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ブーツは迷いなく進んでいき、彼女はその後を追いかけて、はっとした。
ある事に気が付いたのだ。
「この道はそうだわ、あの屋上の庭園に続く道……」
うろ覚えの道であったが、彼女は見覚えのある場所をあちこち進んでいくブーツを追いかけながら、最初に誰か人がいないか、と血の跡を追いかけていた時に、進んだ道と、ブーツの進む道がほぼ同じだという事に気が付いた。
「イオは庭園を進んだ先の、別の棟にいたのかしら」
それならば納得だ。彼女はこの城の全貌は知らないものの、城が別の棟を持っている事は何もおかしな事ではない。
そしてこれだけ作り込まれた城ならば、そういった別の棟がある事も納得がいく。
彼女はブーツに導かれるままに進んでいき、そうして、この前たどり着いた、あの庭園の前に立った。
風が吹き抜けていくし、彼女に吹き付けて行く。冷たい風は体の芯から冷えていきそうで、一度身震いした後、パルミラはブーツが後を追いかけてくれ、と言いたげに待っているので、意を決して、その後を追いかけ始めた。
ブーツは迷いなく進んでいく。やはりイオのブーツというだけあって、主の場所くらいは簡単に分かるのだろう。
それとも、イオが、いつもここにいるからだろうか。
そんな事を考えながらも、パルミラは進んでいく。
周りを見回すと、庭園の木々は緑の葉っぱをつやつやとさせていて、聖なる森の、病んだ木地とは大違いだ。
これはどういう事だろう。
病んだ森と同じ空気を吸っているはずなのに、こんなにも違うなんて。
土が違うから? 手入れをされているから? 何か魔法の力が働いているから?
考えるどれもが、正解のようで、不正解のようで、何とも言い難い気分だ。
花こそまだ咲いていないものの、春が来たらきっとこの庭園は、見事なまでに花にあふれた、見事な場所になるのだろう。
庭園の手入れのされ方から、それがうかがえる気がした。
でも、一体誰が選定などを行っているのだろう、それも魔法の力?
だとしたら、魔法の力は、どれだけ人間の考える物を超えているのだろうか……
そんな事を思いながら、パルミラが進んでいくと、庭園の中の、一つのあずまやの前についた。
「イオ……?」
あずまやの中に、探していたイオがいた。パルミラは、イオが、ずっと、自分は彼女とは違う、という趣旨の事を言っていた意味を、そこで理解した。
翼だ。
あずまやの中にある、シェーズロングソファだろうか、そんな感じの椅子に寝転がる彼の背中から、漆黒の、闇より黒く、星明りがそこで煌いている、摩訶不思議な、鳥のそれによく似た物が、広がっていたのだ。
「まあ……」
魔のものだというのだろうか。イオが。
魔物だったのだろうか、それとも魔王の国の住人だったのだろうか。
しかし……
「なんてきれい……」
少しばかりずれているかもしれないが、パルミラは、広がるその翼を、純粋に美しい羽根だ、と思ったのだ。
その羽は、彼女の知っているどんな烏よりも美しい。カラスに例えるのは失礼だが、他に黒い鳥を知らないので、許してもらおう。
「……ここまで来てどうしたんだ、何か足りないものがあったのか」
パルミラのつぶやきが聞こえたのだろうか。
寝転がっていたイオの瞳が開き、彼の瞳が開くと同時に、彼の額に不思議な模様が浮かび上がる。
目覚めにあわせて展開したその模様は、彼の色の黒い肌の上で、白く輝いていた。
「いいえ、イオが気になって。……イオ、だめですよ」
「何がだめだというんだ」
「こんな寒い所で、風に当たっていては。いくら私と違う、と主張していても、こんな場所では、癒えるものも癒えないでしょう」
「気に入りの場所だ、放っておけ」
「いいえ、放っておきません。私のために手当をしてくれるあなたが、自分には杜撰だというのも、許しがたく思います」
パルミラはそのため、傷が痛まないように慎重に近寄り、彼の手を取った。
そこで気が付いたのだが、彼の手の爪は漆黒に染まり、鋭く尖っている。
しかし、恐ろしい物ならもっとたくさん知っている彼女は、それにひるまなかった。
「お城の中に、あなたのお部屋もちゃんとあるのでしょう? それに包帯だって取り換えなければならないでしょう」
「あれが抜けた以上、別に気にする必要もないんだが」
「まあ、傷という物を甘く見てはいけませんよ」
パルミラはしっかりとした口調で言った。彼の目が丸くなる。
「あなたは私の命の恩人です。ええ、誰が何とおっしゃってもその事実は消え去りません」
「パルミラが主張するならそうなんだろう」
「ですから、あなたの傷が治るまで、私も、あなたの手当をするのです」
「……」
「それに、いくら気に入りの場所でも、大怪我をしている時に、傷の直りが遅くなる場所にいてはなりません」
「……パルミラはおれの母君なのか?」
「茶化さないでくださいな、大真面目ですよ」
彼女が譲らないからだろう。イオは不意に柔らかく笑い、そこから億劫そうに立ち上がる。
そして……自分が羽を広げていた事に、気付いたらしい。
彼はあからさまな程ぎょっとして、自分の羽根と、パルミラの表情を見比べ、信じ難いと言いたげに問いかけてきた。
「おれのこれが、醜くないのか」
「その見た目の事ですか、美しい羽根だと思います。それに、醜い、とはどういった意味でしょう。私は、綺麗に飾った醜いものを知っています。だから分かります、イオがきれいだという事が」
言い切ったパルミラを見て、イオが口を開く。
「変な女だな、最初からそうだった」
ある事に気が付いたのだ。
「この道はそうだわ、あの屋上の庭園に続く道……」
うろ覚えの道であったが、彼女は見覚えのある場所をあちこち進んでいくブーツを追いかけながら、最初に誰か人がいないか、と血の跡を追いかけていた時に、進んだ道と、ブーツの進む道がほぼ同じだという事に気が付いた。
「イオは庭園を進んだ先の、別の棟にいたのかしら」
それならば納得だ。彼女はこの城の全貌は知らないものの、城が別の棟を持っている事は何もおかしな事ではない。
そしてこれだけ作り込まれた城ならば、そういった別の棟がある事も納得がいく。
彼女はブーツに導かれるままに進んでいき、そうして、この前たどり着いた、あの庭園の前に立った。
風が吹き抜けていくし、彼女に吹き付けて行く。冷たい風は体の芯から冷えていきそうで、一度身震いした後、パルミラはブーツが後を追いかけてくれ、と言いたげに待っているので、意を決して、その後を追いかけ始めた。
ブーツは迷いなく進んでいく。やはりイオのブーツというだけあって、主の場所くらいは簡単に分かるのだろう。
それとも、イオが、いつもここにいるからだろうか。
そんな事を考えながらも、パルミラは進んでいく。
周りを見回すと、庭園の木々は緑の葉っぱをつやつやとさせていて、聖なる森の、病んだ木地とは大違いだ。
これはどういう事だろう。
病んだ森と同じ空気を吸っているはずなのに、こんなにも違うなんて。
土が違うから? 手入れをされているから? 何か魔法の力が働いているから?
