魔法使いたちへ

柏木みのり

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 雅代が仕事部屋と呼んでいる小さな部屋に入ると、そこは相変わらず油絵具の匂いがして、ゴタゴタしているのに何故か不思議な秩序があった。
 ああ、この匂いだ。
 匂いや音は記憶と密接なつながりがあると聞いたことがあるけれど、この匂いを吸い込むと、本当に、胸の奥底から込み上げてくる、懐かしさというよりもっと強烈な思いで喉が詰まる。この約一年と一ヶ月の間にこの部屋にも何度か入ったのに、ちっともこんなふうに感じたりはしなかった。本当に全て忘れていたんだなと、我ながら魔法の効き目の強さに感心する。
 雅代が布のかかった大きなキャンバスを持ってきて低い木のチェストの上に置いた。白い布を外すと、そこに懐かしい絵が現れた。
 それは、精密に描かれた、重そうな木の扉の絵だった。
 少しくすんだ白い壁。暗い臙脂色の絨毯。そして流れるような美しい木目のある褐色の扉。扉は向こう側へわずかに開いていて、その後ろの薄暗い空間が少しだけ見える。光の感じから、外へ出る扉ではなく、家の内部をつなぐ扉、すなわち、部屋から廊下へ出る扉か、廊下から部屋へ入る扉、または一つの部屋から別の部屋へ通じる扉であることがわかる。扉にはごくシンプルで古風な彫刻が施されており、古びた真鍮色のドアノブと、小さな鍵穴がついていた。
「どうぞ」
 雅代が由に頷いてみせる。
 由は身体中に鳥肌が立つのを感じながら、ためらう隙を自分に与えないまま、一気に絵の中の扉へと飛び込んだ。
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