転生して魔王になったので男漁り始めました。

加上鈴子

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6 恋の駆け引きには、ほど遠い

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「んんんっ」
 ドカッ!
「痛ぇーっ」
 侵入者が飛び上がる。離れた唇から、ちゅばっと音が聞こえそうな勢いだった。
 めっちゃ吸われたし! いや何か、キスってこんな生々しいモン?! これがディープキスなの?! と、大パニックである。
「魔王様?!」
 異変に気付いたらしいパヤパが、ドンドンと扉を叩く。侵入者は蹴り飛ばされて、もんどり打ったのも束の間、身をひるがえして窓に取りついていた。
「明日は人払いしておけよ、魔王様」
 侵入者が、手を振って窓から飛び降りた。
 あっという間だった。
「何だったんだ……?」
 唇に感触が残っていて、呆然としながら口を押さえてしまった。

 最後に聞いた、あの声。
 半日以上、戦った相手……勇者だったのだろうか。確か名前は、ベンジャミン。
 この寝室が魔王の寝室であると知っていて、この顔なのに襲ってきたのだ。いつものメイクがなかったから、別人だったはずなのに。
 魔宮には、私の魔法が張り巡らしてある。その網をかいくぐって侵入してきたというのも、大問題だ。それほどアイツが強いのか、私の魔法が弱くなったのか。
「魔王様……? 大事ございませんでしたか?」
 小さな声で、ノックも優しい音である。
「ああ、リリカ。入って大丈夫よ」
「失礼いたします」
 楚々と入室したリリカの両手には盆が乗っており、盆の上には、薬湯と砂糖菓子が乗っている。思わず笑みが出た。
「王女様とは思えない気遣いだわ」
「滅相もない」
 リリカも微笑んだ。
 が、違うな、と、すぐに内心で訂正した。
 王女様という存在は、気遣いできない人の総称じゃない。リリカが、気遣いも出来る素敵な王女様である、というだけだ。
 一気飲みできるよう薬湯は、ぬるくしてある。私は一気に飲み干して、口直しの菓子を頬張り、ベッドの真ん中に身体を戻した。
 クッションに身を預けて、深く沈みこもうとするも、先ほどの感触が気になって眠れない。薬が効くには、まだ少しかかる。
「ねぇ、リリカ」
「はい、魔王様」
 慈しむ笑みを見せる少女の様子は、間違いなく王女のオーラを持っている。魔宮ここに来て安心したのか、満足な食事ができているためか、どんどん綺麗になっている。
 ディープキスって、どんな感じなの? などと聞くのは、はばかられる。
「……何でもないわ」
 リリカは何も言わず、盆を持って下がっていった。

 扉を開ける時にだけ見える、リリカの背中。背中にまで流れる、綿飴のような金髪を見たら、ふと、暗い気持ちに襲われた。
 腰も脚も華奢で、可愛らしい。
 もし、あの侵入者が勇者ベンジャミンなのだとすれば、私を倒して手に入るのは、あの姫なのだ。なのに、どうしてキスして来たのだと考えだすと、眠れなくなりそうである。せっかく薬湯を飲んだのに。
 あの時。
 戦っていた最後に、汗を拭って化粧が崩れたのであろう顔を見せた時。勇者は足を止めて、目をぱちくりさせていた。あの驚きは何だったのか、それがどうして、キスにつながるのか。
 答えを求めるなら、会うしかない。
 明日と言った以上はあの勇者、必ず来るに違いない。何となく、そういう律儀さはあるに違いないと確信している。
 しかも、何も罠はないと信じているに違いない。
 そう信じさせるに足る顔を、私が見せてしまったから。
 無防備な、キスに酔う顔をしてしまっていただろうから。

「来たぜ」

 翌日の夜、開け放たれた窓から彼が、姿を現した。
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