71 / 104
幕間3
閑話3
しおりを挟む
アレは罪の子。
生まれてはいけなかった。
生まれても、すぐに死ぬべき定めだった。
生まれるべきではなかった。
彼女は苛立っている。同時に焦燥感に襲われている。
アレは罪の子。
何故始末されないのだ。機会はいくらでもあった。
なのにアレは今も息をしている。
それどころか……この中央世界を塗り替えかねない。
そんなはずがあるわけないのだ。
予言の子。
死ぬだろうと、言われてきた。
身体が弱く、毎日のように熱を出し、毒の入った食事を与えられ、足を失った。
そのまま死ねばよかったのだ。
そうすれば、罪は消えるはずだった。
七つまで生きられないだろうと、言われてきたのにしぶとく生き続けた。
十五を過ぎても、長くは生きられないはずだったのだ。
彼女は歯噛みする。
なぜ、なぜ。
今も生きている。
アレは罪の子。罪が具現した子供。
それともアレは、咎の姿をしているせいで、毒でも死なないのだろうか?
暗殺者を呼び寄せても、生き残るのだろうか?
彼女は思う。思い出す。
あの時、アレは死ぬはずだったのだ。証拠など何も残らず。完璧な形で死ぬはずだったのだ。
胸を撫で下ろせるはずだったのだ。
それなのに、邪魔が入った。
アレはまた生き延びた。
何度命を狙われても、何度命を削られかねないことが起きても、アレは生きている。
もう、いつ気付かれてもおかしくない。
アレが咎を背負い罪深き出自の子だと、気付かれる日も近いかもしれない。
それまでに、アレの息の根を止めなければならないのだ。
早く、早く、急いで、どうにか、なんとか、アレの命を刈り取らなければ。
破滅するのは彼女だった。
気付かれてはならない。
彼女が手を下したのだと、いうことも。
アレの出自も。
何もかもを。
誰にも気付かれないうちに、葬り去らなければならない。
死んでしまったものの出自はとやかく言われない。
アレがそれに気づく前に、アレがそれを知る前に。
アレはたとえ気付いても喋れはしないだろうと、彼女は予想していた。
しかしそれでも、彼女の立場は危うくなりかねない。
貴様に復讐をしてやる、と毒が融けたような呪いの声が、耳元に囁きかけるように聞こえた。
彼女は身震いした。冬の寒さの中に、得体のしれない寒さが混じった気がした。
「雇い主殿」
いつの間に現れたのか、雇っていた化け物が跪いている。
「アレの始末は。冬になるというのに。アレは生きている」
「もうしわけありません」
彼女は細工物の木箱を投げつけた。顔に当たる音がし、うめく声が続く。
「早くどうにかしてちょうだい」
「アレなる者の始末をするには、いささか都合が悪い状況です、警備も強固。あの土地にはあの土地独自の裁量が働きます」
「そんなのどうでもいいわ、私は十五年も命じて来たのですわよ。それをかなえられないお前たちが役立たずなだけですわよ!」
「申し訳ございません」
鼻から血を流して謝罪する声を聴いても、彼女の気分は上昇しない。
憎々しげに眺め、言う。
「早くなさい」
「……はい」
「あの時は最良のタイミングだったのに。あんな邪魔が入らなければ……」
「あれは想定外でした。あれですべてが終わるはずでした」
「そう言う想定外のことを想定して動くのがあなたたちの仕事でしょう!」
彼女は雇ったものを蹴りつけた。甘んじて受けるもの。
彼女は息を吸った。
「これから二年の期限を与えます。確実にアレを屠りなさい。私の手だと気づかれないように。アレの正体が知られる前に」
「はい」
彼女の土地に、古くから棲みつく影の者たちは、彼女には逆らえない。
頷き、姿を消した。
彼女は爪を噛んだ。
「忌々しい、呪われた子供だこと」
生まれてはいけなかった。
生まれても、すぐに死ぬべき定めだった。
生まれるべきではなかった。
彼女は苛立っている。同時に焦燥感に襲われている。
アレは罪の子。
何故始末されないのだ。機会はいくらでもあった。
なのにアレは今も息をしている。
それどころか……この中央世界を塗り替えかねない。
そんなはずがあるわけないのだ。
予言の子。
死ぬだろうと、言われてきた。
身体が弱く、毎日のように熱を出し、毒の入った食事を与えられ、足を失った。
そのまま死ねばよかったのだ。
そうすれば、罪は消えるはずだった。
七つまで生きられないだろうと、言われてきたのにしぶとく生き続けた。
十五を過ぎても、長くは生きられないはずだったのだ。
彼女は歯噛みする。
なぜ、なぜ。
今も生きている。
アレは罪の子。罪が具現した子供。
それともアレは、咎の姿をしているせいで、毒でも死なないのだろうか?
暗殺者を呼び寄せても、生き残るのだろうか?
彼女は思う。思い出す。
あの時、アレは死ぬはずだったのだ。証拠など何も残らず。完璧な形で死ぬはずだったのだ。
胸を撫で下ろせるはずだったのだ。
それなのに、邪魔が入った。
アレはまた生き延びた。
何度命を狙われても、何度命を削られかねないことが起きても、アレは生きている。
もう、いつ気付かれてもおかしくない。
アレが咎を背負い罪深き出自の子だと、気付かれる日も近いかもしれない。
それまでに、アレの息の根を止めなければならないのだ。
早く、早く、急いで、どうにか、なんとか、アレの命を刈り取らなければ。
破滅するのは彼女だった。
気付かれてはならない。
彼女が手を下したのだと、いうことも。
アレの出自も。
何もかもを。
誰にも気付かれないうちに、葬り去らなければならない。
死んでしまったものの出自はとやかく言われない。
アレがそれに気づく前に、アレがそれを知る前に。
アレはたとえ気付いても喋れはしないだろうと、彼女は予想していた。
しかしそれでも、彼女の立場は危うくなりかねない。
貴様に復讐をしてやる、と毒が融けたような呪いの声が、耳元に囁きかけるように聞こえた。
彼女は身震いした。冬の寒さの中に、得体のしれない寒さが混じった気がした。
「雇い主殿」
いつの間に現れたのか、雇っていた化け物が跪いている。
「アレの始末は。冬になるというのに。アレは生きている」
「もうしわけありません」
彼女は細工物の木箱を投げつけた。顔に当たる音がし、うめく声が続く。
「早くどうにかしてちょうだい」
「アレなる者の始末をするには、いささか都合が悪い状況です、警備も強固。あの土地にはあの土地独自の裁量が働きます」
「そんなのどうでもいいわ、私は十五年も命じて来たのですわよ。それをかなえられないお前たちが役立たずなだけですわよ!」
「申し訳ございません」
鼻から血を流して謝罪する声を聴いても、彼女の気分は上昇しない。
憎々しげに眺め、言う。
「早くなさい」
「……はい」
「あの時は最良のタイミングだったのに。あんな邪魔が入らなければ……」
「あれは想定外でした。あれですべてが終わるはずでした」
「そう言う想定外のことを想定して動くのがあなたたちの仕事でしょう!」
彼女は雇ったものを蹴りつけた。甘んじて受けるもの。
彼女は息を吸った。
「これから二年の期限を与えます。確実にアレを屠りなさい。私の手だと気づかれないように。アレの正体が知られる前に」
「はい」
彼女の土地に、古くから棲みつく影の者たちは、彼女には逆らえない。
頷き、姿を消した。
彼女は爪を噛んだ。
「忌々しい、呪われた子供だこと」
22
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。