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六章 ミコである意味
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右肩を砕かれたから、右腕をダラリと下ろしている。血が吹き出ている。動脈やっちゃってないか。
いや、死ぬじゃん!
「オサ?!」
駆け寄ろうとして、タバナに身体を捕まれた。
「ミコ様、危険です! 今のオサはオサじゃない」
あ、タバナにも見えるんだった。
「なおさら、よく見なさい! 今のオサは、オサです!」
そうなのだ。
自害しようとしたオサは、エセオサじゃない。オサだ。
「どうして……」
言葉に詰まった私に、オサが笑いかける。いつもの嫌味ったらしい作り笑いじゃない、気持ち良い笑い方だ。
なんだ、あんた、そんな笑い方も出来るんじゃん……って冗談言いたくなるほどの。
口から血を吐いたりしてなきゃ。
「よもや宿敵が我が内に入り込むなどという好機を、逃すわけに参りませんでしたので」
そう言った時のオサは、また少し嫌味っぽい顔になった。
宿敵? え、分かんない、敵は私じゃなかったの? あんなにも殺そうとしてたじゃん。
「何を言ってるの」
「ミコ様には今まで、ずっと申し訳ないことをして参りました」
そう言ってうなだれるオサが、膝をついて崩れ落ちる。平伏したっていうより、倒れ込んだ感じだ。ヤバいってホントに死ぬって!
「オサ」
「さわるな!」
支えたくて、オサの腕を掴みかけたら拒否られた。そんでもって、タバナにも腕を引かれて一歩離れさせられた。
「近づいてはなりません。まだ、オサの身のうちに、あやつが在ります」
エセオサ。
接触したらヤバいのかな。多分ヤバいよな。
でも、もうオサの意識を乗っ取ることも出来ないみたい。力が弱まってるのを感じる。って油断してたらダメなんだろうけど。
タバナ、トサが私の前に立ち、守ってくれている。近付くでもなく、とはいえ遠ざかる訳にも行かず、オサの出方をうかがってる状態だ。
「タバナよ」
オサの呼びかけは力なく、咳き込んでて息も絶え絶えだ。憎しみや恨みを感じる呼び方じゃない。とても優しい声。
あまり顔色を変えない……というか髭で表情が分かりにくいんだけど、そんなタバナが、うろたえてるのが分かる。なんか、泣きそうな顔なのだ。
「お前が正しかった……私に、とどめをくれ」
「な……!」
私が暴れかけるのを押さえるタバナが、小さく頷いた。
いや待ってホントに意味わかんないから! 何でタバナに頼むんだよ、オサ!
「トサよ、ミコ様を」
タバナが私を、トサに向けて押す。トサが手を伸ばして「失礼します」と私を掴もうとする、それを振り払った。
「ミコ様!」
分かる。分かるよ、やろうとしてることは。
オサの中のヤツが、最後の力を振り絞ろうとしてる気配は、私だって読めてる。そいつが暴れ出さないうちに、オサごと斬ろうってんでしょ。
でも、それを頼むのはタバナじゃないでしょ!
いや、タバナしか頼む人いないんだとも分かるけど!
我ながら、めっちゃ矛盾してるけど。
タバナに、そんなことさせたくない。
「タバナ、お退きなさい!」
乱暴だけど私は、力を加減して私をかばってた2人を、ふっ飛ばした。
ドォン! と地面が揺れて、土煙が舞う。直接は当ててない。2人に衝撃はなかったはず。風を起こしたのだ。
恨み言は後から、いくらでも聞くよ。でも、この役目は譲れない。
オサを屠るのは、ミコの役目だ。
「今さら改心したって遅いし、そんなのタバナにやらせる訳ないでしょ!」
もう一度、今度は手加減しない。
バッと両手を広げ、オサに向けた。
ありったけの力を、オサに。
「!」
オサがギュッと目を閉じる。走り寄り、その腕を掴み、力を流し込む。ヒタオにした時以来の大技だ。
破れた皮膚を閉じるために、血の流れを追って白血球を増幅させて、かさぶたを作って、繊維を縫って。
「ミコ様!」
タバナの悲鳴が耳をつんざく。
「そう簡単に死なせやしないわよ、まだ訊きたいことあるんだから、それからにしてくれない?」
「み、ミコ様……?!」
オサも目を見開いて、私の行動に驚いている。まぁそうでしょうね。殺されると思ったでしょうけど、残念ながら平和主義日本人なんで、どんなに大嫌いで死んで欲しくても、自分の手を汚す覚悟なんてないもん、後味悪いし。
かと言ってタバナに殺させるとか、その方が嫌だ。
オサとタバナの因縁も思い出しちゃったし。
このタイミングで思い出すとか。
ホントどんな記憶力してんのよ、カラナ。
オサが、ヒタオの父親だってこと。
でもってヒタオが死んだのが私のせい、私が殺したんだと錯覚させられてたら、そりゃお父ちゃんとしてはミコ様だろうが殺すよね。
その前からも、ずっと疑われてた訳だし。
ヒタオが私に仕えてたから様子を見てたけど、ヒタオが死んだから、ミコ様を殺さねばってなったのは、とってもよく分かる理屈だ。しかも戦争するとか言っちゃってたし、私。
ナコクとの取り引きもあったけど、クニを明け渡すつもりはなかった。あくまで対等に話し合い、双方の利益が出る提案をしていたのだ。
……っていう、この思考は誰のもの?
オサ? エセオサ? え、私のじゃない考えが頭に浮かんでる?! カラナでもない。待って、記憶がカオスだ!
