰えるなんて。ラッキーなバイト」
シャッター越しからゲームの音楽が聞こえてきた。
「やるなら、今しかない」
しばらく、男はゲームに夢中になっていると千代にシャッターを叩かれた。
「助けて!煙が!ゴホッゴホッ」
「え⁈煙⁈」
男がシャッターを急いで開けると、車庫内は煙が充満していた。
「何だ!これっ」
千代は隙を突いて、男の後頭部を殴り、男は地面に倒れ込んだ。
「あなたも火事に巻き込まれちゃう」
千代は男の足首を掴み、車庫から引き離した。男の尻ポケットに財布が入っていた。
中には、お札が数枚入っており、1枚拝借した。
とにかく、あの場所から離れる為、必死に走った。腰まで伸びる草原をかき分け、雑木林に直面した。入るか躊躇したが、あいつらに捕まるより、クマに遭遇した方がまだいいと思い、雑木林に駆け込んだ。
足を取られるような獣道を駆け抜けると、視界が急に開けた。
テニスコート一面程の畑に、たくさんの苗が植えられていた。畑の向こう側には大きな建物が見えた。建物に沿って、フェンスが連なっており、千代はフェンスに沿って歩いた。
「あ!ここ!」
見覚えのある建物は小学校だった。直人の家を出発する際、この学校の前を通った事を思い出した。
「直人さん家が近くにあるはず!」
小学校の向かいに小さな商店があった。千代は商店に寄り、紙とペンを借りた。そして、急いで直人の家に向かった。
「着いた」
明るい所で初めて、まじまじとアパートを見た。雑木林の影で陽の光が遮られ、廃墟の様にも見えた。2階通路の鉄格子は錆と劣化がひどい。手をかけたら、転落しそうな予感がした。インターフォンを鳴らすが、直人は出てこなかった。千代は手紙を郵便受けに入れた。
直人さんへ
かなり短期間だったけど、お世話になりました!ありがとう!直人さんを危険な目に遭わせたくないので、北海道には一人で行こうと思います。
欲を言えば、一緒に北海道を回って、北海道を楽しんでもらいたかったな。
もし、直人さんが危険でも、私に付いてきてくれるなら、3日前に襲われた公園に15時まで待ってます。
簡単でごめんね。
千代より
「やっと着いたぁ」
千代はフラフラしながら、自転車を押してきた。
公園に入り、辺りを見渡した。車が数台停まっている。直人が乗っていた車を探した。
心臓がドキドキと高鳴った。いたら、すごく嬉しい。だけど、期待はしない。だって、気持ちの落差が激しいし、あんな危ない目に遭って、また来る訳がない。
まだ13時。まだ約束の時間まである。
バタンと物音がした。
「車だからすぐ着いたぞ」
直人は照れ臭そうに、車から降りてきた。
「直人さん!」
千代は自転車から手を離し、直人に抱きついた。
「わっ!」
「直人さん!無事で良かった!」
「俺は何もされてねぇよ。俺より千代さんの方が危なかったんじゃないのか?怪我とかは?」
直人はドギマギし、どうしたら良いか分からず、両手を上に上げた。
「私は大丈夫。はぁ、無事で良かった」
「よし!早速、北海道に行こう」
「え?いいの?」
千代は直人に埋めた顔をあげた。
「送ってくって、言ったからな」
直人は赤い顔を背け、千代を体から離した。
「ありがとう!」
二人は早速車に乗り込んだ。千代が使っていた自転車はさすがに、直人の軽自動車には乗せられない為、木の影に隠す事にした。事が落ち着いたら、直人が千代の元に引き渡す事にした。
「何だかここに座るの、久しぶりな気がする」
直人は車を走らせた。3日前に通った道だが、何となく覚えていた。
「それより、あの後どうしたんだ?産直のトイレ行っただろ」
「あの時…トイレから出ようとしたら、目の前に大きなおばさんが立ってたの。いきなり、口に布を当てられて、意識が遠のいてった。気づいたら、夜になってて。車庫に監禁されてたの」
「そこから、どうやって出たんだ?」
「車庫の中に火を付けて、火事を起こしたの」
「なっ!火事?!」
「ぎゃ!」
直人は驚いて急ブレーキを踏んだ。
「何でそんな事したんだよ!あんた、死ぬぞ!」
「煙がすごくて苦しかったけど。監視役がシャッターを開けた時に、頭殴って逃げられたの。橘は私が死んだら困るから、一か八かだけど逃げられかもって思ったの」
直人は再び車を走らせた。
「よく、無事ですんだな!」
「そしたらね!その後、結構走ったんだけど、直人さん家の近くにある小学校の裏に出たの!」
「え⁈小学校の裏に⁈」
「で、小学校の向かいのお店で、食料買い足してから直人さん家に向かったの」
