勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第五章~

第26話 妖精少女、桐生やや子

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妖精のたまごというアイテムを求めて妖精クラスへとやって来た太郎。そこにはニンフと呼ばれる妖精の少女たちが居た。
太郎は早速、一人のニンフに妖精のたまごを訊ねてみた。

「あの、妖精のたまごって知ってますか?」

意外な事に、少女は驚くほどあっさり情報を教えてくれた。

「妖精のたまご?それなら持ってる子がいるわよ」

「情報早ぇな。出し惜しみしねぇな」

安倍が無粋にツッコむ。

「妖精のたまごなら桐生キリュウやや子って子が持っているわ。今案内してあげる」

少女はそう言うと、教室の一番奥の一番隅の席に案内した。
そこに座っていたのは、一人の少女。青い髪に青い瞳、そして勿忘草の髪飾りを付けた、華奢な女の子である。この少女が、妖精のたまごの持ち主、桐生やや子だろうか。

「やや子、お客さん」

少女は太郎と安倍を紹介した。やはりこの娘が、桐生やや子らしい。やや子は少し警戒した子猫のような瞳で、太郎と安倍を睨みつけた。

「……誰?」

「すんげーガン飛ばしてるな」

安倍はやや子の視線に敵意を感じたようだ。

「その子ちょっと人見知りで男の子が苦手だけど、適当にうまくやってねー」

そう言うと案内してくれた少女は離れて行った。ふとやや子の手元を見ると、そこにはダチョウの卵くらいの大きさをした何かが抱えられていた。

「あーっ!それ!手に持ってる奴ってたまご!?」

太郎は勢いよくやや子の手元を指差した。すると、やや子は太郎の手をペチンと叩き、冷たく言い放った。

「触らないで」

いきなり手を叩かれてしまい、太郎は涙目だ。というか、別に触ってないのに。

「わたしのたまごに近寄らないで」

やや子は卵を大事そうに胸に抱え、ガンを飛ばしまくっている。

「ごめんなさい……」

「いや、謝るなよ!お前別に悪い事してねーじゃん!てかまずは状況説明しなきゃ」

「あっそうか」

と言う訳で、太郎はかくかくしかじか、やや子に状況を説明したのだった。説明を聞いて、やや子も何となく状況を把握したようだ。

「つまりあなたは、わたしのたまごを必要としているのね?」

「はい、その通りです」

また叩かれたら嫌なので、いつも以上に低姿勢な太郎であった。

「てかそもそもたまごって何?おたくら卵生?」

安倍が問いただす。確かに見た目は人間のそれと同じニンフたちだが、卵を持っているとはどういう事なのだろう。

「違うわ。妖精のたまごは妖精界に伝わる伝説のような存在なの。誰が産んだのか、何が入っているのか、どうやって孵すのかもわからないの」

なんと、妖精のたまごはその詳細すら解明されていない、不思議な存在のようだった。確かにこのたまご、殻の色はピンクとパープルのツートンカラーで怪しいし、大きさから言っても中に何が入っているのか想像つかない。

「私はお母さんからこの卵を受け継いだの。何世代もかけてずっと温めているんだけどまるで孵る気配がないの……」

「中身死んでんじゃねーの」

「こら!」

容赦なく残酷な事を言ってしまった安倍を、太郎は慌ててたしなめる。

「死んでないもの!妖精のたまごは十年や百年かけて孵化することだってあるのよ!」

「百年後じゃアンタが死ぬだろうが!」

そこまで話し終えると、やや子は再び卵を大事そうに抱えた。

「とにかくこれはわたしの大事なたまごなの。あなたなんかに渡せない」

「いや、頂戴って言ってんじゃないんだけどね。どうしようね?」

「大体あなたの不幸な未来なんてわたしには関係ないじゃない。あなたの事なんだから自分で何とかしてちょうだい」

(そりゃそーだ)

そう言うとやや子は、太郎と安倍を教室からつまみ出したのであった。

「安倍氏、諦めよう!」

「うん、俺もそう思う。あんな無愛想な娘こっちから願い下げじゃ」

まったくもって取り付く島もない状態に、太郎も安倍もお手上げだ。あの桐生やや子とか言う娘、顔は可愛かったがまったくこちらに心を開く様子ではない。
これ以上頼み込んだところで、またつまみ出されるのがオチである。今まで相手にしてきた連中は望んでもいない勝負を挑まれて困っていたが、今回は相手にすらして貰えないという、完全にお手上げ状態である。

仕方がないので、太郎と安倍は妖精クラスを後にする事にした。

「大体さぁ、占いなんてあてになんないよ!不幸?どーんと来いや!どうせ今の時点で対して幸せじゃないしね!」

「悟ってるなあ」

開き直ったように悟り始めた太郎。その頃妖精クラスでは、やや子が一人考えていた。

(なんだったの、あの人。わたしの大事なたまごが必要だなんて。これは絶対にわたしが孵すって決めているの。変な人には渡さない)

やや子は大事そうに、妖精のたまごを抱きしめた。

【つづく】
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