朽ちる聖森 婚約者を喪い、役立たずと森に追い出された王妹は、前魔王の世話をやく

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「何で森に入れって言ったんだ!!」

とある小さな村で、大人の男と女、夫婦だろうか、そんな事を感じさせる二人が、怒りのあまりぶるぶる震えながら、子供たちに怒鳴った。

「だって、あいつばっかり褒められて」

「あんな奴ばっかり皆すごいっていうから!」

「ずるいだろ!!」

子供たちは子供たちなりの屁理屈をこねるが、そんな物が、大人に通じるわけがなかった。
それも、命にかかわるような事を言ったのならば、なおさらだ。

「気に入らないからって……、魔物がいる森に一人で入って、水を汲めるわけがないだろう!!」

「なんでうちの子がそんな目に合わなくちゃいけないの!」

怒り狂っているのは、森に入った子供の両親のようだ。
彼等はとにかく、怒っていた。
それを見守る他の村人たちも、子供たちを庇えないでいる。
当たり前だろう。気に食わないからという理由で、間接的に人殺しをしている子供たちを、庇えば、そちらにも火の粉が降り注ぐのだから。
子供だから仕方がない、そんな事はさらさら言えない事を、子供たちはしでかしたのだ。
いじめでも問題だが、魔物が跋扈する危険な、魔物の国との境界線である、聖なる森に入れなんて……ましてどこに水源があるかもわからないのに、そこで水を汲んで来い、だなんて……
庇えないものである。

「だっておじさんたちの実の子供じゃないじゃないか! 拾った子供だって皆知ってる」

「拾った子供だろうが何だろうが、私たちの大事な息子なんだぞ!」

「あなたたちは、私たちの子供を殺したも同然なのよ!」

大人たちは、そんな風に怒り狂う夫婦をなだめられないでいる。
それはそうだ、自分たちの子供が同じ目に遭い、森に一人で入ったりしたら……おそろしい。
自分たちの子供が、そんな事を他の子供に強いた事も信じられなかった。
それも、大人に褒められて気に入らないから、なんて理由で。

「うちは近いうちに子供が生まれるから、何かとあの子が自分からお手伝いしてくれていただけなのに……」

「すまない、私たちも、立派な子だと思って褒めただけで……」

「ああ神様、どうかあの子が無事に帰ってきますように!!」

夫婦の妻の方が、ついに泣き出した時だ。

「おい、見たこともない大きな烏が、森からくるぞ!」

「金色の首飾りを下げている、とんでもない、きっと烏の王様だ!」

「いったい何があって……」

家の外が騒がしくなり、誰もが家の外に出た時だ。

「あ、とうちゃん、かあちゃん! ただいま!!」

一人の子供が、烏に導かれたように走ってきた。
あちこちどろだらけで、傷の手当の痕があった物の、子供はおおかた無事らしい。

「ああ、シャーニャ! よかった、よかった!!」

女性が走ってきた子供を抱きしめて泣き出す。本当に良かった、と何度も子供の体を撫でる。

「信じられない、聖なる森には魔物がいるはずだろう」

「でも、シャーニャよ!」

本物の子供か、と疑いのまなざしを向ける村人たちだが、少年の両親は間違いなく、うちの子供だと断言した。
そして安堵から泣きぬれている。
ぎゅっと抱きしめられた子供は、母親の腕の中で、こう言った。

「あのね、森の中にお城があって、そのお城にいた人たちが、家に帰してくれたんだ! あの烏は、そのお城にいた人の一人が、飼ってるんだって」

シャーニャと言われた子供は、そして薔薇の枝を見せた。

「この薔薇、魔法の薔薇で、魔物が近寄らなくなるんだって! 水の入った花瓶にさしておくと、季節には花も咲くんだって!」

「……確かに森の、病んだ木々とも草花とも違う、何か神々しい薔薇だが……」

「あなた、そんな事よりも、シャーニャが帰ってきたのよ!」

「そうだな、それが一番だな!」

男と女が、嬉しそうに子供を抱きしめる。居心地が悪そうな子供たちに、シャーニャは言った。

「僕ちゃんと、森に入ったぞ! もう仲間外れはやだからな!」

「怒ってないの」

「怒ってほしいなら怒るけど」

シャーニャはそう言って、家族に抱きしめられて、嬉しそうな顔をした。

「いまおれがここで怒って、何も解決しないでしょ」

「……ごめん! お前ばっかり褒められてて……むしゃくしゃして」

「ごめんなさい! 皆がシャーニャばっかりいい子だって言うから気に入らなくなって」

「本当に悪かった! 僕たちはとんでもない事をしてしまった!!」

子供たちが口々に謝るものだから、シャーニャはもう怒らない事にしたらしい。

「もういいよ。だっておれはちゃんと帰ってこられたもの!」

そう言って彼は、空を旋回する大烏に大きく手を振った。

「ありがとう、でっかい烏さん!!」

その大烏は言葉が分かるのか、かあかあと鳴いて、そして見事な動きで、森の奥の方に飛び去って行った。

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