「あ!あの空弁当、千代さんだったのか!」
「ついでに、お風呂と服も借りました」
「見たことあると思ったら、それ俺の服!てか、部屋入ったの?」
「鍵開いてたよ」
「まぢか」
「直人さんは、あの後どうしたの?」
直人は少し置いてから話し始めた。
「俺は千代さんが心配で。捜索願を出した。それでなんだけど、橘やっぱり何か隠してないか?」
「え?」
「普通、人を探す時って、警察や探偵に相談するじゃん。でも、あいつは輩みたいなのに千代さんを探させた。やっぱり、あいつは警察にバレたらまずい事をしてるんじゃないないのか?」
「うーん。可能性はあると思う。脱税とか悪巧みしてそうだし」
「その悪さを掴んで、橘を訴えれば、千代さんは解放されるんじゃない?」
「そうだね。ねぇ、今日はどこまで行けそう?」
千代は急に話を逸らした。
「ん?あぁ、仙台までは頑張りたいな。夜でも明るいし、人も多い。また、あんな奴らに襲われないように考えなきゃな」
「襲われないように交番で泊まる?」
二人は笑い合い、もう一度北海道へ向かい始めた。途中、千代は居眠りをした。千代の寝顔に直人は安堵した。
休憩も取り、走り続けること、深夜前に仙台に着いた。
「うぁぁぁぁ!やっと仙台着いたぁ!」
「おつかれ~!」
二人は車内で軽く食事を取った。
「はい。ビール」
「いいのか?」
「ビール好きでしょ?はい、乾杯」
「かんぱーい。って、飲めないのに千代さんも飲むの?」
「チャレンジよ。チューハイを克服してやる」
「無理しない程度にね」
やはり、千代は3%のチューハイをほとんど残し、酔い潰れた。残したチューハイを直人が飲み干し、直人も寝る準備をした。
直人の手に温かいものが触れたが、あまりの疲れに気にする事なく寝入ってしまった。
しかし、気になることがあった。普通、人探しをするなら、警察もしくは、探偵に依頼するものではないのか。
なぜ、チンピラのような奴らに探させるのか。警察に頼られない何かがあるのか。
直人はある場所へ向かう事にした。
車中に寂しさを感じた。ステレオから流れるラジオがやけに耳に入ってくる。ずっと、隣で喋っていた千夜はいない。誰かがいないだけで、こんなにスカスカするものなのか?
走り続け、陽が傾いてきた。小休憩を挟みながら、20時前には、ボロアパートの我が家に到着した。長時間の運転に疲れ、直人は布団にもたれ、そのまま寝落ちした。
翌朝、直人は目を覚ました。
「そのまま寝てたのか。あー、電気付けっぱだ」
直人は、起き上がり電気を消した。そして、身支度を始めた。
「すみません。行方不明になった方を探してもらいたいのですが」
直人は警察署を訪れていた。着慣れないビジネススーツが着られているようだ。
「どなたですか?」
受付の婦警は新人なのだろうか。背が高いが、童顔でノーメイクな感じが高校生の雰囲気が出ていた。
「橘浩一の妻、橘千代です。私は、橘浩一の秘書を務めています。社長は、忙しい身でして、私が代わりに参りました」
「でわ、行方不明者届に記入と、行方不明者の特徴を教えて頂きたいっす。何か写真はありますか?」
「急いで来まして、写真を忘れてしまいまして。いなくなった日の服装は覚えています。特徴は、髪が肩上のボブ。一昨日は、紺色のパーカーにピンクのシャツを来ていました」
直人は書類に記入を始めた。
「ラフな格好ですね」
「散歩に行かれてから戻っていないらしくて」
「一昨日から連絡が取れないのっすか?」
「一切ないです。奥様、ストーカーに遭われていたので奴らが怪しいかと」
「ストーカー?」
「こんな奴らです」
直人は携帯を婦警に見せた。それは、一昨日襲われた、筋骨隆々な男と焼田と呼ばれていた詐欺女だった。
「これは!貴重なデータっす!この写真、こちらで預かっても良いですか?」
「操作にご協力できるなら」
直人は婦警に携帯を預け、データを転送してもらった。
「捜査に尽力を尽くしますので」
「でわ、よろしくお願いします」
警察署を車で出て行くと、大安堵の息を吐いた。
「だぁぁぁぁぁ!緊張したぁぁぁぁ!バレなくて良かった!」
直人はコンビニに寄り、とりあえず、コーヒーを飲んだ。まず、気持ちを落ち着かせたかった。
「はぁ。千代さん、無事でいてくれ」
連れ去られた日の夜。千代が目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
