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恋のキューピッド
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「ほんっっと、なにをやっているのかしら、レオ様は」
レオの計らいにより二人っきりになった途端、私は切り出した。
「面目ない……」と囁くように言いながら、レオは項垂れた。
「まっさか、貴方がここまで意気地なしの鈍感野郎だとは思わなかったわ」
「ちょっと、一国の王子に対してあまりの言いようじゃないか。俺の知っているアメリアとはかなりかけ離れているぞ」
「だって私、もう貴方の妻じゃないですもの。猫を被ったって意味がないわ」
レオが「怖っ」と呟いた気がしたが、気にしないでおこう。
「だってリリィが俺のことを好きだとは限らないし、もしフラれたりしたら俺もう生きていけない……」
ああ、もう。じれったい!
ここで「リリィはレオ様のことが好きなのよ」とぶちまけてしまいたい。
でも、それじゃ意味がないって分かってる。本人たちが自分で想いを伝えなければ、伝わらないのだ。
──って、大好きなロマンス小説に書いてあった。
どうしたらいいのかしら。私の恋愛知識といえばロマンス小説に関することしかない。
ただでさえない恋愛知識を捻り出したその時だった。
「お姉様!」
勢いよく扉が開いた音がしたと思ったら、リリィが私の元へと駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの、リリィ」
「お姉様が物凄い形相でレオ様の屋敷に行ったと聞いていてもたってもいられなくて! それに何か鈍器のようなものを持っていたとメイド長が言っていて」
「……鈍器? ああこれのこと?」
入れ物の中から愛読書であるロマンス小説を取り出した。先月、十巻もある連載小説を纏めた愛蔵版が出ていたのだ。少しでも恋愛相談の参考になればと思い持ってきたのだけど……確かに、千ページを軽く超すから鈍器に見えたのだろう。
「あら、その本はお姉様の愛読書ね。ごめんなさい、お姉様のことだからなにかあってもおかしくないと思っていたの。私の早とちりだったみたい」
なにかあってもおかしくないってなんだと心の中でツッコんだ。
「っ、リリィ……」
突然のリリィの来訪に固まっていたレオが呼びかけた。
「レオ様、お久しぶりですわ。お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ございません」
「恥ずかしいところなんてあるものか。俺は、その、お前の恥ずかしいところも見てみたいと思っている」
「レオ様……」
なに、この甘い雰囲気は。見ているこっちが胸焼けしそうだ。
リリィは頬を染めると、私の方を向いた。多分、恥ずかしくてレオのことを直視できないのだろう。
「殴り込みに行っていないのであれば、お姉様はなぜレオ様の元に?」
「殴り込みにって相当な言われようね」
妹の素直な言葉に鋭いツッコミを入れていると、あるアイデアが頭の中に浮かんだ。
そうよ、包み隠さず言えばいいんじゃない。
「レオ様に好きな人が告白したいとか恋愛相談されたのよ。ほら、前妻としては乗らないわけにはいなかいじゃない? ──あ、そうだわ。もしよかったらリリィに相談に乗ってもらったらどうかしら」
「ちょっと、アメリア⁉︎」
焦りを滲ませた声音で、レオが鋭く言い放った。
かなりの荒療治だ。いい方向へ転がっていくとは限らない。でも、やってみる価値はあると思ったのだ。
「レオ様には好きな方がいらっしゃるのね……。では、私の想いなど届くはずもありませんわね。──あっ、今のは違いますの。忘れてくださいませ」
早口で捲し立てるように言うと、リリィは入口の方へと走り出した。
「ちょっと待ってくれ、理解が追いつかない。もしかしてリリィは俺のことが……」
「っ……!」
リリィの顔が真っ赤に染まった。絹のように白い肌なので、わかりやすい。
「俺は、リリィのことが好きだ。愛してる!」
叫ぶようにレオが告白する。
「私も! 私もレオ様のことが好きですわ!」
負けじとリリィが返答を返した。
「リリィ!」
レオが駆け出し、リリィに抱きついた。リリィは驚いたように目を見開いたあと、レオの背中に手を回した。
どうやら私はお邪魔みたいね。
ゆっくりと部屋から出て、近くにいた使用人に「ちょっと外を歩いてくるわ」と告げた。続けて「中で今大事な話をしているから入らないであげて」と付け加えておく。
使用人は「まあ」と驚いた顔をしたあと、笑みをこぼした。
「そういうことですね。かしこまりました、中に入らないように見張っておきますわ」
なにかを察したらしい使用人はどんと自身の胸を叩いた。げほんげほんと咳き込む使用人に、大丈夫かしらと視線を送りつつ、屋敷を出た。
そのまま、お気に入りの場所である庭園へと向かうのだった。
レオの計らいにより二人っきりになった途端、私は切り出した。
「面目ない……」と囁くように言いながら、レオは項垂れた。
「まっさか、貴方がここまで意気地なしの鈍感野郎だとは思わなかったわ」
「ちょっと、一国の王子に対してあまりの言いようじゃないか。俺の知っているアメリアとはかなりかけ離れているぞ」
「だって私、もう貴方の妻じゃないですもの。猫を被ったって意味がないわ」
レオが「怖っ」と呟いた気がしたが、気にしないでおこう。
「だってリリィが俺のことを好きだとは限らないし、もしフラれたりしたら俺もう生きていけない……」
ああ、もう。じれったい!
ここで「リリィはレオ様のことが好きなのよ」とぶちまけてしまいたい。
でも、それじゃ意味がないって分かってる。本人たちが自分で想いを伝えなければ、伝わらないのだ。
──って、大好きなロマンス小説に書いてあった。
どうしたらいいのかしら。私の恋愛知識といえばロマンス小説に関することしかない。
ただでさえない恋愛知識を捻り出したその時だった。
「お姉様!」
勢いよく扉が開いた音がしたと思ったら、リリィが私の元へと駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの、リリィ」
「お姉様が物凄い形相でレオ様の屋敷に行ったと聞いていてもたってもいられなくて! それに何か鈍器のようなものを持っていたとメイド長が言っていて」
「……鈍器? ああこれのこと?」
入れ物の中から愛読書であるロマンス小説を取り出した。先月、十巻もある連載小説を纏めた愛蔵版が出ていたのだ。少しでも恋愛相談の参考になればと思い持ってきたのだけど……確かに、千ページを軽く超すから鈍器に見えたのだろう。
「あら、その本はお姉様の愛読書ね。ごめんなさい、お姉様のことだからなにかあってもおかしくないと思っていたの。私の早とちりだったみたい」
なにかあってもおかしくないってなんだと心の中でツッコんだ。
「っ、リリィ……」
突然のリリィの来訪に固まっていたレオが呼びかけた。
「レオ様、お久しぶりですわ。お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ございません」
「恥ずかしいところなんてあるものか。俺は、その、お前の恥ずかしいところも見てみたいと思っている」
「レオ様……」
なに、この甘い雰囲気は。見ているこっちが胸焼けしそうだ。
リリィは頬を染めると、私の方を向いた。多分、恥ずかしくてレオのことを直視できないのだろう。
「殴り込みに行っていないのであれば、お姉様はなぜレオ様の元に?」
「殴り込みにって相当な言われようね」
妹の素直な言葉に鋭いツッコミを入れていると、あるアイデアが頭の中に浮かんだ。
そうよ、包み隠さず言えばいいんじゃない。
「レオ様に好きな人が告白したいとか恋愛相談されたのよ。ほら、前妻としては乗らないわけにはいなかいじゃない? ──あ、そうだわ。もしよかったらリリィに相談に乗ってもらったらどうかしら」
「ちょっと、アメリア⁉︎」
焦りを滲ませた声音で、レオが鋭く言い放った。
かなりの荒療治だ。いい方向へ転がっていくとは限らない。でも、やってみる価値はあると思ったのだ。
「レオ様には好きな方がいらっしゃるのね……。では、私の想いなど届くはずもありませんわね。──あっ、今のは違いますの。忘れてくださいませ」
早口で捲し立てるように言うと、リリィは入口の方へと走り出した。
「ちょっと待ってくれ、理解が追いつかない。もしかしてリリィは俺のことが……」
「っ……!」
リリィの顔が真っ赤に染まった。絹のように白い肌なので、わかりやすい。
「俺は、リリィのことが好きだ。愛してる!」
叫ぶようにレオが告白する。
「私も! 私もレオ様のことが好きですわ!」
負けじとリリィが返答を返した。
「リリィ!」
レオが駆け出し、リリィに抱きついた。リリィは驚いたように目を見開いたあと、レオの背中に手を回した。
どうやら私はお邪魔みたいね。
ゆっくりと部屋から出て、近くにいた使用人に「ちょっと外を歩いてくるわ」と告げた。続けて「中で今大事な話をしているから入らないであげて」と付け加えておく。
使用人は「まあ」と驚いた顔をしたあと、笑みをこぼした。
「そういうことですね。かしこまりました、中に入らないように見張っておきますわ」
なにかを察したらしい使用人はどんと自身の胸を叩いた。げほんげほんと咳き込む使用人に、大丈夫かしらと視線を送りつつ、屋敷を出た。
そのまま、お気に入りの場所である庭園へと向かうのだった。
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