勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第四章~

第23話 ござるは二度死ぬ。

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(勝負なんてどうでもいいよ……)

心底そう思っている太郎だったが、目の前にいる最強の剣士・江頭との真剣勝負は避けられない。
お互いに睨み合って、呼吸を殺し間合いをとっている。(ように見えるが、太郎は単に攻撃のタイミングが分からないだけである。)

「くっ、よくも拙者との試合を放棄して……」

一方先程窓から投げ出された侍野郎は、全身血まみれになって外から這い上がってきた。
ボロボロになりながらもしぶとい男である。

「あんた大概丈夫だな」

安倍も思わずそう言う程に。

「許さないでござる……」

侍野郎はズルズルと這いつくばりながら太郎と江頭の元へ近寄った。

「だから邪魔すんなって」

安倍が止めるのも聞きやしない。

(仕方ねえ、俺が止めてやっか)

「あっ、天才子役の足田生アシダナマちゃんがロケしてる!」

安倍は窓の外を指差した。

「えっ、どこどこ!?」

侍野郎は思わず窓の外を見る。時代錯誤な風貌の割に、結構ミーハーだなお前。
そして間髪入れず、侍野郎は窓の外に突き落とされた。グッバイ、ござるマン。

さて、太郎と江頭はと言うと、未だに間合いを取っている。全然進まねーなこの勝負。

「だ……だからよそ者の勇者より拙者と……」

またもや血まみれになって這い上がってきた侍野郎。あんたの生命力はプラナリアかね。

「あっ、セクシータレントの餡蜜アンミツがグラビア撮影してる!」

「えっ?どこどこ!?」

再び侍野郎は窓の外に突き落とされた。グッバイ、ござるマン。

さて、いい加減進んでほしいこの勝負。ようやくタイミングを掴んだのか、江頭が太郎に切りかかった。

「行くぜ!」

「待って!って言っても来るんだよね」

太郎は反射的に剣を持ち上げる。反撃のつもりではない。ただ相手の攻撃から身を守ろうとした、咄嗟の行動である。
すると太郎は、フラフラとバランスを崩し、予想もせぬ方向へ体を逸らしてしまった。
持ち慣れない重さの剣を持っているせいで、真っ直ぐ立てないのである。

(こいつ、トリッキーな動きでかわしやがった……!)

本気の攻撃をフニャフニャの動きでかわされた江頭は、そのトリッキーな回避テクニックに驚いているようだ。

(あ~も~、剣重すぎ)

太郎は太郎でこの調子。

「お前、避けないで俺の攻撃を受けてみたらどうだ?」

攻撃をかわされて、江頭は少々ご立腹のようである。

「やだよそんなの、危ないじゃん」

危ないじゃんって……。

江頭は再び剣を向けた。素早い動きで、油断だらけの太郎を攻撃する。
しかし例によって、また太郎はふにゃ~っとした動きで剣をかわすのである。
あ~剣が重~い、という感じで。

「避けんじゃねーよ、だからよっ!」

「ごめーん、体が勝手に」

始まらない、全然勝負が始まらない。とうとう江頭は、(いや、結構前からか?)太郎にキレた。

「お前!人の攻撃を変な動きで避けやがってー!フラフラクネクネしてんじゃねーよ!おちょくってんのか!?」

「わーん、すみません!」

(なんか妙な事になってきたな)

そっと見守る安倍は、この妙な雲行きの勝負を不安そうに見詰めている。

「だ……だから拙者と……」

そして気が付けば侍野郎。お前はまだ生きていたのか。残念だが貴様の出番はない。安倍の攻撃魔法で眠って貰おう。
安倍は杖を取り出し、侍野郎にいかづちを食らわせた。
安倍の魔法を直に食らった侍野郎。あっ、息が止まってる!

そんな事はどうでもいいが、突然剣士クラスの扉が勢いよく開いた。

「太郎、居る!?」

扉を開けたのは富子だった。

「なんだヨ、富子」

富子とイマイチ折り合いが悪い安倍が、嫌そうな顔でそう言った。

「太郎がここで戦ってるって聞いて来たのよ」

「おう、確かにあそこで勝負してるけど、まだ何も始まってねーよ」

安倍と富子はにらみ合う太郎と江頭を見た。勝負というより、江頭が情けない太郎に対して怒っているだけのように見える。

「おい、そこの豚女!邪魔だからどくでござる!」

もう息を吹き返している侍野郎は、初対面の富子に暴言を吐いた。

「誰が豚女じゃオラッ!」

富子は侍野郎をジャーマンスープレックスでKOした。流石は女戦士、技のキレが鮮やかである。

「頑張るのよ、太郎!」

やたらヒロインめいたセリフを言う富子の背後で、侍野郎の脈は止まっていた。永遠にお眠り、ござるマン。

そして太郎と江頭。フニャフニャ戦法の太郎に、江頭の怒りはMAXである。

「お前、まさか舐めてんのか?手ェ抜いてんのか?」

「まさか!」

半泣きの太郎は未だに片手剣を両手で持つのが精一杯である。こんな太郎の、どこに相手を舐める余裕があるというのか。

「なら俺の攻撃を受けてみろ!」

「ひいい~」

「なんて素早い剣さばきなの。あんな強い人と太郎が同じ土俵に立つなんて無茶よ」

感心する富子に安倍は余計な口を挟む。

「うん。どうでもいいけどお前土俵って言葉スゲーしっくりくるわ」

「なんだとオラァーーッ!」

ああ……。なんか余計な戦闘まで始まってしまった。なにこれ。

【つづく】
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