「あれ?何で寝てたんだ?確か、トイレから出ようとしたら、目の前に大きな人がいて。口元を抑えられて…」
頭がぼんやりとしていた。しばらくすると、目が暗闇に慣れ、薄らとだが、物の形が見えてきた。窓らしきものが見え、近づいてみた。窓には鍵がなく、開閉できない仕様となっていた。夜空には小さな星たちの光が、微かに輝いていた。この光は何年前の光だろうと、千代はふと考えた。この空間は、機械油のような油臭が立ち込めていた。壁伝に歩いて行くと、冷たく薄い鉄板に触れた。
「これ、シャッター?誰か!誰か助けて!」
千代はシャッターを叩きながら叫んだ。
「ウッセーな!静かにしれろや!」
ドスの効いた低い声が、シャッターの向こうから返ってきた。
「あんた誰?」
「誰でもいいじゃねぇか。ガキは黙って寝てろ!」
「あんた、橘の回し者ね」
「だったらなんだよ!金貰うために、1日子守しなきゃなんねぇんだ!テメェは、朝まで黙って寝てろ!」
見張りがいて、さらに視界が暗くて悪い。 千代は、ここで何かを起こすのは得策ではないと考えた。
さっきまで寝ていたので、睡魔なんて来ない。
デニムの尻ポケットに違和感があった。手を入れると箱型の何かが入っていた。
「何だ、タバコか」
千代はタバコを咥え、火を付けた。極少量、煙を吸ったが体が拒否をした。
胸焼けがし、咳が出た。火を消した状態で、またタバコを吸った。
「まだましだけど、キッツ。これで、少しは体悪くなるかな?」
千代は黙って、ここを脱出する作戦を考えた。
シャッター越しの男は、酒を飲んでいるのだろう。時々、爽快な声が聞こえた。
千代は目を閉じ、直人の事を考えた。あの家から出してもらい、危険な目に遭っても、北海道まで送ると言ってくれた。私がヘマをしたせいで、振り出しに戻ってしまった。もう、誰かを危ない目に合わせるのは嫌だ。何としても自力で逃げなきゃ。直人さん、無事かな?千代の目から涙が溢れた。
何時間経ったのだろう。開閉できない窓から明かりが入った。
薄明かりだが、ここが何なのか分かった。潤滑スプレーや、カラースプレー、洗車用洗剤。ここは車庫のようだ。
「おっまたー」
昨夜とは違う若い男の声がした。
「おう。お前か。何だ?その大荷物は」
「ただ、監視してるだけじゃつまらないから、暇つぶしできるのいっぱい持ってきたんだ~。江部さん、大分飲んでるね。酒くさ」
「大して飲んでねぇよ。ガキ一人見るのに酒も進まねえ」
「ちょっと!トイレ行きたいんだけど!」
千代が二人の会話に乱入すると、江部はシャッターを蹴り返した。
「うっせーんだよ!しょんべんなんざ、そこらにあるバケツにでもしてろ!」
千代が怯むと、シャッターが少し開き、ボトルが転がってきた。中身は白っぽい液体が入っていた。
「何これ?」
「君のプロテインだよ。橘から頼まれてたんだ」
「こんなんで、腹満たされるか!血もどろっどろになるわよ!」
「ウッセーな!飲むもんあるだけでも感謝しろ!」
「江部さん、もう帰ったら?血圧上がるよ?」
「おう。もう、帰るよ。しょんべん小僧のお守りなんてまっぴらだからな」
江部は律儀にゴミを持ち帰った。
「さてと。俺は、ゲームしてよ。監視だけでお金貰えるなんて。ラッキーなバイト」
シャッター越しからゲームの音楽が聞こえてきた。
「やるなら、今しかない」
しばらく、男はゲームに夢中になっていると千代にシャッターを叩かれた。
「助けて!煙が!ゴホッゴホッ」
「え⁈煙⁈」
男がシャッターを急いで開けると、車庫内は煙が充満していた。
「何だ!これっ」
千代は隙を突いて、男の後頭部を殴り、男は地面に倒れ込んだ。
「あなたも火事に巻き込まれちゃう」
千代は男の足首を掴み、車庫から引き離した。男の尻ポケットに財布が入っていた。
中には、お札が数枚入っており、1枚拝借した。
とにかく、あの場所から離れる為、必死に走った。腰まで伸びる草原をかき分け、雑木林に直面した。入るか躊躇したが、あいつらに捕まるより、クマに遭遇した方がまだいいと思い、雑木林に駆け込んだ。
足を取られるような獣道を駆け抜けると、視界が急に開けた。
テニスコート一面程の畑に、たくさんの苗が植えられていた。畑の向こう側には大きな建物が見えた。建物に沿って、フェンスが連なっており、千代はフェンスに沿って歩いた。
「あ!ここ!」
見覚えのある建物は小学校だった。直人の家を出発する際、この学校の前を通った事を思い出した。
「直人さん家が近くにあるはず!」
