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「手当をするものを一式、いただけませんか?」
パルミラが何もない空間に声をかけると、あっという間に、清潔な布と、綺麗な水の入ったおけと、それから細布、軟膏、固形の脂が現れる。
場所はパルミラの部屋だ。
そこで、彼女はイオの包帯を取り替える事にしたのだ。
彼女が頑として譲らなかった結果、イオは大人しくついてきていてる。
「包帯を替えますよ」
「ああ」
包帯を替えるために、ゆっくりと外していくと、傷の化膿した具合は、昨日よりはましなものになっていた。
少なくとも、熱を持っていないし、てらてらとした不気味な艶もない。
しかし膿んでいる事は確かなようなので、パルミラは声をかけた。
「また今日は、膿を出し切りますよ」
「さっさとやってくれ」
「あと、そのために翼を引っ込められませんか?」
「やすいことだ」
イオがそう言うと、翼は光の粉のように消える。これで、翼に引っかかる事なく、膿を出せそうだ。
パルミラはそのまま、ぐっと力を込めて、傷を押した。
どろどろとした、黄緑色の、明らかに体に悪そうな膿が、こぼれだしてくる。
それは信じられないほどの臭気を伴っていた物の、パルミラは顔色を変えず、最後まで、膿が出て来なくなるまで、傷を押し続けた。
そして膿をぬぐい、綺麗な水に浸した布で体をふき、傷に軟膏を塗ってから、脂をぬり、布をあてがい包帯を巻く。
「……どうしてそんなに手慣れているんだ、足を見るに、いいところのお嬢さんだったんだろうに」
「乙女の学校で習いましたの。旦那様の手当をするのも、妻の役割という事で」
「そうか」
「一生使い道がないかと思いましたが、こうしてあなたの手当が出来るので、役に立ってよかったと思いますのよ」
パルミラが素直に言うと、イオは何がおかしかったのか、くつくつと笑った。
「それは複雑だろうな」
「ほかにもいくつか、役に立たない技術を学びましたよ、殿方を誘惑する方法とかも」
「面白そうだな、それは」
「ええ、毒草を使って、瞳孔を開き気味にして、魅力的な瞳に見せるのです。聞いた時は恐ろしいと思いましたよ、絶対に使う物かって思いました」
「瞳孔を大きくすると魅力的なのか?」
「吸い込まれそうな瞳にするためだそうです、よく分かりませんけれど」
「乙女の学校というのは、なかなかおっかないんだな……」
しみじみというイオである。手当は流れるようにうまく進み、最後きちんと包帯を巻いた後に、パルミラは問いかけた。
「イオ、この城は、来客に夢を見せる城なのですか?」
「何故そんな事を聞くんだ?」
「不思議な夢を見た物ですから」
「……」
イオは腕を組んで考え込む。そして言った。
「この城には、おれの魔力が満ちている。それが何か影響するかもしれないが、不思議な夢をあえて見せる城ではない」
「そうでしたか」
その時だ。情けない事に、パルミラの腹の蟲が、ぐうぐうとなった。
彼女はぱっと赤面したが、イオは音を聞き、柔らかく笑った。
「ちゃんと食欲がわくというのは、いい事だ」
温かい食べ物を所望すると、台所は瞬く間に動き出した。まるで命じられる事を、今か今かと待ちわびていたような速さだった。
焼かれる干し肉、それから乾燥した果物がくつくつと煮込まれて、ソースになるのだろう。
肉に甘い果実のソースをかける事は、おかしな話ではないのだ。
こう言った食文化は、人間とさほど変わらないのだろうか。
パルミラはそんな事を考えて、イオを見て問いかけた。
「あなたの暮らしていた国も、お肉に果物のソースをかけたのですか?」
「果実がよくとれる時期に、たくさん集めてジャムやジュレにしたのを知っている。その時期になると甘いパイもよく食べたな。その後は、肉の臭みを消すために、そう言ったソースが添えられる事も多かった。どうしてそんな事を聞くんだ」
「あなたの暮らしていた国に興味がわいたのです、イオが人ではない事は、あの翼でよく分かりました、でもイオは野蛮でも何でもない、礼儀正しい、よい紳士です。親切な方の暮らしていた場所に、興味がわくのはそんなにもおかしい事でしょうか?」
「おかしいとは思わない、ただ藪から棒に、といった感じだったからな、聞いてみたのだ」
イオはそう言って、それからふと自分の体勢に気が付いたらしい。
「重いだろう、俺は気付けばもたれかかっていた」
「いいえ、そんなに重くはありませんわ」
そう、イオは少しだけ、パルミラに寄りかかっていたのだ。
その体勢で二人は、料理が出来上がるのを待っていたのである。
イオは自分が彼女よりもずいぶんと体格がいい事に気づいたらしく、そっと体を離す。
「それに、私は、病人に無理をさせる事はしませんし、怪我人がもたれかかっているのを嫌がる事はありませんので」
パルミラが穏やかにそんな事を言った物だから、イオは目を丸くし、その煌々と明るい赤い瞳の中の炎を揺らした。
言われた事に驚いたらしい。
「……重いから邪魔だとか、そんな事は考えないのか」
「そうなる前に、一声かけて、体勢を変えていただきますよ、そうだとしたら」
「……やはりお前は変な人間だ、パルミラ」
「ふふふ、変な人間であっても、イオに危害は加えませんので、大目に見てくださいな」
彼女の言葉に、彼は目を瞬かせた後、ふっと息を吐きだして笑った。
「パルミラは優しいな」
