勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第六章~

第31話 5人目の仲間!

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勇者の朝は早い。勇者アカデミーの男子寮では、太郎とその他勇者たちが朝を迎えていた。

「おーい、勇者イサモノ。そろそろ起きろよ」

ルームメイトのモヒカン男が声を掛ける。最初はおっかなかったが、今では良き友人だ。

「あ、おはよ。なんかね、変な夢見たよ。ザリガニ大統領って言うの。ザリガニがね、yes we  can って言ってたよ」

「疲れてるんだな……お前」

ルームメイトに心配されつつ、太郎はいつもの制服に着替える。このダサい制服もすっかり着慣れてしまった。
さて、今日も朗らかに、朝の授業である。一時間目の国語では、網走先生が教科書を読み進める。

「すると魔王は言いました。勇者よ、貴様の力はその程度か?」

一体どんな内容の教科書だ。

「だ、だ、誰がその程度じゃーっ!アホンダラーッ!」

教科書の内容にキレた網走先生は、教科書を破り捨て教卓を蹴り飛ばした。これも勇者クラスの日常茶飯事である。
太郎は慣れた様子で授業を受けたのだった。

時は流れて昼休み。太郎はやや子と二人、廊下を歩いていた。

「やや子、今からパーティーの仲間に挨拶しようよ」

あれ?コイツいつの間に、桐生さんから下の名前呼びになっているだと?意図的かどうか知らないが、ちゃっかり親睦を深めている様子だ。

「どうして」

やや子は素っ気なく言い放った。

「どうしてって、ダメだよちゃんと挨拶しなきゃ。楽しい仲間がポポポポーンだよ?」

そんな事をダベりながら廊下を歩いていると、背後から網走先生が近付いてきた。

「おう、勇者イサモノやないか。アイツ何やって……。……!?」

網走先生は血相を変えて太郎とやや子のもとへ走ってきた。

勇者イサモノ―っ!」

「わ、びっくりした」

「お前だけはっ!女とイチャイチャせんと信じていたのに!」

「はあ……?イチャイチャ?」

なんだかわからないが、網走先生は酷くご立腹だ。

「なんや!女連れて歩いたりして!自慢か!」

「そんな訳ないでしょう」

「ちっくしょおーっ!ワシかて!本田翼ちゃんみたいなマブい子と付き合いたい!」

「それは無理だろう」

いつかは網走先生を怖がっていた太郎だったが、今ではすっかり慣れたのか、いっちょ前に生意気を言うようになった。たくましくなったと言うべきか。

「先生勘違いしてる。この子はこの前パーティーになった仲間ですよ」

太郎は網走先生にやや子を紹介した。

「なんや、そうなんか?後ろから見てたら仲良さそうでアベックみたいやったで?」

これを聞いたやや子は、急に顔を真っ赤にしてどこかへ走り去ってしまった。

「ああっ!やや子!先生の顔が怖いから逃げちゃったよ」

そうではないと思うが。

「なんや!?フラれたか!?フラれたんか!?サマーミロー!」

網走先生は大人げなく太郎を馬鹿にするのだった。

やや子はというと、廊下の隅まで走りきって、高鳴る胸を抑えていた。

(やだ……。あの人なんであんなこと言うの。わたしと太郎が、仲良さそうだなんて……)

ガラの悪いオッサンにひやかされただけなのに、やや子の胸はドキドキと激しく鼓動した。顔が火照って熱い。

「やや子!」

背後から声がした。太郎が追いかけてきたのだ。

「大丈夫だよあの先生、ムショ帰りみたいな顔だけど一応いい人だから」

どんなフォローだ。

「さ、行こうよ」

太郎はやや子にそっと手を差し伸べた。しかしやや子は手を取らなかった。嫌な訳じゃないのに、なんだかつい素っ気なくしてしまうのだ。

(わたし、なんで太郎にはこんな態度取っちゃうんだろう)

不思議な感覚のまま、やや子は太郎に案内され42番パーティーの元へと向かったのだった。

「えーと、紹介するね。新しく仲間になった桐生やや子さんです。仲良くしてね」

いつも通り食堂に集まるパーティーのメンバーに、やや子を紹介する太郎。
ところがどっこい、人見知りの激しいやや子は柱の陰に隠れてしまっている。

「そんなところにいないでさ、出てきて挨拶してよ、ホラ」

太郎はやや子を引っ張り、パーティーの前につき出した。

「よろしく……」

たった一言、これだけがやや子の挨拶のようだ。

「太郎殿、ちょっと」

その時、エガがはーい、と手を挙げた。

「いくら太郎殿の命の為とはいえ、あんなか弱そうなオナゴに戦闘などできないのでは?」

珍しく真っ当な意見を言うエガ。
それを聞いていた安倍は

(でもお前よりは使えると思う)

と、心の中で毒づくのだった。

「それは、皆でフォローしてあげてね?」

頼りなく言う太郎。
エガはやや子の元に近付き、改めて顔を見合わせた。

「ん~、でもまあいいでござるか。よく見るとなかなか可愛い……」

その時、やや子の手から赤い何かが放出された。熱い気を放ちながら、エガ目掛けて何かが飛んで行ったのだ。

「えっ?」

呆気にとられるエガ。すると一瞬にして、エガの前髪が燃え上がってしまったのだ。

「ッキャーー!燃えてる!燃えてる!め組の人来て~!」

「ななな、なにこれ!?やや子の手から火が出たよ!?手品!?」

太郎はなんだかトボけた感想を述べている。

「精霊魔法」

やや子の手には、燃え上がる炎のような気をまとった、小さな精霊の姿があった。

「火とか水とか、自然界の精霊を使った魔法よ。簡単な攻撃くらいならできるわ」

「そ、そうですか……」

桐生やや子。思ったより強そうだ。

【つづく】
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