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2 男の中の男な彼女
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だがしかし。
現実(?)は、そう甘くなかった。
「お許しを……」
と、ひれ伏す男たちの、なんと情けないことか。
せっかく寄りどころを選んで攫って来たというのに、ことに及ぶには、ほど遠い。萎縮しまくってキスどころか、逆に反撃すらもない。
それよりはよっぽど、身の回りの世話をさせようと連れて来た女の子たちの方が、肝が座っている。
おかげで念願の脱☆処女も叶わないままである。
「魔王様、トミーはダメですね、あいつ。言い訳ばっかりで全然、私たちのことも手伝わないし」
と、女の子たちは辛辣だ。
女性陣は数日もしたら魔宮に慣れたようで、まだ侍女部屋と王の間と執務室の往復でしかないが、パタパタとよく動き、部屋を綺麗にしてくれる。腕に覚えのある数人は、台所も覗いているようだ。
魔宮に女性陣を連れてきたのは、荒れた町に独身女性や未亡人を放置して起こりうる人災から、彼女たちを守りたかったからだ。
逆に男手は、町の再建に欠かせないので、初夜が叶わないと翌朝には町に返している。その後に町でどんな噂になっているのか知らないが、どんな男を呼んでも反応が変わらないので、推して知るべし、である。
「化粧が濃いのかなぁ」
「魔王様たる威厳は必要です。それを乗り越えて寄り添ってくれる男性こそが、魔王様には相応しいと思います」
微笑んでくれる侍女ちゃんに癒やされる今日この頃。
私の愚痴に優しく寄り添ってくれる侍女をこそ抱いてやりたい。なんで男に転生しなかったんだよ。てか、この際、ユリもアリかなぁ?
それまで魔宮を手入れしてくれていたのは、パヤパたちスライム亜種だった。力仕事はゴーレムに来てもらっているし、適材適所、色々な魔物が出入りしている。
なら、なぜ人間も仕事に取り入れたのかというと、先の侵略が原因だ。町を襲ってインフレが起こり仕事にあぶれた人間たちに、どうにか生活を保証せざるを得なくなったのだ。
町の再建と治世に雇用を生ませて採算を取ろうとしたが治まりきらず、その余波が魔宮に来ている。
「そんなメンドクサイことしなくても、皆殺しにすりゃ良かったのに」
などという意見もあった。
さすが魔物である。っていうか魔物的には、そっちが正しい。奪って、殺す。お手軽だ。
「侍女がいれば雑用が押し付けられて、時間ができる。現にパヤパが魔宮を掃除してくれなくとも綺麗なままであり、その間に別の仕事ができる」
「魔王様もさぼれる、と」
「人聞きが悪いな! 私には別の、やらねばならぬことがあるのだ」
「それはそれは」
とスライム亜種は、ふよんと跳ねる。肩を竦めたかに見えた。
しかし、その言葉が実を帯び、魔王様は本当に忙しくなってしまったのである。
「魔王様、今日も勇者を名乗る一行が乗り込んで来ました!」
と報告が上がるたびに王の間に出向き彼らを出迎え、ひと勝負しなければならなくなったのである。出向く前にはメイクも必要だし、いざ戦ってみたら案外強かったりもして、一日仕事になるケースも珍しくない。
「今日、昼休みがなかった……」
と、ヘトヘトになりながらベッドに倒れ込む。会社なら完全にブラックだ。あ、魔界だけに黒いのか。
などと自ツッコミするも笑えない。うつ伏せのまま化粧も落とさず寝てしまいそうである。
「魔王様、お夜食は召し上がりますか?」
「いや、いい。ありがとう」
心配してくれる侍女リリカに、ゆるく手を振る。
金髪、碧眼。桜色の小さな唇に白い肌、細い首、腰、華奢な脚。連れてきた女性陣の中でも、ピカイチ可愛い少女である。
すると、リリカが「すみません」と謝るではないか。
「何が? お前のせいじゃない」
生前の持ち前の男前を発揮して、つい微笑んでしまう。聖飢魔IIメイクのままだが。
すると彼女が洗面器を用意しながら、
「実は……」
などと言い出した。
「私、王女なんです」
「……はい?」
たまたま連れてきた町娘がたまたま王女とは、これいかに。
「王宮に渦巻く陰謀から身を隠して、ついでに一人でも生きていけるようにって、家事全般たたき込まれながら育ったんです。でも私がさらわれたと知った国王が、国中にお触れを出したと、つい先日聞きました」
「って、誰から、そんな、」
と呟いてから思いついて、嗚呼とため息が漏れてしまった。
連日とまでは言わないが、自分が征服した町から男を連れてきて、夜伽をさせようとしていたではないか。彼らの食事と寝場所を世話するよう、リリカたちに命じたのだ。情報源は、そこからだ。
「それで最近、勇者様ご一行の来訪が多いのかぁ」
