6 / 15
6 恋の駆け引きには、ほど遠い
しおりを挟む
「んんんっ」
ドカッ!
「痛ぇーっ」
侵入者が飛び上がる。離れた唇から、ちゅばっと音が聞こえそうな勢いだった。
めっちゃ吸われたし! いや何か、キスってこんな生々しいモン?! これがディープキスなの?! と、大パニックである。
「魔王様?!」
異変に気付いたらしいパヤパが、ドンドンと扉を叩く。侵入者は蹴り飛ばされて、もんどり打ったのも束の間、身をひるがえして窓に取りついていた。
「明日は人払いしておけよ、魔王様」
侵入者が、手を振って窓から飛び降りた。
あっという間だった。
「何だったんだ……?」
唇に感触が残っていて、呆然としながら口を押さえてしまった。
最後に聞いた、あの声。
半日以上、戦った相手……勇者だったのだろうか。確か名前は、ベンジャミン。
この寝室が魔王の寝室であると知っていて、この顔なのに襲ってきたのだ。いつものメイクがなかったから、別人だったはずなのに。
魔宮には、私の魔法が張り巡らしてある。その網をかいくぐって侵入してきたというのも、大問題だ。それほどアイツが強いのか、私の魔法が弱くなったのか。
「魔王様……? 大事ございませんでしたか?」
小さな声で、ノックも優しい音である。
「ああ、リリカ。入って大丈夫よ」
「失礼いたします」
楚々と入室したリリカの両手には盆が乗っており、盆の上には、薬湯と砂糖菓子が乗っている。思わず笑みが出た。
「王女様とは思えない気遣いだわ」
「滅相もない」
リリカも微笑んだ。
が、違うな、と、すぐに内心で訂正した。
王女様という存在は、気遣いできない人の総称じゃない。リリカが、気遣いも出来る素敵な王女様である、というだけだ。
一気飲みできるよう薬湯は、ぬるくしてある。私は一気に飲み干して、口直しの菓子を頬張り、ベッドの真ん中に身体を戻した。
クッションに身を預けて、深く沈みこもうとするも、先ほどの感触が気になって眠れない。薬が効くには、まだ少しかかる。
「ねぇ、リリカ」
「はい、魔王様」
慈しむ笑みを見せる少女の様子は、間違いなく王女のオーラを持っている。魔宮に来て安心したのか、満足な食事ができているためか、どんどん綺麗になっている。
ディープキスって、どんな感じなの? などと聞くのは、はばかられる。
「……何でもないわ」
リリカは何も言わず、盆を持って下がっていった。
扉を開ける時にだけ見える、リリカの背中。背中にまで流れる、綿飴のような金髪を見たら、ふと、暗い気持ちに襲われた。
腰も脚も華奢で、可愛らしい。
もし、あの侵入者が勇者ベンジャミンなのだとすれば、私を倒して手に入るのは、あの姫なのだ。なのに、どうしてキスして来たのだと考えだすと、眠れなくなりそうである。せっかく薬湯を飲んだのに。
あの時。
戦っていた最後に、汗を拭って化粧が崩れたのであろう顔を見せた時。勇者は足を止めて、目をぱちくりさせていた。あの驚きは何だったのか、それがどうして、キスにつながるのか。
答えを求めるなら、会うしかない。
明日と言った以上はあの勇者、必ず来るに違いない。何となく、そういう律儀さはあるに違いないと確信している。
しかも、何も罠はないと信じているに違いない。
そう信じさせるに足る顔を、私が見せてしまったから。
無防備な、キスに酔う顔をしてしまっていただろうから。
「来たぜ」
翌日の夜、開け放たれた窓から彼が、姿を現した。
ドカッ!
「痛ぇーっ」
侵入者が飛び上がる。離れた唇から、ちゅばっと音が聞こえそうな勢いだった。
めっちゃ吸われたし! いや何か、キスってこんな生々しいモン?! これがディープキスなの?! と、大パニックである。
「魔王様?!」
異変に気付いたらしいパヤパが、ドンドンと扉を叩く。侵入者は蹴り飛ばされて、もんどり打ったのも束の間、身をひるがえして窓に取りついていた。
「明日は人払いしておけよ、魔王様」
侵入者が、手を振って窓から飛び降りた。
あっという間だった。
「何だったんだ……?」
唇に感触が残っていて、呆然としながら口を押さえてしまった。
最後に聞いた、あの声。
半日以上、戦った相手……勇者だったのだろうか。確か名前は、ベンジャミン。
この寝室が魔王の寝室であると知っていて、この顔なのに襲ってきたのだ。いつものメイクがなかったから、別人だったはずなのに。
魔宮には、私の魔法が張り巡らしてある。その網をかいくぐって侵入してきたというのも、大問題だ。それほどアイツが強いのか、私の魔法が弱くなったのか。
「魔王様……? 大事ございませんでしたか?」
小さな声で、ノックも優しい音である。
「ああ、リリカ。入って大丈夫よ」
「失礼いたします」
楚々と入室したリリカの両手には盆が乗っており、盆の上には、薬湯と砂糖菓子が乗っている。思わず笑みが出た。
「王女様とは思えない気遣いだわ」
「滅相もない」
リリカも微笑んだ。
が、違うな、と、すぐに内心で訂正した。
王女様という存在は、気遣いできない人の総称じゃない。リリカが、気遣いも出来る素敵な王女様である、というだけだ。
一気飲みできるよう薬湯は、ぬるくしてある。私は一気に飲み干して、口直しの菓子を頬張り、ベッドの真ん中に身体を戻した。
クッションに身を預けて、深く沈みこもうとするも、先ほどの感触が気になって眠れない。薬が効くには、まだ少しかかる。
「ねぇ、リリカ」
「はい、魔王様」
慈しむ笑みを見せる少女の様子は、間違いなく王女のオーラを持っている。魔宮に来て安心したのか、満足な食事ができているためか、どんどん綺麗になっている。
ディープキスって、どんな感じなの? などと聞くのは、はばかられる。
「……何でもないわ」
リリカは何も言わず、盆を持って下がっていった。
扉を開ける時にだけ見える、リリカの背中。背中にまで流れる、綿飴のような金髪を見たら、ふと、暗い気持ちに襲われた。
腰も脚も華奢で、可愛らしい。
もし、あの侵入者が勇者ベンジャミンなのだとすれば、私を倒して手に入るのは、あの姫なのだ。なのに、どうしてキスして来たのだと考えだすと、眠れなくなりそうである。せっかく薬湯を飲んだのに。
あの時。
戦っていた最後に、汗を拭って化粧が崩れたのであろう顔を見せた時。勇者は足を止めて、目をぱちくりさせていた。あの驚きは何だったのか、それがどうして、キスにつながるのか。
答えを求めるなら、会うしかない。
明日と言った以上はあの勇者、必ず来るに違いない。何となく、そういう律儀さはあるに違いないと確信している。
しかも、何も罠はないと信じているに違いない。
そう信じさせるに足る顔を、私が見せてしまったから。
無防備な、キスに酔う顔をしてしまっていただろうから。
「来たぜ」
翌日の夜、開け放たれた窓から彼が、姿を現した。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる