勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

文字の大きさ
上 下
28 / 39
~第五章~

第28話 心を開いて

しおりを挟む
桐生やや子に再アタックする為(こうやって書くと告白のようだが違う)、太郎は再度妖精クラスへと向かった。

「失礼します。桐生さんいますか?」

妖精クラスの女子は度々来る太郎の顔を覚えてしまったようだ。

「あら、またあんたなの?」

妖精達が口を開く。

「やや子なら、ほらあそこ」

一人の女子が指を指した。そこには段ボールで出来た小さな小屋のようなものがあった。

(段ボールハウス!?そこまで嫌か!)

やや子はすっかり心を閉ざしてしまったようで、手作りの段ボールハウスに閉じ籠ってしまったのだ。

「なんかすっかり人に会いたくなくなっちゃったようで、こうなっちゃったの」

クラスの女子も呆れ顔である。

「あの~、桐生さん」

太郎は段ボールにそっと話しかけた。すると、段ボールに施された小窓が開き、中から一枚の紙が差し出された。

『帰レ』

とうとう口すら聞いてくれなくなったやや子。筆談で太郎を追い返そうとした。しかしこの段ボールハウス、窓も扉も付いていて、なかなか手の込んだ工作だな。

こんな感じで全く相手にされない太郎だが、ここで諦める訳にはいかない。口を利きたくないようなので、太郎も筆談で対応した。

『お話があるのですが』

画用紙に言葉を書く。(どこから画用紙を出したんだろう……。)

『断固拒否』

やや子の返事はこうだった。

『そこをなんとか……』

返事、ナシ。今回はここで諦めるしかなさそうなので、やや子に一声かけて妖精クラスを去る事にした。

「ご、ごめん。また来るから。出来れば顔を合わせてお話したいです。一日も早くそこから出られるようお祈りしています」

あんたは新興宗教かね。

やや子は段ボールハウスの小窓を開け、じっとこちらを睨んでいる。手なずけるまで、しばし時間がかかりそうだ。

さて、場所は変わって勇者アカデミーの食堂。いつものようにパーティーのメンバーで話をしている。

「やっぱ無理。あの子全然心を開いてくれないよ」

すると富子は、恋愛経験豊富なモテカワ女子の如く、太郎にアドバイスし始めた。

「あんたバカねぇ。闇雲に頼んだって協力する訳ないじゃない。まずは仲良くなる事から始めなさいよ」

説得力があるのかないのかわからないが、富子の言葉にじっと耳を向ける太郎であった。

「友達ですらないのにその子の大切なものを貸してくれる訳ないでしょ」

「えっ、女の子の大切なものって何!?エッチな話でござるか!?」

「エガ、うるさいわ」

「そっか。確かにそうだよな。よし、作戦変更だ!」

安倍は何やら意気込んでいる。そもそもいつから作戦になったのだ。

「桐生やや子スカウト作戦から桐生やや子口説き落とし作戦に変更だ!キャー太郎さん素敵!抱いて!って言わせてみろや!」

「やっぱりエッチな話をしているでござる」

「は?バカこくでねぇ、なんで俺がそんな軟派な真似を」

ただでさえ女子に縁のない生活をしている太郎に、女子を口説くなんてできるはずがない。

「だってそうするしかないじゃん!チャラ男になれ太郎!」

「ムリムリ!」

作戦変更したが、むしろ以前より難易度が上がっている気がして、太郎はすでに逃げ腰だ。

一方安倍は余裕そうにこう言う。

「女の子なんて適当に褒めりゃ機嫌よくなるさ」

これに対して富子は少々ご立腹。

「なによ!人を単細胞みたいに!」

すると安倍は艶っぽい流し目をして富子に甘く呟いた。

「富子……最近綺麗になった?」

突然褒められて富子は思わずにやけ顔になった。

「えっ!?」

そして間髪入れず安倍が言う。

「嘘だよバーッカ!」

「ああ!?言いやがったなコノヤローッ!」

また安倍と富子の喧嘩が始まってしまったので、太郎はしぶしぶ桐生やや子口説き落とし作戦を実行する事にした。
哀愁漂う背中をして去っていく太郎に、エガはひっそりとエールを送った。

(頑張るでござるよ太郎殿!男は度胸でござる!)

さあ再びの妖精クラス。教室の隅に作られた段ボールハウスには、まだ桐生やや子が閉じこもっているようだ。

「桐生さん、もう無理矢理お願いしないから少し話してもいい?できれば出てきて欲しいな。じゃなきゃ俺、段ボールに話しかけている危ない人だよ」

段ボールはビクともしない。

「せめて一分だけでもいいからさ」

すると段ボールの扉がわずかに開き、中からやや子が顔を出した。

「……一分でいい?」

思ったより簡単に出てきてくれたが、さてここからどうしよう。安倍が言うには女子は褒めればいいようだが。
褒める、褒めるって?太郎は改めてやや子の容姿を見た。青い髪、青い瞳。頭には勿忘草の髪飾りを付けている。清楚な白いワンピースがよく似合う、華奢な美少女だ。
口が達者な人間であれば、褒め言葉などいくらでも出てくるくらいの上玉である。

「あ、あのさ、桐生さん。その服……」

太郎は必死に褒め言葉を考えた。

「クラゲみたいだね!!」

ドアホーッ!実は心配でこっそり廊下から様子をうかがっていた安倍は、太郎のバカな言葉に思わず突っ込みを入れたのだった。

【つづく】
しおりを挟む