死にかけて全部思い出しました!!

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幕間5

閑話5

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体が動かない。それは敗北を意味していた。
この己が。このおのれが、膝を付いている。
それどころか地べたにはいつくばっている。
何故だ。
水の中ならば誰にも負けない己がなぜここで負けているのかは明白だった。
ここはあまりにも水が遠い。ごうごう風の吹きすさぶ土地。
あまりにも分が悪い場所だった。
己の力を過信しなければよかった。雨雲を呼び寄せれば決着の結果も違っただろう。
風に髪を躍らせている風使いを、地面にはいつくばって見た。
悲しい目をした風使いだった。
他者の感情に左右されない己でも、その目は悲しげだとわかる目をしていた。
風使いは首から玉を下げていた。それは光に目を細めている。
そしてそれは鮮やかな七色に輝いていた。
何かなどすぐにわかった。
だがそれより問題なのは。
足に突き立てられた剣だ。これが体の力を急速に奪い、立つ事を許さない。
己の力では抜けないらしい。それどころか触る事もままならない。
体は言う事を聞かない。何もできない無力感が思考に生まれる。
風使いは倒れる相手に手を伸ばす。そして担ぎ上げた。
「殺しはしない、いいえできない」
言葉は静かな物だった。この歳の生き物の発する声にしては老成した声だった。
全てをあきらめた声でもあった。
「不死のあなたは。何度でも生まれ変わるあなたは殺せない」
軽々と己を担ぎ上げた体は小さく、か細く弱々しい。
「……望みは何だ」
その体があまりにも頼りなげだったから、問いかけたのだ。
何故望みを聞いたのかはいまだにわからない。
強いていうのなら気まぐれだった。たとえ地べたに這いつくばろうとも、人ではない己はそう問いかける事が出来た。
「望み?」
担ぎながらどこへ歩くというのだろう。風に乗り宙を歩き、相手が不思議そうに言う。
「聞いてどうすると」
「叶えられる事ならば叶えてやろうと思った」
「そう」
そのまま沈黙が流れるかに思われた。相手の心境など己はどうでもいい。
「望み。……では一つ」
どれだけ黙ったかなどわからない。ただ相手が話す気になったのは伝わって来た。
「終わらせたいんだ」
何をかなど、問いかけずともわかる。それが分からない己ではなかった。
矮小な身の上の相手の心など簡単に読み取れる。
「終わらせたいんだ、誰か終わらせて」
風使いの言葉は弱々しく、風使いが疲れ果てている事も同時に悟らせる声だった。
「そうか。では歌を」
「歌?」
「この歌を歌えば、全てを終わらせることができよう。破滅の歌だ。歌えるかどうかはその身が人をどれだけ捨てられるかで変わる」
己はそれを知っていた。世界を壊す歌を、破滅を呼ぶ歌を知っていた。
「歌いきれるかは己次第。曇りなき意思だけがそれを示す。教えられるのはそれだけだろう」
言いながらも、この相手はそれを恐れもしないで歌いきるだろうという事が分かっていた。
そしてそれのために、再び自分が手を出すことになる事も。
「歌で全てを終わらせられるならば。どうか教えて」
「では耳に唄を吹き込もう」
己は相手の耳に歌を込めた息を吹きかける。
風使いはしばし黙り、呟いた。
「歌が聞こえる」
「それが破滅の歌だ。好きに使えばいい」
風使いはその歌の力に圧倒されているようだった。手が緩み、己の体を取り落とす。
空を落ち、己は一つの湖に落ちて行った。
水底に沈みながら、己は自分に突き刺さる剣を抜いてもらっていない事を思い出した。
だが。
時が来ればこの剣も抜けると予知の力で分かった。水に触れた途端、己の力は甦る。
しかしそれでも剣は己では抜けない。剣の力は絶大だ。
おそらく神代の力を宿した剣なのだろう。厄介な物を持っていたものだ。
それでもこの剣は長い間この場所から出て行かない。時が来るまでは。
己は水底から水の力で世界を見る。
「さてはて、一生など儚い」
あの風使いは歌を使い、そして命を散らすだろう。
それも予見できた。
そしてその後の世界も。あの風使いが壊したかったものがもたらす波乱も。
全て見えていた。



それは、神代から血をつなげ記憶をつなげて来た、神に等しい物だったのだから。


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