考えるどれもが、正解のようで、不正解のようで、何とも言い難い気分だ。
花こそまだ咲いていないものの、春が来たらきっとこの庭園は、見事なまでに花にあふれた、見事な場所になるのだろう。
庭園の手入れのされ方から、それがうかがえる気がした。
でも、一体誰が選定などを行っているのだろう、それも魔法の力?
だとしたら、魔法の力は、どれだけ人間の考える物を超えているのだろうか……
そんな事を思いながら、パルミラが進んでいくと、庭園の中の、一つのあずまやの前についた。
「イオ……?」
あずまやの中に、探していたイオがいた。パルミラは、イオが、ずっと、自分は彼女とは違う、という趣旨の事を言っていた意味を、そこで理解した。
翼だ。
あずまやの中にある、シェーズロングソファだろうか、そんな感じの椅子に寝転がる彼の背中から、漆黒の、闇より黒く、星明りがそこで煌いている、摩訶不思議な、鳥のそれによく似た物が、広がっていたのだ。
「まあ……」
魔のものだというのだろうか。イオが。
魔物だったのだろうか、それとも魔王の国の住人だったのだろうか。
しかし……
「なんてきれい……」
少しばかりずれているかもしれないが、パルミラは、広がるその翼を、純粋に美しい羽根だ、と思ったのだ。
その羽は、彼女の知っているどんな烏よりも美しい。カラスに例えるのは失礼だが、他に黒い鳥を知らないので、許してもらおう。
「……ここまで来てどうしたんだ、何か足りないものがあったのか」
パルミラのつぶやきが聞こえたのだろうか。
寝転がっていたイオの瞳が開き、彼の瞳が開くと同時に、彼の額に不思議な模様が浮かび上がる。
目覚めにあわせて展開したその模様は、彼の色の黒い肌の上で、白く輝いていた。
「いいえ、イオが気になって。……イオ、だめですよ」
「何がだめだというんだ」
「こんな寒い所で、風に当たっていては。いくら私と違う、と主張していても、こんな場所では、癒えるものも癒えないでしょう」
「気に入りの場所だ、放っておけ」
「いいえ、放っておきません。私のために手当をしてくれるあなたが、自分には杜撰だというのも、許しがたく思います」
パルミラはそのため、傷が痛まないように慎重に近寄り、彼の手を取った。
そこで気が付いたのだが、彼の手の爪は漆黒に染まり、鋭く尖っている。
しかし、恐ろしい物ならもっとたくさん知っている彼女は、それにひるまなかった。
「お城の中に、あなたのお部屋もちゃんとあるのでしょう? それに包帯だって取り換えなければならないでしょう」
「あれが抜けた以上、別に気にする必要もないんだが」
「まあ、傷という物を甘く見てはいけませんよ」
パルミラはしっかりとした口調で言った。彼の目が丸くなる。
「あなたは私の命の恩人です。ええ、誰が何とおっしゃってもその事実は消え去りません」
「パルミラが主張するならそうなんだろう」
「ですから、あなたの傷が治るまで、私も、あなたの手当をするのです」
「……」
「それに、いくら気に入りの場所でも、大怪我をしている時に、傷の直りが遅くなる場所にいてはなりません」
「……パルミラはおれの母君なのか?」
「茶化さないでくださいな、大真面目ですよ」
彼女が譲らないからだろう。イオは不意に柔らかく笑い、そこから億劫そうに立ち上がる。
そして……自分が羽を広げていた事に、気付いたらしい。
彼はあからさまな程ぎょっとして、自分の羽根と、パルミラの表情を見比べ、信じ難いと言いたげに問いかけてきた。
「おれのこれが、醜くないのか」
「その見た目の事ですか、美しい羽根だと思います。それに、醜い、とはどういった意味でしょう。私は、綺麗に飾った醜いものを知っています。だから分かります、イオがきれいだという事が」
言い切ったパルミラを見て、イオが口を開く。
「変な女だな、最初からそうだった」
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