転生して魔王になったので男漁り始めました。

加上鈴子

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12 想定外だが納得でした

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 寝室には、仲間を連れてきても構わないと告げた。あくまで今はまだ、敵対する者同士だ。
 腹を割って話す場が必要かと判断したのが一点、もう一点は……そりゃあ、もう。もしなら、こんなチャンスは2度とないに違いないし。
 結婚なんて、そうそう簡単に話は決まらないだろうし。
 それに。
 魔王としての私が本当に、人間とヤれるのか? というのも、ずっと頭の隅にはあった。
 それを知る、良い機会でもあるのだ。

「魔王殿……いや」
 寝室に通されたベンジャミンは、ただ一人。律儀に椅子へ座る。ベッドからテーブルは少し離れているので、私も椅子へ移動した。
 一人で来てくれた……という安心感を覚えた。試した訳ではなかったつもりだが、そうと分かれば、やっぱり嬉しい。
 侍女ちゃんが用意してくれた、果実酒をコップに注ぐ。
「名前を、教えて頂きたい」
「ないわ。魔王として生まれ落ち、親兄弟もない。目を開けた時には、魔物たちを統べる玉座に君臨していたの」
「では……」
 ベンジャミンは言い淀んだが、心を決めたらしい言葉は強く紡がれた。
「前世の名は?」
 と。
 ガタンっ! と立ち上がる。
 それを慌ててベンジャミンも立ち上がり、腕を掴まれた。
「落ち着いて下さい! 私も転生した人間なのです」
「え」
「ベンジャミン・ディオン。カナダの生まれです。身体が弱く病死しましたが、強い身体が欲しいと願っていたからか、こんなたくましい身体に生まれ変わってしまった」
 苦笑すると人懐こく目尻が下がる彼を見ながら、そういやベンジャミンなんタラって映画があったなと明後日なことを考えた。

「……ミツキ。伊東美月よ」
 日が経てば記憶が薄れるかと思ったが、しっかり覚えていた。親と友達しか呼ばなかった名前だというのに。
「ミツキ」
 彼の口から出ると、自分の名前じゃないようだ。掴まれている不快感もない。むしろ、抱きしめられても構わない。ぎこちなく、腕を掴んだまま動かせないでいる手も愛おしい。
 自然に手が動いて、ベンジャミンの手に重ねていた。
「私は日本人で、しがないOLだった。OL、分かる? オフィスレディ」
「分かるよ」
「中身は30歳過ぎの行き遅れ」
 きっとベンジャミンの方が若いのだろうな、という負い目が頭をよぎって、年齢を口にしてしまった。魔王としても前世だって、きっと私の方がオバちゃんだ。

 しかし。
「関係ない」
 抱きすくめられた。求めていた、広い胸。抱きしめ返すには、まだ少し勇気が足りない。
「戦い、あなたの化粧が取れて素顔が見えた時、胸が鳴った。あなたと和解したいと思った。が、その役目にトイチが行くと言った時は不愉快な気持ちに襲われた」
 懸命に言葉を紡ぐ顔が見たくなり、見上げる。すると顔が迫ってきた。
「ん」
 唇が重なる。
 背中にかかる腕の力が、一層強くなる。締め殺されそうな強さが、むしろ心地よい。
「トイチがするさまを見て、あなたに会って話をして、これが恋愛感情なのかと分かった」
 身体が弱いと言っていた。
 彼も前世では、恋ひとつ実らず終わっていたのかも知れない。
「好きです」
「わ、私もっ」

 ここで言わねばタイミングを失う! と焦ったら、また声が上ずってしまった。
 ぐいと引っ張り、ベッドに誘う。彼がどこまで実直かは分からないが、日本の実直さで言えば、結婚まで我慢しそうだ。
「試して」
 素直に言った。
「外見は人間でも、私は魔物。本当に良いの?」
「人間でも、魔物のような輩もいる」
 ベッドに座った私を、ベンジャミンがそっと横たえた。上半身の服を脱ぐ。精悍な身体と、ここにも無数の傷だ。
「普段は鎧を着ないので、そういう時に限って騒動に巻き込まれて」
 と言い訳がましく苦笑する。
 違うな、と思った。
 そういう時に限ってじゃなく、いつも、そういう時ばかりなのだろう。何かいさかいがあると、止めに入ってしまう性分なのだ。
「来て」
 私も自分のドレスを脱ごうとした。が、どうにも手が震えている。こんなトコで経験値ゼロを発揮するんじゃねーよ私!
 ベンジャミンが、私の肩に手を置く。
「脱がせるのは男の特権だから」
 徐々に敬語がなくなっている、彼の口調も心地よい。
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