彼等がそんな会話をしている間に、干し肉は香ばしく焼きあがり、果物のソースが足らりとかけられた一品が出来上がり、簡単な発酵しないパンと、スープが出来上がっていた。
パルミラが何もない空間に声をかけると、あっという間に、清潔な布と、綺麗な水の入ったおけと、それから細布、軟膏、固形の脂が現れる。
場所はパルミラの部屋だ。
そこで、彼女はイオの包帯を取り替える事にしたのだ。
彼女が頑として譲らなかった結果、イオは大人しくついてきていてる。
「包帯を替えますよ」
「ああ」
包帯を替えるために、ゆっくりと外していくと、傷の化膿した具合は、昨日よりはましなものになっていた。
少なくとも、熱を持っていないし、てらてらとした不気味な艶もない。
しかし膿んでいる事は確かなようなので、パルミラは声をかけた。
「また今日は、膿を出し切りますよ」
「さっさとやってくれ」
「あと、そのために翼を引っ込められませんか?」
「やすいことだ」
イオがそう言うと、翼は光の粉のように消える。これで、翼に引っかかる事なく、膿を出せそうだ。
パルミラはそのまま、ぐっと力を込めて、傷を押した。
どろどろとした、黄緑色の、明らかに体に悪そうな膿が、こぼれだしてくる。
それは信じられないほどの臭気を伴っていた物の、パルミラは顔色を変えず、最後まで、膿が出て来なくなるまで、傷を押し続けた。
そして膿をぬぐい、綺麗な水に浸した布で体をふき、傷に軟膏を塗ってから、脂をぬり、布をあてがい包帯を巻く。
「……どうしてそんなに手慣れているんだ、足を見るに、いいところのお嬢さんだったんだろうに」
「乙女の学校で習いましたの。旦那様の手当をするのも、妻の役割という事で」
「そうか」
「一生使い道がないかと思いましたが、こうしてあなたの手当が出来るので、役に立ってよかったと思いますのよ」
パルミラが素直に言うと、イオは何がおかしかったのか、くつくつと笑った。
「それは複雑だろうな」
「ほかにもいくつか、役に立たない技術を学びましたよ、殿方を誘惑する方法とかも」
「面白そうだな、それは」
「ええ、毒草を使って、瞳孔を開き気味にして、魅力的な瞳に見せるのです。聞いた時は恐ろしいと思いましたよ、絶対に使う物かって思いました」
「瞳孔を大きくすると魅力的なのか?」
「吸い込まれそうな瞳にするためだそうです、よく分かりませんけれど」
「乙女の学校というのは、なかなかおっかないんだな……」
しみじみというイオである。手当は流れるようにうまく進み、最後きちんと包帯を巻いた後に、パルミラは問いかけた。
「イオ、この城は、来客に夢を見せる城なのですか?」
「何故そんな事を聞くんだ?」
「不思議な夢を見た物ですから」
「……」
イオは腕を組んで考え込む。そして言った。
「この城には、おれの魔力が満ちている。それが何か影響するかもしれないが、不思議な夢をあえて見せる城ではない」
「そうでしたか」
その時だ。情けない事に、パルミラの腹の蟲が、ぐうぐうとなった。
彼女はぱっと赤面したが、イオは音を聞き、柔らかく笑った。
「ちゃんと食欲がわくというのは、いい事だ」
温かい食べ物を所望すると、台所は瞬く間に動き出した。まるで命じられる事を、今か今かと待ちわびていたような速さだった。
焼かれる干し肉、それから乾燥した果物がくつくつと煮込まれて、ソースになるのだろう。
肉に甘い果実のソースをかける事は、おかしな話ではないのだ。
こう言った食文化は、人間とさほど変わらないのだろうか。
パルミラはそんな事を考えて、イオを見て問いかけた。
「あなたの暮らしていた国も、お肉に果物のソースをかけたのですか?」
「果実がよくとれる時期に、たくさん集めてジャムやジュレにしたのを知っている。その時期になると甘いパイもよく食べたな。その後は、肉の臭みを消すために、そう言ったソースが添えられる事も多かった。どうしてそんな事を聞くんだ」
「あなたの暮らしていた国に興味がわいたのです、イオが人ではない事は、あの翼でよく分かりました、でもイオは野蛮でも何でもない、礼儀正しい、よい紳士です。親切な方の暮らしていた場所に、興味がわくのはそんなにもおかしい事でしょうか?」
「おかしいとは思わない、ただ藪から棒に、といった感じだったからな、聞いてみたのだ」
イオはそう言って、それからふと自分の体勢に気が付いたらしい。
「重いだろう、俺は気付けばもたれかかっていた」
「いいえ、そんなに重くはありませんわ」
そう、イオは少しだけ、パルミラに寄りかかっていたのだ。
その体勢で二人は、料理が出来上がるのを待っていたのである。
イオは自分が彼女よりもずいぶんと体格がいい事に気づいたらしく、そっと体を離す。
「それに、私は、病人に無理をさせる事はしませんし、怪我人がもたれかかっているのを嫌がる事はありませんので」
パルミラが穏やかにそんな事を言った物だから、イオは目を丸くし、その煌々と明るい赤い瞳の中の炎を揺らした。
言われた事に驚いたらしい。
「……重いから邪魔だとか、そんな事は考えないのか」
「そうなる前に、一声かけて、体勢を変えていただきますよ、そうだとしたら」
「……やはりお前は変な人間だ、パルミラ」
「ふふふ、変な人間であっても、イオに危害は加えませんので、大目に見てくださいな」
彼女の言葉に、彼は目を瞬かせた後、ふっと息を吐きだして笑った。
「パルミラは優しいな」
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