顔を拭いながら、再び深くベッドに沈みこむ。もう起きれない。今日は寝る。
現実(?)は、そう甘くなかった。
「お許しを……」
と、ひれ伏す男たちの、なんと情けないことか。
せっかく寄りどころを選んで攫って来たというのに、ことに及ぶには、ほど遠い。萎縮しまくってキスどころか、逆に反撃すらもない。
それよりはよっぽど、身の回りの世話をさせようと連れて来た女の子たちの方が、肝が座っている。
おかげで念願の脱☆処女も叶わないままである。
「魔王様、トミーはダメですね、あいつ。言い訳ばっかりで全然、私たちのことも手伝わないし」
と、女の子たちは辛辣だ。
女性陣は数日もしたら魔宮に慣れたようで、まだ侍女部屋と王の間と執務室の往復でしかないが、パタパタとよく動き、部屋を綺麗にしてくれる。腕に覚えのある数人は、台所も覗いているようだ。
魔宮に女性陣を連れてきたのは、荒れた町に独身女性や未亡人を放置して起こりうる人災から、彼女たちを守りたかったからだ。
逆に男手は、町の再建に欠かせないので、初夜が叶わないと翌朝には町に返している。その後に町でどんな噂になっているのか知らないが、どんな男を呼んでも反応が変わらないので、推して知るべし、である。
「化粧が濃いのかなぁ」
「魔王様たる威厳は必要です。それを乗り越えて寄り添ってくれる男性こそが、魔王様には相応しいと思います」
微笑んでくれる侍女ちゃんに癒やされる今日この頃。
私の愚痴に優しく寄り添ってくれる侍女をこそ抱いてやりたい。なんで男に転生しなかったんだよ。てか、この際、ユリもアリかなぁ?
それまで魔宮を手入れしてくれていたのは、パヤパたちスライム亜種だった。力仕事はゴーレムに来てもらっているし、適材適所、色々な魔物が出入りしている。
なら、なぜ人間も仕事に取り入れたのかというと、先の侵略が原因だ。町を襲ってインフレが起こり仕事にあぶれた人間たちに、どうにか生活を保証せざるを得なくなったのだ。
町の再建と治世に雇用を生ませて採算を取ろうとしたが治まりきらず、その余波が魔宮に来ている。
「そんなメンドクサイことしなくても、皆殺しにすりゃ良かったのに」
などという意見もあった。
さすが魔物である。っていうか魔物的には、そっちが正しい。奪って、殺す。お手軽だ。
「侍女がいれば雑用が押し付けられて、時間ができる。現にパヤパが魔宮を掃除してくれなくとも綺麗なままであり、その間に別の仕事ができる」
「魔王様もさぼれる、と」
「人聞きが悪いな! 私には別の、やらねばならぬことがあるのだ」
「それはそれは」
とスライム亜種は、ふよんと跳ねる。肩を竦めたかに見えた。
しかし、その言葉が実を帯び、魔王様は本当に忙しくなってしまったのである。
「魔王様、今日も勇者を名乗る一行が乗り込んで来ました!」
と報告が上がるたびに王の間に出向き彼らを出迎え、ひと勝負しなければならなくなったのである。出向く前にはメイクも必要だし、いざ戦ってみたら案外強かったりもして、一日仕事になるケースも珍しくない。
「今日、昼休みがなかった……」
と、ヘトヘトになりながらベッドに倒れ込む。会社なら完全にブラックだ。あ、魔界だけに黒いのか。
などと自ツッコミするも笑えない。うつ伏せのまま化粧も落とさず寝てしまいそうである。
「魔王様、お夜食は召し上がりますか?」
「いや、いい。ありがとう」
心配してくれる侍女リリカに、ゆるく手を振る。
金髪、碧眼。桜色の小さな唇に白い肌、細い首、腰、華奢な脚。連れてきた女性陣の中でも、ピカイチ可愛い少女である。
すると、リリカが「すみません」と謝るではないか。
「何が? お前のせいじゃない」
生前の持ち前の男前を発揮して、つい微笑んでしまう。聖飢魔IIメイクのままだが。
すると彼女が洗面器を用意しながら、
「実は……」
などと言い出した。
「私、王女なんです」
「……はい?」
たまたま連れてきた町娘がたまたま王女とは、これいかに。
「王宮に渦巻く陰謀から身を隠して、ついでに一人でも生きていけるようにって、家事全般たたき込まれながら育ったんです。でも私がさらわれたと知った国王が、国中にお触れを出したと、つい先日聞きました」
「って、誰から、そんな、」
と呟いてから思いついて、嗚呼とため息が漏れてしまった。
連日とまでは言わないが、自分が征服した町から男を連れてきて、夜伽をさせようとしていたではないか。彼らの食事と寝場所を世話するよう、リリカたちに命じたのだ。情報源は、そこからだ。
「それで最近、勇者様ご一行の来訪が多いのかぁ」
顔を拭いながら、再び深くベッドに沈みこむ。もう起きれない。今日は寝る。
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