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幕間
閑話1
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腐っていくような体。もう長いことは持ちこたえられないだろう。
荒技をやり続けている自覚はあった。
手足など、いうことを聞かなくなって久しい気がする。
遅効性の猛毒のように体を侵食していくまじない。
息もひどく匂うようになってきた。
このままでは、近いうちにこの肉体は使えなくなるだろう。
世界を呪って生きてきた。
なぜ自分だけ、と呪って生きてきた。
運命に支配され、他人の手によって人生を決めるしかなかったこの人生。
自分の人生が悪くないなど、何の冗談か。
「もう、限界が近いよ」
医者が言う。闇医者だ。気違いな治療ばかりしてきて、療院を追い出され、医師の資格を剥奪された医者。
しかし腕ばかりは尋常ではない。神業と言ってもいい腕をもつ。見立ても相当。
おまけに嘘はつかない。まあ、遠回しに言うこともあるが。
そんな医者は、こちらには率直なことしか言わない。
それだけ、猶予がないのだろう。
知っている。
「その体、長く見積もって一年。どうするのさ。その咒に満ちた体と同じだけの体を見つけられないのは知っているでしょう?」
睨み付ける。そんなものどうだっていい。
まだ、世界を呪い足りていない。
「君がそういうならいいけれどね? 気を付けな、猟犬どもが嗅ぎまわっている。僕もそろそろ移動だね」
「お得意の神霊の?」
「まあ、ね。この子は一流。呪うのも殺すのも、『生かす』のだって一級の力。僕の最高の相棒だよ」
手元の濁った色をした物体に唇を落として、医者が言う。
「覚えておきましょう」
「ねえ、僕の患者」
目の前の医者は、相手の名前を呼ばない。名前などどうでもいいらしい。
ただ、自分の患者と認識し、言うだけ。
「君のそれは、目覚めたら手に負えない。すでにもう、手に負えないほど膨れ上がりかけている。僕のこの子だって押さえこめない」
「……」
「それがどういう意味か、君はもうわかっているでしょう?」
「ええ」
「……本当に?」
「ええ、分かっています」
「君の事を思ってくれてる人達を、軒並み殺していくだろうね、それは」
それがいったい何だというのだろうか。
呪い続けた世界に生きている相手など、思うわけもないのに。
医者はどうしようもない時に浮かべる、そんな笑顔になった。
「君は本当に可哀想」
「同情なんて吐き気がする」
そっか、と医者が笑う。思い出したように言い始める。
「先日僕の方にも、猟犬どもが来てね。どうも最近、殺しを専門にする咒屋がいるらしい」
「咒はもともと、殺しの業では?」
「そうともいうね。僕みたいに癒しのために自分の体を食わせている奴なんて例外。やつら、僕が殺しに走ったと思ったらしくてね……ちょっと脅して遠ざけた。尻尾はつかませていないし、隠れ場も多少変えたしね。まあしばらくは静かだろうよ」
移動すると言っておきながら、言葉を変えるのは相手を転がすためか。
それとも、まだ猟犬どもの残滓があるのか。
「さあ、飲み薬を出してあげる。息はそれで誤魔化せるよ」
提示されるのは冗談ではない金額である。
それを支払う。
「お金持ちっていいよね」
きらきらと掬えるほどある金貨に手を突っ込み、音を楽しむ医者。
その不正規の療院を出ると、途端に道が消える。
なるほど、結界でもあの神霊にやらせたのだろう。
空を見上げる。
ああ、まばゆいほどの満月が二つ。星空は銀をばらまいたよう。
人に気づかれないように、そっと歩き出す。
荒技をやり続けている自覚はあった。
手足など、いうことを聞かなくなって久しい気がする。
遅効性の猛毒のように体を侵食していくまじない。
息もひどく匂うようになってきた。
このままでは、近いうちにこの肉体は使えなくなるだろう。
世界を呪って生きてきた。
なぜ自分だけ、と呪って生きてきた。
運命に支配され、他人の手によって人生を決めるしかなかったこの人生。
自分の人生が悪くないなど、何の冗談か。
「もう、限界が近いよ」
医者が言う。闇医者だ。気違いな治療ばかりしてきて、療院を追い出され、医師の資格を剥奪された医者。
しかし腕ばかりは尋常ではない。神業と言ってもいい腕をもつ。見立ても相当。
おまけに嘘はつかない。まあ、遠回しに言うこともあるが。
そんな医者は、こちらには率直なことしか言わない。
それだけ、猶予がないのだろう。
知っている。
「その体、長く見積もって一年。どうするのさ。その咒に満ちた体と同じだけの体を見つけられないのは知っているでしょう?」
睨み付ける。そんなものどうだっていい。
まだ、世界を呪い足りていない。
「君がそういうならいいけれどね? 気を付けな、猟犬どもが嗅ぎまわっている。僕もそろそろ移動だね」
「お得意の神霊の?」
「まあ、ね。この子は一流。呪うのも殺すのも、『生かす』のだって一級の力。僕の最高の相棒だよ」
手元の濁った色をした物体に唇を落として、医者が言う。
「覚えておきましょう」
「ねえ、僕の患者」
目の前の医者は、相手の名前を呼ばない。名前などどうでもいいらしい。
ただ、自分の患者と認識し、言うだけ。
「君のそれは、目覚めたら手に負えない。すでにもう、手に負えないほど膨れ上がりかけている。僕のこの子だって押さえこめない」
「……」
「それがどういう意味か、君はもうわかっているでしょう?」
「ええ」
「……本当に?」
「ええ、分かっています」
「君の事を思ってくれてる人達を、軒並み殺していくだろうね、それは」
それがいったい何だというのだろうか。
呪い続けた世界に生きている相手など、思うわけもないのに。
医者はどうしようもない時に浮かべる、そんな笑顔になった。
「君は本当に可哀想」
「同情なんて吐き気がする」
そっか、と医者が笑う。思い出したように言い始める。
「先日僕の方にも、猟犬どもが来てね。どうも最近、殺しを専門にする咒屋がいるらしい」
「咒はもともと、殺しの業では?」
「そうともいうね。僕みたいに癒しのために自分の体を食わせている奴なんて例外。やつら、僕が殺しに走ったと思ったらしくてね……ちょっと脅して遠ざけた。尻尾はつかませていないし、隠れ場も多少変えたしね。まあしばらくは静かだろうよ」
移動すると言っておきながら、言葉を変えるのは相手を転がすためか。
それとも、まだ猟犬どもの残滓があるのか。
「さあ、飲み薬を出してあげる。息はそれで誤魔化せるよ」
提示されるのは冗談ではない金額である。
それを支払う。
「お金持ちっていいよね」
きらきらと掬えるほどある金貨に手を突っ込み、音を楽しむ医者。
その不正規の療院を出ると、途端に道が消える。
なるほど、結界でもあの神霊にやらせたのだろう。
空を見上げる。
ああ、まばゆいほどの満月が二つ。星空は銀をばらまいたよう。
人に気づかれないように、そっと歩き出す。
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