異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!

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スナゴと腹をくくった狼

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そうして就任式が終わり、アシュレイもトリトンもこうして、巫子長の地位についた。
とはいう物の、巫子長になったから何か変わるのか、と言われても、二人とも基本的な姿勢は変わらない。
山の中を切り開いた村に暮らし、そこから都に出勤していく。

「毎日出勤とか面倒だな」

「普通巫子長は、都の宮中に、部屋を持っているものなんだ。そこで暮らしているから、こうして毎日山の中を歩いて出勤はしない」

「お前はそれも知ってんのに、村がいいのか」

「村がいいんだ、スナゴも、トリトン先輩もいる村が」

断言するアシュレイの瞳は曇りなき眼で、トリトンは肩をすくめる。
そんな彼は今でも、子供の姿を維持している。
それがトリトンの生き方なのだろう、と思うと、スナゴは大人の姿になってもいいんじゃないの、と言えない。
大人になったらトリトンは、スナゴを頭から食べてしまうらしいのだ。
妊娠させてしまう、とも言っていた。
つまりトリトンはそう言った感情の矢印を、スナゴに向けているという事で、村の皆がそれを知っていた事になるのだ。
せまい村で、プライバシーが筒抜けなのは通常運転である。
トリトンはあの大きな狼族の姿に着替えて、アシュレイも首白狸の姿に着替え直して、衣類を首に括りつけての出勤だ。

「行ってらっしゃい」

スナゴは子供たちと食べ物の調達があるのだ。
後、もしも柔らかい苔の群生地が見つかったら、そこから寝台に使う苔をとってきてほしい、とも皆に言われている。
そのためスナゴは、彼等を手を振って見送った。
いつも通りの日常がそこにはあって、スナゴはそこから何も変わらないものだと思っていたのだ。

「やる」

トリトンが、都の特産品扱いされている、上等な紙に文字を連ねて、スナゴに渡してこなければ、いつも通りの日常だったのだ。
そしてそれを開いたスナゴは、目を見張る。
彼女とて文字は読めるようになったので、その言葉がどういった意味を持っているのか知っていた。

「と、トリトン先輩っ……!?」

スナゴは彼を穴が開くほど見つめて、それから手紙を見て、半ば混乱した声で彼の名前を呼んだ。
トリトンは大真面目に、頷き、また言った。

「腹くくった。……一回目や二回目に、返事しなくっていいからな」

腹くくったとはどういう事なのか。
この手紙の意味は何なのか。
それ以上に、自分はアシュレイの婚約者ではなかったのか。
様々な疑問が頭を巡ったスナゴを見て、トリトンは複雑そうな、しかし真面目な顔で告げたのだ。

「ずっとお前に渡したかったものだ。……今ここで横っ面ひっぱたいたって怒らないぜ。スナゴはそれをする権利がある」

その手紙は、トリトンがスナゴにあてた、恋文だった。
短い歌で、相手への思いをつづる、しかしおおらかな、今まで暮らしていた地方でも時折見受けられた、それは求愛の手紙だったのだ。
いきなり、とかそんな風に思っていたのか、とか。
スナゴが混乱しているのが、トリトンはよくわかるのだろう。
だから渡しても、返事はいらないというのだ。

「お前がどんな選択を選んでも、俺はお前に無理強いはしない。お前が遠慮する必要もない。それが単なる事実だからな」

そう言って笑ったトリトンは、どんな気持ちなのだろう。
スナゴは手紙を抱えて、取りあえず家に戻った。
頭が大混乱してしまったからである。
そしてもう一つ、村には大きな驚きがもたらされた。
なんとアシュレイが、都の狗族と結婚すると発表されたのだ。
もしかしなくとも、トリトンの求婚は、都に存在が知られてしまったスナゴを、守るための手段だった。


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