小学校の向かいに小さな商店があった。千代は商店に寄り、紙とペンを借りた。そして、急いで直人の家に向かった。
「着いた」
明るい所で初めて、まじまじとアパートを見た。雑木林の影で陽の光が遮られ、廃墟の様にも見えた。2階通路の鉄格子は錆と劣化がひどい。手をかけたら、転落しそうな予感がした。インターフォンを鳴らすが、直人は出てこなかった。千代は手紙を郵便受けに入れた。
直人さんへ
かなり短期間だったけど、お世話になりました!ありがとう!直人さんを危険な目に遭わせたくないので、北海道には一人で行こうと思います。
欲を言えば、一緒に北海道を回って、北海道を楽しんでもらいたかったな。
もし、直人さんが危険でも、私に付いてきてくれるなら、3日前に襲われた公園に15時まで待ってます。
簡単でごめんね。
千代より
「やっと着いたぁ」
千代はフラフラしながら、自転車を押してきた。
公園に入り、辺りを見渡した。車が数台停まっている。直人が乗っていた車を探した。
心臓がドキドキと高鳴った。いたら、すごく嬉しい。だけど、期待はしない。だって、気持ちの落差が激しいし、あんな危ない目に遭って、また来る訳がない。
まだ13時。まだ約束の時間まである。
バタンと物音がした。
「車だからすぐ着いたぞ」
直人は照れ臭そうに、車から降りてきた。
「直人さん!」
千代は自転車から手を離し、直人に抱きついた。
「わっ!」
「直人さん!無事で良かった!」
「俺は何もされてねぇよ。俺より千代さんの方が危なかったんじゃないのか?怪我とかは?」
直人はドギマギし、どうしたら良いか分からず、両手を上に上げた。
「私は大丈夫。はぁ、無事で良かった」
「よし!早速、北海道に行こう」
「え?いいの?」
千代は直人に埋めた顔をあげた。
「送ってくって、言ったからな」
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「ありがとう!」
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「そこから、どうやって出たんだ?」
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「なっ!火事?!」
「ぎゃ!」
直人は驚いて急ブレーキを踏んだ。
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「煙がすごくて苦しかったけど。監視役がシャッターを開けた時に、頭殴って逃げられたの。橘は私が死んだら困るから、一か八かだけど逃げられかもって思ったの」
直人は再び車を走らせた。
「よく、無事ですんだな!」
「そしたらね!その後、結構走ったんだけど、直人さん家の近くにある小学校の裏に出たの!」
「え⁈小学校の裏に⁈」
「で、小学校の向かいのお店で、食料買い足してから直人さん家に向かったの」
「あ!あの空弁当、千代さんだったのか!」
「ついでに、お風呂と服も借りました」
「見たことあると思ったら、それ俺の服!てか、部屋入ったの?」
「鍵開いてたよ」
「まぢか」
「直人さんは、あの後どうしたの?」
直人は少し置いてから話し始めた。
「俺は千代さんが心配で。捜索願を出した。それでなんだけど、橘やっぱり何か隠してないか?」
「え?」
「普通、人を探す時って、警察や探偵に相談するじゃん。でも、あいつは輩みたいなのに千代さんを探させた。やっぱり、あいつは警察にバレたらまずい事をしてるんじゃないないのか?」
「うーん。可能性はあると思う。脱税とか悪巧みしてそうだし」
「その悪さを掴んで、橘を訴えれば、千代さんは解放されるんじゃない?」
「そうだね。ねぇ、今日はどこまで行けそう?」
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「ん?あぁ、仙台までは頑張りたいな。夜でも明るいし、人も多い。また、あんな奴らに襲われないように考えなきゃな」
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「おつかれ~!」
二人は車内で軽く食事を取った。
「はい。ビール」
「いいのか?」
「ビール好きでしょ?はい、乾杯」
「かんぱーい。って、飲めないのに千代さんも飲むの?」
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