転生して魔王になったので男漁り始めました。

加上鈴子

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9 そういうことですか

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 ダダダッと飛び込んできた、侍女ご一行と男性。それに、その後ろにも3人の人間。見覚えがある。勇者の仲間だ。
「やっぱ見えてたのか……」
 横を向いて、小さく呟いた。トイチの夜這いは、ひょっとしたらベンジャミンが私の素顔を仲間に話したのかと思っていたのだ。
 でも私が彼らを見覚えあるってことは、彼らからも私が見えていた訳で。
 勇者様は激怒していた。
「何を勝手なことしてるんだ! しかも魔王様に夜這いなどとは!」
 という怒号が彼らしい。うん、こっちが彼だ。
 怒鳴り声なのに、どこか私は安堵した。

「分かった分かった。退散するよ」
 と、トイチは悪びれない。
 ベンジャミンの後ろに控えている仲間たちも怒っている。トイチの独断だったのだ。
「お前が単身、魔王様に掛け合ってくるというから、俺たちは……」
 と、声を詰まらせている男がいるので、そこは分かった。口の立つ彼が適任と任せて、自分たちはリリカと一緒に顛末を見守っていた。ところが! といった風だ。
「リリカ」
 私はいそいそとガウンを着ながらも、精一杯、声にすごみを効かせた。
「どうして彼らを手引きしたの?」
 普通の人間なら入るどころか、近寄ることさえ出来ない魔宮だが、侍女たちにだけは魔宮に入城できるよう、特別なマントを与えてあった。中に入れば、無用だ。
 侍女たちのマント人数分を彼らに与えれば、入城はたやすい。
 全員が、勇者たちを手引きしたのだ。
 裏切られた気分に対して湧き上がった感情は、怒りよりも寂しさだった。
 1日目だけなら、まだ「脅されたから」とか何とか言い訳が立つだろう。
 だが2日となれば、立派な共犯だ。

「違うんです!」
 リリカが泣きそうな顔で手を伸ばしてくる。その手を取る気にはなれない。
 私に拒絶されて立ちすくんでしまった彼女の代わりに、勇者ベンジャミンが割り込んできた。
「私たちは魔王様と和解したくて来たのだ」
「ぬけぬけと」
「信じてもらえずとも仕方がない」
 ベンジャミンは、自分の後ろに下がった剣士トイチを睨んでから、私を真っ直ぐ見つめてきた。
「あなたが襲った辺境の町は、いまだに復興がらず、女手が少ないせいもあって秩序が乱れている。いっそ、あなたの統治下に置いて頂き、王都とも和解して関係を築いたほうが、お互いのためになると思ったのだ! そうすれば王女様も城に帰れる!」
「ま、私は元々城に住んでなかったけど」
 リリカがボソリと呟いたところを見ると、そこが合意点ではないらしい。
「私は、」
 と、リリカがやや、はすっぱな口調で声を張り上げた。
「そこのアホ剣士が魔王様に惚れたって聞いたから、手を貸したのよ!」
「そうよ、そうよ!」
 と後ろの侍女軍団も加勢するではないか。

 えええと、何?
 勇者的には国の平和を願う交渉。
 侍女ちゃんたちには、トイチの夜這い大作戦。
 当のトイチは、夜這いに見せた暗殺戦略だった、と?
「トイチの思考が一番マトモだわ」
「魔王様、ひどいっ」
 ショック受けてるけど、いやいや、リリカたちの方がおかしいから!
「だって、そんな……」
 魔王様に男をあてがってあげようなんて、そんな。と考えたら、思い当たる節に当たってしまった。
 ……あり得るか☆
「ごめん」
 思わず謝る。
 顔を伏せて、片手で顔を覆った。
「リリカたちがそう考えてくれるぐらいには、私……」
 男漁りしてたもんねぇ、とは、さすがに口には出せなかった。トイチに聞かれたくなかったし、それよりベンジャミンに聞かれるのも嫌だった。
 穴があったら入りたい。

「魔王様……」
 リリカが察して、そっと私の腕を触る。優しい手。
 彼女が、彼女たちが私を裏切るなどという疑心を抱いたことも、恥ずかしい。自分の仕事ぶりを信じていないから、疑心暗鬼におちいるのだ。
 彼女たちは、私から受けた処遇を恩義に感じない、礼儀知らずではない。
 私は腕を支えてくれているリリカの手を握り返し、顔を向けて微笑んだ。
 魔王らしからぬ顔だが、今の魔王は、私だ。
「勇者ベンジャミン」
 未だ律儀に戸口に立ったままでいる勇者に、呼びかける。
「今夜の騒動は水に流そう。後日、改めて出向くが良い」
「はっ」
 短く呼応し礼をして、サッと退室する潔さ。見事なものだ。言い訳や質問を重ねてくることなく、気持ち良い身の引き方であった。
 勇者ベンジャミンもまた、これだけの事をしでかした仲間を不問に処した私のことを、恩義に感じない礼儀知らずではなかった。
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