『良かった、ギリギリ間に合ったね』
いや、死ぬじゃん!
「オサ?!」
駆け寄ろうとして、タバナに身体を捕まれた。
「ミコ様、危険です! 今のオサはオサじゃない」
あ、タバナにも見えるんだった。
「なおさら、よく見なさい! 今のオサは、オサです!」
そうなのだ。
自害しようとしたオサは、エセオサじゃない。オサだ。
「どうして……」
言葉に詰まった私に、オサが笑いかける。いつもの嫌味ったらしい作り笑いじゃない、気持ち良い笑い方だ。
なんだ、あんた、そんな笑い方も出来るんじゃん……って冗談言いたくなるほどの。
口から血を吐いたりしてなきゃ。
「よもや宿敵が我が内に入り込むなどという好機を、逃すわけに参りませんでしたので」
そう言った時のオサは、また少し嫌味っぽい顔になった。
宿敵? え、分かんない、敵は私じゃなかったの? あんなにも殺そうとしてたじゃん。
「何を言ってるの」
「ミコ様には今まで、ずっと申し訳ないことをして参りました」
そう言ってうなだれるオサが、膝をついて崩れ落ちる。平伏したっていうより、倒れ込んだ感じだ。ヤバいってホントに死ぬって!
「オサ」
「さわるな!」
支えたくて、オサの腕を掴みかけたら拒否られた。そんでもって、タバナにも腕を引かれて一歩離れさせられた。
「近づいてはなりません。まだ、オサの身のうちに、あやつが在ります」
エセオサ。
接触したらヤバいのかな。多分ヤバいよな。
でも、もうオサの意識を乗っ取ることも出来ないみたい。力が弱まってるのを感じる。って油断してたらダメなんだろうけど。
タバナ、トサが私の前に立ち、守ってくれている。近付くでもなく、とはいえ遠ざかる訳にも行かず、オサの出方をうかがってる状態だ。
「タバナよ」
オサの呼びかけは力なく、咳き込んでて息も絶え絶えだ。憎しみや恨みを感じる呼び方じゃない。とても優しい声。
あまり顔色を変えない……というか髭で表情が分かりにくいんだけど、そんなタバナが、うろたえてるのが分かる。なんか、泣きそうな顔なのだ。
「お前が正しかった……私に、とどめをくれ」
「な……!」
私が暴れかけるのを押さえるタバナが、小さく頷いた。
いや待ってホントに意味わかんないから! 何でタバナに頼むんだよ、オサ!
「トサよ、ミコ様を」
タバナが私を、トサに向けて押す。トサが手を伸ばして「失礼します」と私を掴もうとする、それを振り払った。
「ミコ様!」
分かる。分かるよ、やろうとしてることは。
オサの中のヤツが、最後の力を振り絞ろうとしてる気配は、私だって読めてる。そいつが暴れ出さないうちに、オサごと斬ろうってんでしょ。
でも、それを頼むのはタバナじゃないでしょ!
いや、タバナしか頼む人いないんだとも分かるけど!
我ながら、めっちゃ矛盾してるけど。
タバナに、そんなことさせたくない。
「タバナ、お退きなさい!」
乱暴だけど私は、力を加減して私をかばってた2人を、ふっ飛ばした。
ドォン! と地面が揺れて、土煙が舞う。直接は当ててない。2人に衝撃はなかったはず。風を起こしたのだ。
恨み言は後から、いくらでも聞くよ。でも、この役目は譲れない。
オサを屠るのは、ミコの役目だ。
「今さら改心したって遅いし、そんなのタバナにやらせる訳ないでしょ!」
もう一度、今度は手加減しない。
バッと両手を広げ、オサに向けた。
ありったけの力を、オサに。
「!」
オサがギュッと目を閉じる。走り寄り、その腕を掴み、力を流し込む。ヒタオにした時以来の大技だ。
破れた皮膚を閉じるために、血の流れを追って白血球を増幅させて、かさぶたを作って、繊維を縫って。
「ミコ様!」
タバナの悲鳴が耳をつんざく。
「そう簡単に死なせやしないわよ、まだ訊きたいことあるんだから、それからにしてくれない?」
「み、ミコ様……?!」
オサも目を見開いて、私の行動に驚いている。まぁそうでしょうね。殺されると思ったでしょうけど、残念ながら平和主義日本人なんで、どんなに大嫌いで死んで欲しくても、自分の手を汚す覚悟なんてないもん、後味悪いし。
かと言ってタバナに殺させるとか、その方が嫌だ。
オサとタバナの因縁も思い出しちゃったし。
このタイミングで思い出すとか。
ホントどんな記憶力してんのよ、カラナ。
オサが、ヒタオの父親だってこと。
でもってヒタオが死んだのが私のせい、私が殺したんだと錯覚させられてたら、そりゃお父ちゃんとしてはミコ様だろうが殺すよね。
その前からも、ずっと疑われてた訳だし。
ヒタオが私に仕えてたから様子を見てたけど、ヒタオが死んだから、ミコ様を殺さねばってなったのは、とってもよく分かる理屈だ。しかも戦争するとか言っちゃってたし、私。
ナコクとの取り引きもあったけど、クニを明け渡すつもりはなかった。あくまで対等に話し合い、双方の利益が出る提案をしていたのだ。
……っていう、この思考は誰のもの?
オサ? エセオサ? え、私のじゃない考えが頭に浮かんでる?! カラナでもない。待って、記憶がカオスだ!
『良かった、ギリギリ間に合ったね』
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